第8話 白銀の来訪人
クレアが牢から立ち去った後、優太は部屋の隅で小さくなってうずくまった。そして彼女の事を思い出すと涙が流れた。
今まで優太にとって、他人など自分の評価を上げるための道具かただの障害に過ぎなかった。そんな自分が誰かに好意を抱くなどと想像もしていなかったのだ。
しかしすべては幻想であった。クレアが突き放すように放った言葉は優太の心を深く傷つけた。
―……好きだったのにっー
しばらく泣いた後、優太は泣き止むと、彼女の言っていたことを考えていた。
彼女は気になる
クレアの様子からして嘘は言ってなかった。
つまり明日、俺はその「
あと優太は魔法は使えなかったが魔力に関してだけは少し心あたりがあった。
それはかつて迷いの森でゴブリンを倒したとき、死体から出てきた青白い霧を体に吸収したのだ。その時、不思議と力が湧いてくる感覚があったのだ。おそらく魔力とはあれのことだろう。
「まだ分からないことだらけだ。だけど、とりあえずここから出ないと殺されてしまう」
しかし牢屋として使われているこの部屋には窓もなく、当然扉も固く閉ざされていた。簡単には逃げられそうにない。
それでもあきらめられずにどこか逃げられる場所はないかと、部屋中をくまなく調べたがそんなものは見つからなかった。
「ダメだ、見つからない……クソ、待つしかないのか」
俺を
となれば扉が開くのは俺が生贄にされる明日ということだ。
今はまだ日が昇っている。まだ時間は余分にあった。
すると優太は横になり硬い床の上で寝息を立て始めた。
数時間後、優太は頭の中に響く足音で目を覚ました。足音からして何人かがここへ向かっているようだった。
まだそれほど時間は経っていないはずだけど。そう思いながらも優太は扉を開けたときに視界の外になる場所へ身を潜めた。
足の錠は既にはずしてある。幸い手はふさがっていなかったし鍵も単純な仕組みだったので外すのに時間はかからなかった。
そのうち足音は優太のいる部屋の前で止まった。そして男の物と思われる話し声が聞こえてきた。
「こんなことして、本当にいいんでしょうか」
「大丈夫だって どうせこいつは生贄になるんだ。多少傷ついてたって同じことさ」
二人組の片方は懐から鍵束を出した。
「おれの兄貴が警備係だから鍵をもってこれたんだぞ」
「わかってるさ 見つからないうちに済ましちゃおうぜ」
「おうよ、だが……牢の鍵はどれだっけか」
扉の向こうからガチャガチャという金属がぶつかる音が聞こえた。会話からおそらくこの部屋の鍵を探しているのだろう。
あいつらが扉を開けた瞬間に、とびかかり武器をうばう。優太はそう決めると、まるで物陰から獲物をねらう野生動物のように扉の方を向き集中を高めた。
しかし結局、二人組がこの扉を開けることはなかった。
少しした後、再び男の話し声が聞こえた。
「あった この鍵だ」
その声を聞いて優太は二人が扉を開け中に入ってくると思い身構えた。しかし次の瞬間に聞こえたのは扉が開く音ではなく、何か重い物が地面に落下する鈍い打撲音が二回だった。
その後扉がゆっくりと開くと、優太が見たのは村人らしい男が二人地面に倒れている所と、足音がしなかったのでいつ来たのか分からないが老人が一人立っている場面だった。
あっけにとられ一瞬呆けていた時、老人は優太に話しかけてきた。
「ちょちょ、そんなに警戒しなくていいよー わしゃぁ君を助けに来たんだよー」
老人は俺の敵意を読み取ったのか、手をあげて自分に争う意志がないことを示すと穏やかな口調でそう言った。
老人の顔には白いあごひげがたっぷり蓄えられていた。というより顔中が毛だらけで、目や口がどこにあるのか、分からないほどだった。
優太は身構えながらも自分を助けに来たという老人に話しかけた。
「お前ら何なんだ? お前だけ足音がしなかったのは何故なんだ」
「うむ、質問が二つだね 一つずつ答えてあげるよー」
そして老人は優太に説明をした。
「わしゃあ、名をビアードという。この村で隠居してるただの
ビアードと名乗った老人はそう言うと横たわる二人を指でつついてみせた。二人の悪ガキはビアードにつつかれても、眠ったように何の反応も見せなかった。
「その二人はどうしたんだ? まさか、死んだのか…?」
「うんうんっ? 寝てるだけだよ、ほら」
ビアードに言われよく見ると、二人とも気持ちよさそうに寝息を立てていいた。
-なんで急に寝始めたんだ?-
優太はそう疑問に思ったがビアードが再び説明を再開した事で疑問は解けた。
「して、残りの質問は何で足音がしなかったのかだったよね。その答えはすごく単純だよ」
するとビアードは目を瞑り何やら呪文の様なものを唱え始めた。その直後、彼の体はふわりと一メートルほど浮かび上がったのだった。
「だって歩いて来なかったからね。魔法で飛んだ方が楽ちんちんだし」
「う、うわああああああ!!!」
優太はそのことにあまりにも驚いてしまったため、建物中に聞こえる大きな声で叫んだ。
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