第2話 転生初日
転生初日。
俺は目を覚ましてから、姿見で自分の姿を確認していた。
「うわー、めっちゃイケメンじゃんこいつ‥‥‥」
その姿は同性である俺ですらも見惚れてしまうようなものだった。
髪は悪役らしく純粋な黒で、瞳の色は紅。
まだ七歳くらいの小さな体躯なのに、将来は世界中の女を狂わせそうな美貌が垣間見える。
「こんな顔して、がちでえぐいことするからなあ……」
ストーリー上では、幼少期からその暴君の片鱗を見せていた。
使用人であるメイドや執事たちを、おままごとと称して包丁で刺したり、買ってきた奴隷たちを問答無用で道具にしたりと。
外道にも程があるが、物語上のエイダン・テオはどこまで行っても悪だった。それゆえに、その純粋悪が主人公たちを苦しめることになるのだ。
「しかしなあ、こんなバカみてえな悪ガキがいきなり律儀な坊やになってたら絶対怪しまれるよなあ」
そう、そこで問題が発生する。
今日から更生するとしても、いきなり悪ガキがピュアピュアな善行少年になったら不審に思われるだけだ。
口調もおそらく違うだろうし、最初は演じる必要がありそうだと俺は踏んだ。
とそこで、部屋をノックする音が聞こえてきた。
────コンコン、と控えめなノック。
執事かメイド、おそらく使用人の誰かが俺を起こしにきたのだろう。
一回、ごほん!と咳払いして、声を整えてから「いいぞ、入れ」と悪役っぽい口調で言った。
「し、失礼します……」
入ってきたのは、若いメイドだった。
怯えた様子で、その様子もどこかぎこちない。
俺という存在に心底恐怖しているようだった。
(まじでお前、何やってたんだよ……)
転生する前のこいつに聞きたかった。
使用人がここまで恐怖を露わにすることは普通ないはずだ。
それなのに、絶望といった表情でまだ齢七の子供を世話するのは馬鹿げていた。
「て、テオ様。お着替えの時間です……」
そのメイドは姿見の前に佇む俺に近づき、震えた声で俺に言った。
ふむ、着替えか──。
着替えくらいなら別に自分でやっても怪しまれないのでは?
俺は思考する。
できれば早いうちに使用人含め、家族からの自分の評価を変えたいため、焦らずとも着替えは自分でやる方向に決めた。
「おいメイド」
「はっ、はい……」
(‥‥‥声、暗すぎだろ!)
メイドの絶望した表情は変わらないが、俺はそのまま言葉を続ける。
「俺は今日から着替えは自分でする。だからお前が朝、ここに来る必要はない」
「えっ、そっ、そんな……」
できるだけ棘のない言い方をしたのだが、なぜだろう。メイドはさらに顔を青ざめさせた。
「もう私はいらないということですか……?」
いらない?
「え?いや違う違う!本当に自分で着替えをするだけだ!お前を解雇するわけではない!」
あぶねえ。
このメイドの反応から即座に理解できてよかった。確かに、さっきのでは言葉が足りなかったかもしれない。
俺の着替えをするというだけのために、このメイドは毎日使われていたのかもしれない。それを俺がなくすなんて言い出したら、解雇という文字が浮かぶのも当然だよな。そう思った。
「……クビになさらないんですか?」
「ああ、しない。それよりお前の名前はなんだ。早く言え」
メイド。
その女は見かけ上はそうだった。
だが、腕、顔、所々にあざが見えていた。
目の下には隈ができ、血行は見るからに悪い。そんな状態で日々激務をこなしているようだった。
そんな状態のメイドを見て、俺は自分への怒りが込み上げていた。
酷使して、また使い潰す。テオはそんなカスみたいな外道な行為を日々送っていたのだろう。
彼女の名前を知らないという事実も俺の怒りを増幅させた。
「私の名は、モミジと申します。テオ様の専属メイドです」
「そうか、ではモミジ。今から俺を一発殴ってくれ」
「────?!」
取り敢えず、能力値カンスト以前に更生問題を優先した方が良さそうだった。
俺は満面の笑みでモミジにそう言ったのだった。
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