第19話:体育祭

 やってきました体育祭。


 色々な過程をすっ飛ばして、とうとうこの日になってしまったけれど。

 教室の中に入った私はクラスメイトたちの熱気に踏み出す一歩が止まった。応援団員が燃えているのは理解できる。今日まで、放課後はずっとパフォーマンスの練習をしていた訳だし。頷ける。リレーメンバーがソワソワしてて、やる気に満ち満ちとしているのも分かる。私も含めて、数少ない練習でも充実してたもんね。


 だけど、他の子たちのこの熱量はなんだ。

 まるで優勝の、その先にある何かを目指している目だ。


「なんでこんなに盛り上がってんの?」


 私が知らないことだ。

 言っちゃあれだけど、私よりも友達の少ない菜乃葉が理由を知ってるとは思えない。


「なんかね」


 !??

 私の知らないことを、菜乃葉が知ってる!?


「ここだけの話、体育祭でうちのクラスが優勝したら、真希ちゃんを打ち上げに誘うんだぁああ!!っていう流れになって、盛り上がってるらしい」

「なにそれ」


 うちの体育祭は色で別れることなく、各学年の各クラスで競い合うスタイル。それに優勝したら、私が打ち上げに参加??

 え、それ、本人が当日まで知らないってやばくない?私、そういう打ち上げとかは参加しないタイプなんだけど………


「え、行く気無かったんだけど……」

「だからじゃない?みんな、真希ちゃんに打ち上げ来て欲しいんだよ」

「えぇ、なんでだろ」

「そりゃ…………真希ちゃんは一番人気のヒロインだからね」

「えぇ、なにそれ」

「真希ちゃんが思ってる以上に、真希ちゃんはみんなから好かれてるってことだよ。(一番好いてるのは私だけどね)」

「そ、そうなのかぁ。でも、まぁ、じゃあもしも優勝出来たら、今回の打ち上げは参加してみても良いかな」


 ほんとに私が打ち上げに参加するなんてことが、体育祭で優勝することの報酬に値するのかは定かじゃ無いけど。

 でもまぁ、それによってクラスメイトたちが頑張れるのなら、それはそれで嬉しいものだ。


「うん。真希ちゃんはむしろ、打ち上げとか行くタイプに見えるからね。行った方がいいよ」

「え、私、そんなタイプに見える?」

「うーん、、私は真希ちゃんがそういうのに参加しないのは元から知ってたけど。普段のキャラ的には、むしろ率先して行きそうじゃない?」

「そうな風に見えてるのか」


 まぁ、中学生の頃から私は打ち上げとかそういう、クラスでの集まりには参加していなかったから菜乃葉がそれを知ってるのは別におかしなことじゃない。

 けど、普段のキャラとか見た目で、っていうのは、正直いまいち理解しかねる。


「あ、そうなったら??打ち上げ」

「え?わ、私??」


 意趣返しとばかりに、私と同じであまりこういう打ち上げとかには参加しない菜乃葉も誘う。ニヒヒ♪と笑いながら。


「絶対に行くよ。たのしみ」

「………へ?い、行く気満々だね」

「え、なんか変かな?」

「……いや、そだね。何にも変じゃない。まぁ、とりあえず今は優勝出来るように、そして足を引っ張らないように頑張ろっか」

「うん!そうだね!!真希ちゃん、リレー応援してるからねっ!」

「うふふ、ありがとう」


 菜乃葉が応援してくれる。


 それが分かっただけで。私の心の中にも火が灯き始める。体育祭、楽しむことを主に考えて学校に来たけれど。リレーだけは本気で頑張ろうと思う。大丈夫、あんなに充実した練習をしてきたんだし、何よりも、私は応援して欲しい人に「頑張って」と言ってもらえるんだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る