第4話 覚悟



「も、申し訳ありませんでした!」

「────い、いや、なかなか良いパンチだった」


 謝るのはいいが、思い切り「死ねえええええ!」と言われたのは素直にびっくりした。モミジもやはりそのくらい鬱憤と憎悪が溜まっていたのだろう。


 俺は全身に痛みを感じながらも、その上体を起こした。


「では、今から着替えを始めるからモミジは朝食の準備をしておいてくれ」

「は、はい」

「それと今日から訓練を始める。執事長のルーカスを呼んでおいてくれ」

「‥‥‥訓練を始めなさるのですか?」

「ああ」


 能力値を上げるために、最初に必要なのは基礎体力の向上だ。

 モミジに殴られて分かったが、俺の体は貧弱すぎる。


 今のパンチで何本か骨がいったかと思った。

 体力をあげれば自然とその体つきもより逞しいものへと変わっていくはずだ。


 執事長のルーカスに剣技、体力面で教えを乞う。それが最初の関門だった。


「他に何かご要望がありましたら何なりとお申し付けください」


 モミジが部屋から去っていくのを見て、俺は一先ず部屋のベッドにダイブした。

 備え付けの棚から回復用のポーションを取り出し、一気に飲み干す。


 液が身に染み渡るのを感じつつ、俺はノートを手に取った。


「しっかりとした計画を立てないと、後々面倒なことになるからな」


 そう。

 このゲーム──今では現実ではあるが、そのストーリー展開の数からわかるよう、少しでも選択をミスれば破滅の道に行きかねない。


 しっかりとした計画を立て、能力値カンストまで到達しなければならないのだ。


「まずは、テオの周りの人物の確認から始めるか」


 エイダン・テオ。

 彼には血縁関係にある兄妹はいない。

 親は両親共に、侯爵。


 割と高い地位に位置するため、暴君の行為もギリギリまで許されていたのだろう。


 そしてメイド。

 先のモミジをはじめ、総計で十人以上はいるはずだ。

 執事は執事長のルーカスしか知らないが、他にも幅広い年代の者がいるようだった。


「‥‥‥やべえ、思ったより大所帯だ」


 それもそのはず。

 侯爵を甘く見てはいけない。こういった確認は重要だった。


「一人っ子で甘やかされてたんだろうな、こいつ」


 親が多忙で使用人に任せきりという環境がここまでテオの性格を捻じ曲げたのだ。

 哀れに思いつつ次の確認に移る。


「次はヒロインと主人公、あとは物語に関わってくる人物の確認だな」


 はっきり言ってこれが一番めんどい。

 何百といった数の登場人物が物語には出てくるのだ。


 まずは最重要の七人の『神眼』のヒロイン。そして、主人公だけをまとめることにした。


 1:歓喜の眼 ソフィア

 2:慈愛の眼 エマ

 3:冷徹の眼 ミア

 4:沈黙の眼 オリビア

 5:永劫の眼 ルーナ

 6:繁栄の眼 クロエ

 7:炎旱の眼 スカーレット


 そして、八人目の『神眼』所有者である主人公。


 8:八百万やおよろずの眼 オーウェン



「‥‥‥名前からしてチートじゃん」


 何が八百万だ。

 そんな馬鹿げた名前からして能力も尋常じゃない。

 確か能力名は『選ばれし八重の子』だった。


 ”敵の弱点を瞬時に看破し、仲間のステータスを能力値に応じて引き上げる”


「で、最終決戦のときは更に覚醒して自分にも付加が可能となる、と」


 敵さんが可哀想だわ。

 改めて感じた異次元の主人公補正だった。


「でもまあ、初期値は俺と同じくらいだし、能力値カンストさせればぎり主人公を越えられる」


 そうなのだ。

 初期値はどのキャラにおいても等しく一律。

 若干の誤差はあるが、それでも大した差はない。


「いけるぜ」


 まだ七歳。

 俺は七歳なのだ。


 物語が始まるのは中等部である12歳から。


「時間はたっぷりある」


 ストーリーが始まる前までに能力値カンストを目標にする。

 俺の二度目の人生はまだ始まったばかり。


「主人公超えてやんよ」


 誓いを胸に、まずは一歩踏み出した。


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