第18話 嫌悪が向かう
「────ではガキども、これからクラスルームを始める。さっさと席につけ」
入学式が終わり、俺たちはそれぞれのクラスに連れて行かれた。
式の際、すでにクラス分けの割り振りで席が決められていたため、その入学式が行われた巨大な講堂から別の棟にある教室へと直接足を運んだ。
「早く席につかんか」
おそらく俺たちのクラスに配属されたであろう、担任の男。
髪はほとんど坊主と言っていい型で、耳にはお世辞にも似合っているとは言えないダサいピアスをつけていた。
その男に着席を言い渡され、俺も含め、全ての生徒たちは、急いで席に座った。
初めての教室に着いたばかりで、少し休憩がしたいと思っていたのだが、いきなりその担任らしき坊主男が着席を催促してきた。
皆少し不満げのある顔で坊主頭を見る。
俺の隣に座るミアも、少しむすっとした表情をしていた。
「────ふん、ガキども。座るのがちいと遅かった。こんなんでこの学園の生徒を語れるのか?」
「「「‥‥‥‥‥‥」」」
皆一斉に黙り込む。
なかなかに高圧的な態度をとるその男に、震える者もいれば、貴族らしくそのままの傲慢な敵意を表に出す者もいた。
「なにあれ‥‥‥。あんなのが担任だなんて‥‥‥」
隣にいるミアもぼそぼそと愚痴をこぼす。
確かにその男は皆の気分を害しているようだった。
さらに坊主頭は口を開く。
「俺のクラスになれたことを喜ぶんだな、ガキども!俺の名前はバラン・ザックと言う。将来、母ちゃ──魔法師団団長を倒す男だ」
「「「‥‥‥‥‥‥?!」」」
ん?今、「母ちゃん」というセリフが聞こえたような気がするが────。
まあ気のせいだろう。
坊主頭、改めザック先生は魔法師らしく、その身に纏う外套を揺らしていた。
「ガキども、これからは俺がルールだ。なに、お前らの生活を無理に縛り上げるつもりはない。魔法師らしく、剣士らしく、はたまた治療師らしく──。他にもさまざまな職につきたいと思うガキどもがいることだろう。だが、その夢を叶えるには正直言ってまだまだ甘い!」
少し溜めを作ってザック先生は再び言う。
「俺の作るフラペチーノより甘あああああい!」
びくっと何人かの生徒は身を揺らす。
何が言いたいのか正直わからないが、何か教育的なことを自分たちに伝えたいのだという熱意は伝わった。
「この学園はこの国────フローレスを支える人材を育成することを第一に運営されている。生意気なガキや威勢だけのクソガキはここにはいらねえ。それを承知でお前らは受験してきたはずだ」
「「「‥‥‥‥‥‥」」」
「だが、今のお前らを見てるとプライドの塊みてえなやつがたくさんいる!」
ザック先生は眉間に何十もの皺を寄せて、生徒たちを睨んだ。
俺はそれを俯瞰して見ているが、なんだかこの先生、悪い人ではないことがわかってきた。
熱血タイプの人間だと。
「特に────」
びしっと指を指す。
「そこのお前えええ!俺の話をしっかり聞かんかあ!」
一瞬にして、教室内は静まり返った。
そして、その指の方向に生徒たちも視線を向けた。
────あれ、その指の先って俺か?
