第5話 ストーリー改変に向けて
「坊ちゃん、どうしてこんなことを?」
目の前で俺と相対するのは、執事長であるルーカス。
その手には剣を携えていて、背筋をピンと伸ばしたまま俺の動向を伺っていた。
「どうしてって、そりゃ強くなるためだ」
俺は一歩駆け出した。
ルーカスに一手でも加えようと、自分の剣を前に向けながら我武者羅に前を向いた。
「それは理由にはなっていませんよ」
そう言いながらルーカスは難なく俺の剣を躱す。
顔も無表情のままで、声はいつもより鈍重に聞こえた。
「どうして強くなりたいんですか?何故、私を訓練相手に選んだのですか?」
更にルーカスは質問を重ね、俺の答えを待った。
ルーカスは執事長にして、昔、騎士副団長を務めたことのある腕利の剣士だ。
俺の素人じみた剣など易々と捌ける。
それでも俺の訓練に応じてくれたのは彼にも考えがあるからなのだろう。
「強くなりたいのは、将来、俺が世界を統べると決めたから。ルーカスを選んだのは、お前が騎士副団長だと知っていたから」
剣を振り、汗を拭いながら俺はその問いに答えた。
今口にした言葉は半分願望であるが、嘘ではない。
最終ボスであるフォボスを倒すのは俺なのだ。
「────ほう」
その俺の言葉に、ルーカスは目を見開いた。
俺の確固たる意思が伝わったのだろうか。それは分からないが、彼の剣先が弾んでいるように見えた。
「どこでその情報を知ったんです?私が昔、副団長をしていたということを」
「それは言えない」
この世界がゲームで、主要キャラを全て網羅しているからなんて答えたら、速攻変態扱いだ。
口を割っても言えないもの。
だが、ルーカスは何故か納得したようだ。
「ふふふ、面白いですね。坊ちゃんが昔、私に怪我を負わせたことを覚えていますか?」
「は?」
いきなりルーカスは自分語りを始めた。
「三歳ぐらいのときですかね。坊ちゃんが私とおままごとをしようと言って、私を包丁で刺したのは」
「‥‥‥‥‥‥」
こわっ!昔の俺もだけど、今のルーカスの顔怖っ!
「あのときから、あなたの才能を垣間見ていたんですよ。元はと言っても私は副団長。それを三歳にも満たないあなたが傷を負わせた。すごいですよね」
「そ、そうか?」
つまり、俺には剣の才能があると言いたいのか?
「そうです。あなたには十分と言って良いほど、剣の才能があります。体力はてんでダメですが、鍛えればどうにでもなる。将来が楽しみですねえ」
「‥‥‥‥‥‥」
おい、こいつ。今、舌なめずりしたぞ。
知りたくはなかったが、ルーカスって結構ヤバいやつなんじゃ‥‥‥。
「とにかく、坊ちゃんには才能があります。私に訓練の教えを乞うたのは正解です。剣技もそうですが、武術、杖術、槍術、全て私が教えてさしあげましょう。十年後にはこの国であなたに敵うものはいなくなるはずです」
十年、か。
長い、だがその頃には物語も大きく進んでいるはず。
俺はルーカスに言った。
「五年」
「はい?」
「俺は五年で仕上げてみせる。だから、厳しい指導を頼む」
その言葉にルーカスは震えていた。
怒られると思って、俺は身構えたがどうやら違ったようだ。
「素晴らしい!その心意気、しかと承りました。坊ちゃんが十二になった頃には、新人戦に出場させます。そこで優勝することを目標にしましょう!」
「えっ、新人戦って」
「はい、全年齢対象の剣技大会。負けることは許されません。では、さっそく訓練を始めますぞ!」
「はああああ?!」
新人戦。
対象年齢が全年齢対象と言っても、それは十二歳から。
最年少で出場して、優勝するなんて前代未聞だ。
あの同い年の主人公のオーウェンでさえ十四歳のとき出場して、五位くらいだったから。
「あれ、つまり十二歳で優勝すれば、実質俺がナンバーワン?」
はい、決めました。
エイダン・テオ。
十二歳の新人戦で優勝します。
だが、俺は一つだけ失念していたことがあった。
俺が十二歳になったときの新人戦。
その舞台では二歳年上の剣姫こと、『沈黙』の眼──オリビアが優勝を勝ち取っていたのだ。
オリビアは強い。俺が考えている何倍も。
五年後の未来はまだ予想などつかない。
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