第2話 チュートリアル

「ああ、なるほどな。俺はしんだのか」


 富士見優太は混濁していた記憶の整理を終えるとそう結論づけた。


「いや、いやいや そんなの納得できるかよ。俺が、死んだなんて……」


 しかし最後に思い出すのはあの地獄のような光景と頭上に振って来た隕石。頭から隕石に潰されて生きていられる人間なんていないだろう。


 その事を考えると潰された瞬間の痛みの記憶もだんだんと思い出し顔をしかめた。燃える岩に焼かれながら潰される記憶だ。


―こんなにリアルな記憶なんだ。間違いなく死んだ……よな?―


 優太はふと辺りを見渡した。

 今いる場所は森だが、木々はとても大きくまた堂々としていて、現実味の無い幻想的な空間を作っていた。


「……もしや、ここは死後の世界ってやつなのか」


 今まで人が死んだ後には何も残らず土に還るだけで、天国や地獄などは存在しないと考えていたが、いざ自身で体験する事になって、少しずつ死後の世界というのを認めずにはいられなかった。


 すると目の前の木の陰から突然小さな人影が二つ現れた。

 自分以外の人間に会えほっとしたのも束の間、よくよく見るとその小さな人には小さな角のようなものがありとても醜い顔をしていて、人間に似ているが全く違うものだと察した。


 優太はそれを初めてみたとき、鬼のようだと感じた。


 大きさは子供程度だったが、鬼のようないかつい顔をしていた。それに金棒ではなかったが二匹とも棍棒のようなものを持ってこちらに近づいてきていたからだ。


―ここは地獄だったか……っ―


 優太はそう思うと、二匹に背を向けて一目散に逃げ出した。


 二匹の小鬼の足はそれほど速くはなく、俺の自慢の脚力ならば逃げ切れるはずだった。


「よし これなら撒けるぜ」


 優太は後ろを振り返り、追いかけてくる二匹との間の距離が確実に広がっていることを確認した。それを見て安堵したが、次の瞬間突然現れた何かに足を取られ盛大に転んでしまった。


「ぐっ ああああああああ!」


 全力で走っていたので転んだときの衝撃で何回か体が回り木にぶつかって止まった。転んだときに怪我をしてしまい足の骨が折れていた。


 痛みで朦朧とする中、俺の目にはさっきの小鬼とはべつの鬼が長い棒をもってニタニタこちらを見て笑っているところが見えた。そして俺の来た方から二匹の小鬼が合流していた。


 どうやら待ち伏せされていたらしい。だがその事に気づいたのが遅すぎた。


 小鬼どもは足が折れて動けない俺に近づくと、持っている棍棒で一方的に殴り始めた。

 まず最初に、殴られたときに痛みで声を出したので喉を潰された。次に折れてない方の足、右腕、左腕、顔……。それから小鬼どもは俺の全身の叩く場所がなくなるまで叩き続けていた。


 まだ叩かれ始めたばかりの頃、なんでこんな事をするのだろうと考えたこともあった。

 最初小鬼は俺の事を食らうつもりで襲っているのだと思ったがいつまで経っても叩くのをやめないのだ。


 つぶれかけた目玉で小鬼どもを覗くとその理由は簡単に分かった。

 なぜなら小鬼どもはとてもとても楽しそうに俺の肉を叩いていたからだ。俺の事などお構いなしに、彼らにとってはただのお遊びに過ぎないのだった。


―奴らは殺しをたのしんでいる……―


 その時ふと屋上での出来事が頭をよぎった。一瞬だけ小鬼が勇気をいじめる自分の姿に重なって見えた。


―最期は自分がしてきたのと同じ目に遭って死ぬってわけか……。よくできた地獄だぜ―


 そして俺は、再び死んだ。

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