「小説を、書いてみているんだ。」彼はまた、それを唐突に告げた。


「ああ、そういえばそんなことも言っていたな。ちなみにどんなものなんだ?」


「それは、出来上がってからのお楽しみさ。」そう言った彼は、さほど楽しげではなかった。


「まあ、俺自身もどんなものが出来上がるのか見当もつかないんだがね。」


「……一応確認するが、書いているのはお前なんだよな?」


「もちろん、書く主体は俺だ。だが」彼はここで一息ついた。


「書かれる主体は他の誰でもなく、物語の登場人物たちだ。そして彼らはしばしば、俺の想定を超える行動をする。」


「登場人物の行動までは制御できない、とでも?」


「ああ、俺が決められるのは物語の大まかな流れだけだ。それ以上は、俺にはどうすることもできない。」彼はその現状に苦悩しているようにも見えた。


「先に全部決めておけばいいんじゃないか。俗にいうプロットだが。」


「でも、プロットありきの物語って、あまりにも作為的じゃないかな。」


「全てがとっ散らかった物語よりはましだろう。」


「うぅむ……。」そう唸って、彼は黙った。

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