第20話 エルフから得る
「────楽しいなあ、学園生活!」
入学してから早一週間が経って、エルフの少女──エマはとても充実した毎日を送っていた。
新しい友達が何人もできたことや、面白い先生、そして何より他の種族の友達に出会えうことができたのは彼女にとって嬉しい誤算だった。
(わたしはエルフだから友達できるか心配だったけど‥‥‥、実はそんなことなかった!みんな優しくしてくれるし、本当に来て良かった!)
そう心から思えるほど、エマの心は無上の喜びで満たされていた。
「ん?ここ、裏庭だ!」
珍しい、と彼女はそう思う。
学園に裏庭なんてないと思っていたようだ。
しかし、そこにはとても綺麗な裏庭があった。
(赤に紫に、白にピンク‥‥‥、あ、青もある!)
緑はもちろんのこと、そこにはたくさんの花が植えられていた。
植木鉢も綺麗に装飾され、草木が学園の壁と相まって、良い味を出していた。
「んー!いい風!」
風も吹き、その裏庭にある草木は揺れる。
彼女のショートボブの髪もそれにつられて靡いていた。
風が止むと、彼女はその裏庭の中央に位置するベンチに座った。
ベンチの腰の部分近くに咲いている、綺麗な花を摘まずにそのまま手に乗せた。
「いい匂い‥‥‥。ちゃんと手入れしている証拠だ!」
彼女はエルフ。
自然に関する知識だけでなく、自然から声を聴くことも得意であった。
風の便り、土の鼓動、木々の語りなど、彼女たちエルフ族は”自然”を知っていた。
だから、彼女はこの場所がとても落ち着ける場所だと思った。
「まだ下校の時刻まで少しあるし、ゆっくりしてこっかなー」
目を瞑って、自然の声を聞く。
ゆったりとして心地よく循環していて、気分が良い。
しかし、その自然の音が何者かによって乱れたのを彼女は即座に感じ取っていた。
────こわい。こわいものがくるよ。
そう自然が彼女の耳に囁いたようだ。
そして、裏庭の端のほうからその男は現れた。
「────ん?誰だてめえ?」
言わずもがな。
その険悪な雰囲気を纏っていたのは、本来主人公であるはずのオーウェン。
『神眼』とは似て異なる異色の情調が垣間見えた。
「あ、あなたこそ、誰ですか‥‥‥!?」
エマは自分の体が震えるのがわかった。
相手の顔は優男のように整っているのに、醸し出す雰囲気は怖いの一言。
オーウェンは彼女を見て、何かを思い出したようだ。
「?てめえは確か、エマ、だったかあ?」
「────っ?!な、なんでそれを‥‥‥!」
「へっ、教えてやるかよ。社会現象を起こしていたゲームだからな。そのヒロインくらいは目にしたことがあるんだ──へえ、確かにいい体してんなあ」
下品で卑劣な目。
オーウェンはエマの体を舐め回すように視姦した。
「────ひっ!?」
「まあ、今はそのときじゃねえからな。最後に、ヒロインらしい女たちはまとめてオレのものにしてやるから、それまで我慢だ‥‥‥」
エマは身動きが取れないでいた。
目の前の男が恐ろしいというだけでなく、反抗したら何をされるか分からないと言う不安。
どうしようもないほど怯えていた。
だが、オーウェンは何もせず帰るようだった。
足にそれが当たるまでは。
「ああ?」
オーウェンは自分の足元に植木鉢のようなものが当たっていることに気づく。
次の瞬間、男はそれを蹴り飛ばしていた。
バリンとやや起きな音を立て、植木鉢の中に入っていただろう土と花、また植木鉢の残骸が辺りに散らばる。
それに、彼女は過剰反応してしまったのだ。それは彼女がエルフであるが故に。
「な、何をするんですか!!」
ベンチから立ち、気づいたら彼女はオーウェンに近づき、その頬を叩いていた。ばちん、と鋭い音がする。
「っ?!────て、てめえええ!!」
自然に対する冒涜を彼女は目にしてしまったからだろう。それを許せなかった彼女に、オーウェンはキレた。
「あ、あなたのその振る舞いは自然に対してとっても失礼です‥‥‥!」
そう勇気を振り絞って叫ぶが、その声が悪本人である男には聞こえるはずがない。
「うるせえええ!このくそアマが!」
そして、オーウェンは魔術を行使する。
少なからず主人公補正のついたその炎魔術で、エマを攻撃したのだ。
「え────きゃあああああああああ!!?」
彼女の叫びが裏庭に響いた。
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