第5話 因果路


「……」


消し飛びそうな意識の中、彼女は今までを振り返る。

自身の命を消費して、人界の力を発揮する。ソレ自体は、『飢餓』には当たり前のことだった。

だが、余りにも異常だった。

いくら少女が若く、■■■■■の娘とは言え、単純な寿命だけで言えば、ドーラの方が数倍はあるだろう。

力関係を逆転させるのはおかしい。


「……しくじった」


物理法則の延長線上に、彼女はいなかった。あの時点で、躱す以外の選択肢は無かった。


「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


ハルバードを地面に落とし、両手を太ももにつけながら、喘ぐように呼吸していた。

きっと、勝ったと思っているのだろう。

だが、彼女はまだ死ねない。

王を殺すまでは。

ようやく掴んだチャンスを逃す訳にはいかない。


だから、同じ手は踏まない。


「な!?」


消し飛ばされたドーラの右半身が、黒く染まる。

この世界で寿命と言うモノは全ての源だ。ソレなりに支払えば、なんでもできる。

それこそ、死に体を再生させることだって。


「……あぁ、悪いな、死ぬ訳にはいかねえんだ。王を殺すまではな」


五体満足の傷なき身体。

彼女も同じように、命を使った。

ただ、肉体の再生……特に無からの創造はかなりの力を要する。

今までの分は、『骸なる狂気』で集めた分で戦っていた。

お陰で、最低限の出費に収まった。


だが、死にかけの肉体は、彼女との戦いを望んでいない。

王を倒すのならば、少女ともまた戦わなくてはならない。

倒すだけなら造作も無いが、流石に今は難しい。


「……撤退、か」


ソレ以外に、彼女に残された道は無い。

不服だったが、背に腹は変えられない。


「……じゃあな。クソ野郎ども」


飛んでいって、彼女は夜明けに消えていった。


「……疲れた」


地面に尻餅をついて、アストラルは大きく息を吸った。

寿命の七割を使って、ようやく彼女を撤退させることができた。

疑問は複数個残っているが、何より疲労感がどっと彼女を襲っていた。


『寝るなよ』


エディアの声で目を擦り出した。


「アストラル!」


「行くな」


橋の上から叫んだ修の肩を叩く王。

黒い風は、嘲笑うように橋を包む。

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