第19話 友達百人
ムーンズ・オブ・マーズ学園に入学してから早一週間。
クラス内の親交が深まり、
「ねえ、ミア様!ミア様の好きな食べ物ってなんなの?」
「あ!それ、私も気になる!」
「教えて教えて!」
今日も朝から女子たちは賑やかだった。
女子特有のトークスキルと親交力の高さ。
それを活かして、盛んに自己紹介を行なっている。
その女子の輪にはもちろんミアも入っていた。
「え、ええと‥‥‥、果物、とか?」
おい、俺に接するときのようなあの鋭さはどこへいったんだ。
というように、さっそく質問されて慌てふためくミア。
そういえばミアが友達と遊んでいるところを見かけたことがなかった。
さてはこいつ、友達いないまま幼少期過ごしたな?
そう俺が哀れみの目を向けていると、その気持ちが伝わったのかミアは俺を睨んできた。何故伝わったのかは知らないが、あとで怒られるのは面倒なのですぐに目を逸らした。
(誰のせいだと思ってるの‥‥‥!)
ミアはそう言っているようだった。
「えー、果物だけじゃ分かんないよ!他にも趣味とか教えて!」
「え、しゅ、趣味?読書と、訓練とかかな‥‥‥。他には────」
訓練。
その言葉につい笑いが出そうになったが、また睨まれると思ったので我慢する。
訓練を趣味にするミアのような美少女がこの世界に何人いるだろう。
どちらにせよ訓練を趣味として捉えているのは面白かった。
彼女らしいと言えば彼女らしいが。
よし。では俺も。
「────おーい!そこのお前ら!何喋ってんだ?俺も混ぜてくれよ!」
一方、俺はミアのもとから離れ、いまだに友達探しをしていた。
学園生活が始まって一週間だと言うのに友達一人できていないのはおそらく俺だけだった。
焦る気持ちもあるが、俺は前世では何千人と友達がいたのだ。
俺のトーク力とこの愛嬌のある表情を使えば、友達作りなんてチョロい!
「あ、す、すみません‥‥‥。テオ様にはつまらない話ですので‥‥‥」
ちょろい!そう思ってた時期もありました!
俺がクラスメイトに話しかけると、皆揃って暗い顔をし、俺から避けていく。
明らかに俺を避けている行動だと見てとれた。
「‥‥‥あっそう、俺には関係ない話なのね‥‥‥」
こんなにも溌剌として、陽気でイケメンだというのに、何故、彼らは振り向いてくれないのだろうか。
俺はそう寂しく思った。
項垂れて自分の机に向かう。
だが、この教室にいては俺の気分は落ち込んでいく一方だった。
「テオ、まだ友達探ししてるのね。ふふ、かわいそう」
「‥‥‥‥‥‥」
離れた席で話に花を咲かせているミアたち。
だが、ミアがちらっとこちらを見ていった言葉を俺は聞き取ったぞ。
あの野郎‥‥‥!『神眼』持ちで顔がよくて、胸がデカくて可愛いからって──!
ミアに対するいわゆる、羨望的な何かが俺の中で芽生えつつあった。
俺は元は悪役。
だが、今は更生真っ只中。
こういった対応に慣れているわけではないため、現代日本で過ごしてきた俺にとっては結構メンタルにくるものだった。
「外、行くか……」
このままでは、友達ができないと言う寂しさで溶けてなくなってしまいそうだと思った。
故に、外の風にでも当たりながら気分転換をする行動をとった。
ガラガラっと教室の扉を開けて、外に出る。
廊下には他のクラスの生徒たちがこれまた楽しそうに話してるので、人気のないほうへ行く。
「確かこの学園には裏庭があったよな──」
そこで気分転換でもしよう。
どうせ俺には友達ができないんだし。
ミアには「かわいそう(笑)」みたいな目で見られるし。
ただ、このときの俺はあることを意識していなかった。
そう、この日。
入学式から丁度一週間後の今日。
裏庭では、ストーリー展開に関わる重要な出来事が起こってしまう。
それは『悪役テオによって、エルフであるエマが致命傷を負う』というもの。
だがしかし、悪役の立ち位置であるテオはもうこの世にいない。
つまり、彼の立ち位置に取って代わって愚行を振る舞うのは、他に一人しか考えられない。
俺は裏庭に着く寸前、一人の少女の叫び声を聞いた。
「きゃああああああああああ!!?」
事件は起きる。
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