第12話:この気持ちは誰のもの? 前編

「真希ちゃん、明日は私が二人分のお弁当を作るよ」

「えっ、菜乃葉が?」


 お泊まりをした日から、一週間くらい。

 あの日から、私たちの関係は大きく変わった………的な展開にはならず。

 あまり進展は無い。

 いや、あるっちゃあるんだけども………


 私はジーッと真希ちゃんの可愛い顔を見つめる。


「な、なに?そ、そんなに、、ジロジロ見ないでよ////」


 口元を右手の甲で隠し、仄かに頬を朱色に染める真希ちゃん。良い反応。良いキョドりっぷりだ。

 変化を進展と呼べるのかは分からない。分からないけれど、あの日から唯一変化したことと言えば、それは真希ちゃんがあの日からずーっと、私の前でしょっちゅうキョドることである。


「んーん!なんでもない。ただ―――」

「た、ただ?」

「真希ちゃん、すっごく可愛いなぁって思ってた!!」

「なっ!?〜〜〜〜っ///」


 あはは。照れてる真希ちゃんも。キョドるその仕草も。全てが愛おしくて尊くて、私の心はどうにかなってしまいそうだ。


 決心をした私こと と、百合ゲーで一番人気のヒロインである夜凪やなぎ 真希まきちゃんの、そんな日常的にありふれてそうで、ありふれて無さそうなお昼休みのワンシーン。


 私よりも先に食べ終えて、私の向かい側に座って小説を読んでた真希ちゃんが、不貞腐れて文庫本を顔の前に持ってきて、その可愛い顔を私の目から隠してしまったことに何とも言えない寂しさと、それから嬉しさを覚える。


 真っ赤になった耳までは隠しきれて無くて、私の言動に振り回されてる真希ちゃんが可愛らしかったから。


 真希ちゃんは顔を隠していた文庫本を、少しだけズラしてパッチリとした目を覗かせると、、、


「………ばーか」

「〜〜〜っ///」


 ゾクゾクと震える。可愛いすぎて、鳥肌が立つほどに。


 ここ一週間で、こんなやり取りがすっごく増えたなと思う。

 いや、私が転生してから、まだ一ヶ月も経ってはいないけれど。それでも、菜乃葉ちゃんでさえ、以前の私でさえ、こんなにも真希ちゃんの『可愛い』を引き出せてるとは思えない。


 そう感じるほどに、この一週間はとても濃かった。可愛いに溢れていた。


 もしかしたら、と思う。

 もしかしたら、真希ちゃんも少しは菜乃葉ちゃんのことがで、気になり始めてきたんじゃないかって。


 ただ、決心をしてから薄々こうも思うようになっていた。


 果たして、もし仮に真希ちゃんがに好意を持った場合。その真希ちゃんの『好き』という気持ちは、誰に矢印が向いてるのだろう。


 今の菜乃葉に好意を持ったなら、それは転生したのことが好きになり始めたってこと?それとも、やっぱり昔から仲良くしてきたのことが好きになり始めたってこと??


 真希ちゃんの気持ちは、誰宛てになるのかな。

 そういうところ、たまによく考えちゃって、その都度また考えないようにしている。


 だって、毎回その考えて考えて行き着いた先に辿り着く思考の果てには、またもう一つのが待っているから。


 私はその疑問の答えを、、、、、


「だいたい、菜乃葉って料理できるようになったの?」

「えっ?」


 潜り込んでいた思考が、真希ちゃんによって引き戻された。


 と言うか、毎日二人分のお弁当を朝早くから作って来てくれる真希ちゃんのお返しをしたくて、何も考えずに提案してしまったけれど。


 そういえば確かに、私は料理ができない。と言うか、前世はほとんど闘病生活で病院にいたから、料理の経験自体がまったく無い。


 そして、この真希ちゃんの言い草から推測するに、きっと菜乃葉ちゃんも料理はからっきしなんだろう。毎日真希ちゃんにお弁当作ってもらってるぐらいだし。


「あ、あはは。………で、でもでも!ちゃんと今夜でみっちり練習するもん!」

「一日でマスター出来るほど、料理の世界は甘くないよ。菜乃葉」

「え、えーっと、、、」

「はぁ――――じゃあ、これから少しづつ、私が菜乃葉に料理を教えてあげるよ」

「え?」

「それで上達したら、その時には二人分のお弁当をお願いするから。それまでは、私に作らせて?」


 そんなの、願ったり叶ったりな提案だけど……


「いいの?」

「なにが?」

「その、、迷惑じゃない??」

「迷惑なんて思うわけないじゃん。菜乃葉と一緒にキッチンに立つの、ちょっと楽しみなぐらいだよ」


 ………真希ちゃん。ゲームでも一番人気になるはずだよ、こりゃ。

 見た目が可愛くて、性格も良くて、そして可愛くて。もう無敵だよ。

 やっぱり私は真希ちゃんが好きだよ。


「じゃあ、よろしくお願いします」


 私はわざと畏まって、真希ちゃんに頭を下げた。


「ふふふ。こちらこそ、よろしくお願いします」


 真希ちゃんも私に習って頭を下げた。


 もしかしたら、今の私たちの一連の行動は日常的なワンシーンには、少しばかり成り得ないかもしれない。

 例えるなら、並んだラムネ瓶の中のうちの一本。その一本のラムネ瓶の中には透明なビー玉じゃなくて、透明なおはじきが入ってるような。


 そんな、私たちのワンシーン。


 それを私は心の中で、今も尚、増え続ける一方な思い出の宝箱に、新しく詰め込む。


「じゃあ早速、今日の放課後に菜乃葉の家に行ってもいい?」

「え?」


 そ、それは急すぎないかな?真希ちゃん。

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