第10話 「カりは作らない主義なんだ」

「…………空を飛べッ ……フライ! ……空中浮遊!」


 優太はビアードに魔法の才能があると言われた為、それならばなんとか自分も使えるようになりたいと思った。そこで空を飛びたいと念じながら、手当たり次第に思いつくままの言葉を叫んでいみた。


 だがしかし、先ほどからピクリとも体が浮く様子はなかった。これではただの不審者である。


「おかしいな じいさんの言ってたコツ通りなら、この方法で正しいはずなんだけど」


 幻想イメージを現実にする力。


 ビアードが優太に伝えた魔法理論は、かつて優太が影鬼シャドウデーモンに命がけの特効を挑もうとしたときに、俺を思いクレアが涙ながらに諭してくれた言葉だった。


 ―やっぱり、クレアの言ってたおじいさんていうのは、ビアードの事だったのか?―


 森を進んでいた優太の足が止まる。本当に、このまま村から去ってもいいんだろうか。優太はそう思い始めていた。



 ビアードが村人たちの相手をして気をそらしている間に、優太はこっそりとグロッチ村の周囲の森に入った。ビアードの言った通りなら、このまま真っすぐ進めば平原に抜け、その先に大きな街があるらしい。


 街までいけば、もうゴブリンなどの魔物に殺されたりする心配もなくなるだろう。

 しかし優太はビアードの言っていた事が気になり、なかなか歩みを進める事が出来ずにいた。途中なんども立ち止まっては振り返ってしまうのだった。


 ビアードは自分が身代わりになるとも言っていた。正直、知り合ったばかりの老人がどこで死のうがどうでも良かったが、ビアードには廊を出してもらった恩があるし、魔法とか気になることもあり、もっと聞きたいと思っていた。だからできれば死んでほしくはなかったのだ。



 その時、前方から村の人間らしき人影が迫ってきたため、優太はとっさに脇道に身を隠した。


「聞いたか、処刑がもうすぐ始まるらしいぞ」


「予定じゃ捕らえたよそ者は、サンが昇り切ってから洞くつに連れて行くんじゃなかったか?」


「いや、よくわからんがもう始めるらしい とにかく急ぐぞ」


 二人の村人は合流すると、走って村の方へ駆けて行った。


 それを見送った後、優太はだれも居なくなったことを確認してから脇道からでた。

 そして優太は首にかけてあった金のロケットを服の内側から取り出すと、手の上に乗っけてそれを眺めた。


 このままだとビアードは魔軍団長ゾディアックに確実に殺されるだろう。そしたらクレアも悲しむ。

 しかしだ。もし、俺がなんとか隙をついてビアードを助けられたら、クレアにも、もう一度振り向いてもらえるかもしれない。


 優太はロケットを強く握ると、再び大事に首からかけなおした。そして見失わないうちに急いでさっきの二人の後を追いかけ始めたのだった。



 二人の村人はグロッチ村の奥にある山の斜面にできた洞くつに入っていった。

 入り口の大きさは大人でも軽々入れる程の空間があった。しかし洞くつの先は真っ暗やみが広がるのみで、優太が今いる場所からでは中の様子は分からなかった。


 ―どうする? 中に入るか、このままもう少し様子を見るか……―


 洞くつの中の様子が分からない以上迂闊に動くことはできなかった。もしかしたら待ち伏せなどされてる可能性もあるからだ。

 そんなことで失敗したくはなかった。


 そのとき、村の方から数人がやって来たので、優太は慌てて姿を隠した。


 物陰から様子を窺うとそれは、縄に縛られて航測された状態で二人の村人によって運ばれていたビアードの姿であった。

 村人二人は一度どうくつの入口で立ち止まった。


「ビアードさん……あんたがあのよそ者を逃がしたんだってな なんで、そんなことを」


「わしゃあ、今年で百五十になる。もう十分に生きたんだよー」


「だからもう死んでもいいっていうのか? あんな迷いの森で迷ってたような得体のしれない奴の代わりに?」


「…………」


 その言葉にビアードはただ沈黙を貫いた。するともう一人の村人がビアードに追い打ちをかけるようのこういった。


「私たちは今までビアードさんの魔法で何度も助けられてきた。私もあなたには死んでほしくなかったよ……」


「…………すまん」



 彼らが洞くつに入った後、俺はなるべくこっそりと洞くつに入った。もうあまり時間はなさそうだ。

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