第4話 始まりを、得るために


「……!」


「遅い!」


繰り返すは10度。

刃がぶつかり合い、拳と足が交わり合う。

加減なき、全力同士がぶつかり合う。

橋を支える柱が、戦いの跡として砕け散る。

バン!と、一つ一つが弾丸のように、橋と二人を襲う。

彼女たちの周りに風穴が空き、少しずつ、崩壊が始まった。

いくら夜明けで交通量が少ないとは言え、多少の車は通る。


「な、なんだあれ!」

「ひっっ!いや、死にたくない!」

「映画の撮影か!?」


スマホをかざした野次馬が、橋の先端に集まってきた。

修は男を横目に見る。

彼の意思を読み取ったのか、男は自身の力を発動させた。


それは、黒い風。


「夜の霧」


呟いて、爆風に橋は包まれた。

内からも、外からも状況は見えない。

音も上書きされ、ある意味、何も無いと言えた。


「はぁ!」


落下と共に、ハルバードを振るう。

空間を歪め、斬撃として透明の刃を生み出した。


「甘い!」


寸でで躱し、カウンターと言わんばかりに槍を突きつける。

同じく紙一重で躱す。

躱された槍はそのまま橋の中央を砕き、巨大な風穴を開けた。

バク転の姿勢で崩壊から逃げ、間合いを作り直す。


未だ、修の方に被害が来ないのは奇跡だった。


拒むものカルガルム。なぜこの街に来た」


殺気を交差させ、刃を向けながらアストラルが問う。


「王がこの街にいるんだ。ソレ以外の理由は無えよ!」


『王だと?』


黙り込んでいたハルバード、エディアが口を開いた。


「ああ。奴がどれだけ気配を消そうが、歪な命。忘れる訳がない」


王も同じく『飢餓』だが、基本的に『飢餓』は同仕打ちを行わない。

ドーラの恨みは相当なものだった。


「そして、コレは奴の結界」


ドーラは敵を前にして背中を向いた。


「お前なんざ、どうでもいい!」


言い放ち、クルカイをぶん投げた。


「修!?」


そして、ソレは修の方向。

軌道は一直線に、橋の上にいた少年を貫こうとしていた。


「!?」


修は動かない。

ばん!と音を立て、クルカイは少年に触れることなく弾かれた。

背後ではなく、正面にソレは立つ。

黒いマントを靡かせ、白い仮面を被った異物。

夜明けが照らす、最悪の飢餓。


「……」


ドーラ以外が黙り込んだ。

理由は一つ。

余りにも、存在が異質すぎた。

冷や汗が止まらず、ソレを直視することすらできない。噂話以上の伝説。

だが、アストラルとエディアはその姿を見ることができていなかった。

正確に言えば、彼女らが見たのは、モヤだった。輪郭が歪んでいた。


「……」


「死ぬことすら許さん。お前は」


弾き飛ばされたクルカイは放物線の軌道を描き、ドーラの元へ。

がしっと掴み、ぶん!と槍を振るう。


「此処で喰らい尽くしてやる■■■■■■■■!」


異物の名を叫んだ『飢餓』は、アストラルを振り向かず、跳躍した。

マッハを余裕で超え、死の刃が修目掛けて跳ぶ。

王が迎撃しようと右手をかざす。


「……」


「なぜだ」


刃が触れる。

だがそれは、アストラルの武器、クリシュナに。

間の間合いに入り込み、剛力を押さえ込んでいた。


「王だとか、私にはよく分からない」


空中で力の押し付け合いの中、アストラルが口を開く。


「17歳になって初めて、助けたいって思った」


「は、だからなんだ!」


更に力強く、今にも押し潰されそうになる。


「誰だろうと、殺させない」


「!?」


決意に応え、クリシュナの出力が上昇した。押し潰されかけていた状況が、逆転しかけていた。


ばん!


地面に落下し、間合いを作る。


「ならば、死ね!」


残像が動き出す。


すでに彼女らは空中で打ち合っていた。

かん、かん!と鈍く、甲高い金属音が響き渡る。

先程までより激しく、斬撃が辺りを破壊する。細切れになって、切り刻まれて。


(■■■■■の子の潜在能力はここまで高いのか!?)


正直言えばドーラはかなり余裕が無くなっていた。弄ぶことはもうしない。

数万年生きた彼女はかつての大戦以来の焦りを見せた。

簡略化された死が交差し続ける中、アストラルも余裕が無かった。

もとより、まともに戦うことすら奇跡の戦力差。

それを一時的とは言え追い詰めることに成功した。


(もってあと3分。それ以上は無理)


『一撃で仕留めるぞ』


「うん!」


引き攣っていた顔に微かに笑顔が溢れた。


(力の流れが、変化した!?)


焦りは、アストラルに届かない。

ハルバードを押し付け、槍が押さえつける。

ばん!

拮抗状態を砕いたのは、アストラル。


「はぁ!」


勢いそのまま、寿命の7割を使った一撃が、ドーラの右半身を消滅させた。


「……な……に」


自身の状況を理解できたのは、10秒経って。

白亜の橋が、赤く染まった。


「ぐっ!」


左手で右手を掴もうにもからぶってしまう。


決着は、着いた。

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