「そこの金髪野郎だ!なに反抗的な顔をしていやがる!」
金髪。
どうやら俺ではなかったようだ。
それなら、俺の席の後方にいるやつだろうと、俺は後ろを振り向いた。
そこには。
「‥‥‥ちっ、さっきからグチグチうるさいんだよ、センコーが。オレは説教されにここに来たんじゃねえだ。黙ってろよゴミカスが‥‥‥」
面倒くさそうにその男は罵詈雑言を吐き出した。
男は案の定、主人公であるオーウェン。
そして、ぶちっと、誰かの堪忍袋の尾が切れた音がした。
おそらく、いや完全に今のは先生だった。
「‥‥‥ほう、やはり生意気なクソガキがいたか。お前は『神眼』持ちのオーウェンとかいうやつか?」
『神眼』
その言葉に教室中はどよめく。
よほどそのワードが常軌を逸しているようだ。
「だからどうしたってんだよ、カス。てめえみたいな雑魚に名前を呼ばれる筋合いはねえぜ?」
がはははは!とオーウェンは笑った。
不気味な笑いだ。
まるで相手の内を問答無用で侵してきそうな雰囲気が感じ取れた。
「オーウェン──オーウェン・ソードリア。神に選ばれし少年、と聞くが、実際のお前は噂とは随分かけ離れているようだな」
「────だからどうしたってんだよ?オレはオレ。てめえらのように脳の小さい凡夫どものせいで、オレという存在が過小評価されてしまっては困る」
神に選ばれし少年。
そう言えば久しぶりに聞いた。
その、それこそゲーム上に出てきそうな言葉を。
ザック先生はオーウェンの挑発には極力応じないようにしているようだった。
初日から問題を起こさないための処世術のようだ。
「────ほう、まあその自尊心は褒めてやろう、オーウェン。だが、ここは学園という場だ。少しは場をわきまえろ」
「は!センコー程度のカスが。オレの会話から逃げるんじゃねえぞ!」
オーウェンは面白がっているようだ。
ザック先生との会話を、一種の遊びのようなものとして捉えているのだろう。
「黙れ、クソガキ。お前はさっさとこの教室から出て行くんだ。次歯向かったら速攻退学にする。初日で退学なんて素晴らしい名誉だな!」
おお、ザック先生も煽ってる。
その退学、という言葉を聞いて、オーウェンも流石に分が悪いと思ったようだ。
舌打ちを一つして「覚えてろよカスが‥‥‥」と言い残して、教室を去った。
「「「────────」」」
また、教室が静まり返る。
オーウェンと先生とのやりとりで他の生徒はかなりストレスが溜まってしまったようだ。
ほとんどオーウェンの過失なので、その問題児をこれから見ることになるザック先生を不憫に思った。
「ふん、まさかあんなやつがいるとはな‥‥‥。しかも『神眼』持ち。さすがの俺でも手に負えないかもしれないぜ、──母ちゃん」
「「「‥‥‥‥‥‥」」」
また、母ちゃんと言ったぞ、ザック先生。
ぼそっと呟いたつもりなのだろうが、日頃訓練で鍛えられた俺は、聴力も何倍か向上していた。今のつぶやきも全て耳に入った。
それは隣にいるミアも同じようだった。
「て、テオ‥‥‥」
「ああ、ザック先生はおそらくエイブリー団長の息子だろうな」
こちらを振り向いてミアは俺の名を呼んだ。
どうやら考えていることは同じようだった。
「エイブリー様と全く似てないわ‥‥‥!」
さきほど、マイナスなイメージで固定されてしまったせいか、ミアはまだザック先生に疑問が生じている。
だが、これが現実。
「けど、ザック先生はまだましね。さきほどのオーウェンとかいうやつ、あっちと関わることのほうが面倒臭いわ」
「そうだな‥‥‥」
どうした、主人公。
お前、俺が転生してきたことで逆にお前が悪役になってしまったのか?
どちらにせよ、こうして学園生活は幕を開けた。
自己紹介、そのとき『神眼』の彼女らは、誰かを見ていた。
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「ところで、だ。ミアよ」
「なに、テオ。友達が一人もできなくて悲しんでるの?」
「ぐっ!そ、そんなことない!」
「痩せ我慢ね」
「う、うるせえ!それより訓練だ訓練!」
「────ふふ、今日も私が勝つわよ!」
ちなみに放課後、俺はクラスメイトの全男子に喋りかけた。
しかし、俺の友達になってくれるものは誰一人としていなかったのだった。
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