第13話:この気持ちは誰のもの? 後編

 ということで、真希ちゃんが我が家にやって来ました。真希ちゃんが家に来るのって、私が転生した初日以来だ。


「菜乃葉が高熱で倒れて、看病に来たのが二週間くらい前なのに。妙に懐かしく感じる」

「そうだよね!」


 どうやら真希ちゃんも私と同じことを思ってたらしくて、それが無償に嬉しくて。ついつい、いつもよりも少し大きめな声で返事をしてしまう。


「材料はあるんだよね?」

「うん!お母さんが大抵、冷蔵庫に何でも用意してるから」


 原作では、天野 菜乃葉の家は一回も出てこなかったし、親もモブみたいな扱いだった。

 だから転生した初日、私は菜乃葉ちゃんの親がどんな人か気になってたんだけど、実際に会ってみると案外、普通に良い人たちだった。


 普通に賑やかなお母さんで、普通に優しいお父さん。


 私はてっきり、菜乃葉ちゃんの親なんだからもっとこう、二人とも物静かな印象を予想してたんだけれど。ものの見事に外れた。


「なのちゃーん、帰ったら「ただいま」くらい言いなさーい。………って、あら?あらあら!いらっしゃい真希ちゃん!今日は家で遊んでくの?それともお泊まりしてく?しっかり真希ちゃんのパジャマもあるし、泊まってくなら今日の晩御飯は、おばさん、寄りを振るっちゃうけど!!!」


 専業主婦のお母さんは私が帰ってくる頃には大抵、家にいる。

 それにしても、やっぱりまだ、このお母さんのテンションの高さには着いていけない。きっと、菜乃葉ちゃんも着いて行けてなかったんじゃないかと思う。


 でも私はこのお母さんと、それから優しいお父さんのことが割と好きだ。


 お母さんとは性格も真反対なんだけど、、、


 どこかに似てるところがある。


 改めて思う。ほんとには、と似ているんだ。だから、私は真希ちゃんの次にこの子のことが好きだった。


 真希ちゃんはもうすっかり長年の付き合いで慣れたもので、頭を下げながら「お邪魔します」と礼儀正しく挨拶をしている。


 それよりも、、、


「ど、どうする?真希ちゃん」

「んー、じゃあ、今日は泊まろっかな」

「ほんとに!?やった―――」

「―――あ、でも」

「??」

「や、やっぱり、今日は教えたら、帰るよ」

「え、なんで!??」


 急に意見を変えたことに、私は驚きと悲しさが合わさった衝動で真希ちゃんにグイっと顔を近づける。


「ちょっ!ち、近いよ菜乃葉!!そ、そういうところ!」

「………どういうところ?」


 真希ちゃんに肩を軽く押されたので、渋々距離を空けてから尋ねる。


「……その、泊まるってことは、な、菜乃葉とお風呂とか、あとは寝る時も、一緒でしょ?」

「まぁ、そうだね」

「その、なんか…………恥ずかしい」

「っ――――」


 呼吸が止まる。

 頬に手を当てて、必死に赤く染まったそれを見せないようにする仕草。

 でもやっぱりは隠せない耳はその照れの度合いを表していて。


 あぁ、尊くて、可愛くて、、、


 考えないようにしてたものが、また頭の中を埋め尽くす。

 真希ちゃんのこの反応は、いったい誰に向けたもの?真希ちゃんのその感情は、いったい誰宛て?その感情を受け取るのは菜乃葉ちゃん?それとも私?


 あなたの『好き』という感情気持ちは、誰のものになるの???


 そして毎回、その思考の果てにある大きな疑問にもまた、今回も辿り着く。


 そもそも、私が真希ちゃんを『好き』だと感じているこの気持ちは、本当に私の感情だろうか。

 例えば、菜乃葉ちゃんの心はまだ今も、しっかりとに存在しているのだとしたら?私が今感じてることは、菜乃葉ちゃんの心に引っ張られてない??


 本当の私の心は、真希ちゃんをどう思っているのか。


 きっと簡単にしちゃえば、答えは一つなんだけれども。私はこの思考の疑問も。複雑な感情迷路も。こんがらがったままが良い。

 少なくとも今は、それでいたい。


 これを簡単に終わらせたくは無い。


 だって、菜乃葉ちゃんの気持ちが関わっているのだから。


 きっと今、この身体の中では私の心と菜乃葉ちゃんの心が二つあって、その間を幾度も真希ちゃんという存在が通って。私たちはそうやって動き続ける。


 時にはぶつかるかもしれない。それでも最後には適度な距離が、近くても、遠くても、見えてくるはずだ。

 それはきっと、『おはじき』みたいに。


「お母さん、真希ちゃん今日泊まるって!」

「え?ちょ、菜乃葉!??」

「それとお母さん」

「んー?なーに??」


 私たちを温かみのある笑顔で見つめていたお母さんは、慈愛の籠った目で私を見ている。


「今日の晩御飯は、私が作る」


 お母さんは少しだけ目を大きく見開いた。けれどすぐに納得したように頷いて、私ではなく真希ちゃんに言った。


「それじゃあ真希ちゃん。知ってると思うけど、この子、色々と不器用だからさ。丁寧に教えてあげてちょうだい」

「え、あ、わかりました!」


 その返事にまた頷いたお母さんは、リビングに戻っていく。


 私たちは洗面所で手洗いうがいを順番に終えた後、お母さんがいつの間にか買っていた私と真希ちゃんのお揃いのエプロンを付けて、二人並んでキッチンに立った。



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