学園編
第16話 主人公は賤
『神眼』がゲーム上、この世に顕現したのはいくつかの理由があった。
それは異常に高い魔力や能力値を保有する者の遺伝子が突然変異を起こしたという説や、他にも所有者のキャパシティに応じて能力が覚醒したという説。はたまた、ただの天性的なものだと定義する者もいる。
公式側がこの情報を曖昧なものとして公開しているのは、プレイヤーに『神眼』特化のストーリーを集中してプレイさせるためであった。
複雑なストーリー展開を売りにしているだけあって、登場するキャラクターも多数。しかし、それは設定上の一番の美点であり、唯一の欠点でもあったのだ。
数百という登場人物に対し、製作側は少数精鋭。全ての展開を手掛けることはほぼ不可能だった。
そこで取った対応が、プレイヤー自身にストーリーを任せっきりにすることである。
自分なりの世界を創造でき、展開の似通った被りも防げる。
例外は『神眼』などの主要キャラだ。
彼らは、プロの脚本家たちが手掛けたゆえに、その人物の背景は独創で難解。
ある意味でその主要キャラは運命が格づけられたと言っても過言ではないキャラなのだ。
しかし、今はゲームではなく全てが現実である。
例えば主人公。
彼は主要キャラではあるが、その行動は枠にはまらない。
モブと言うべきキャラならまだしも、その主人公の自由奔放すぎる行動は現実となると最も危険であるのだ。
周囲に与える影響も絶大。
型に嵌らず、特出すると言うなら素晴らしいだろうが、悪意のある行動もできる。
では何が言いたいのか。
「────がはははははは!最高じゃねえか、この世界!」
そう。
主人公枠である、オーウェン。
彼もまた残念ながら、このゲーム世界への転生者だった。
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名/エイダン・テオ♂ 種族/人間 Lv.88
能力値
基礎体力:8522
基礎魔力:8856
基礎俊敏力:8098
基礎防御力:9002
基礎知力:52125
インディビジュアル・アビリティ
『上限突破♾️』『強奪(使用回数:1)』
スキル
『剣術:上』『槍術:上』『弓術:上』『杖術:上』
『体術〈柔・捕手etc〉:上』
『魔術:上//炎・水・風・雷・土』
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「──ねえテオ、まだ準備終わらないの?」
「ああ、まだだ。もうちょいかかるだろうから、先行っといてくれ!」
俺は玄関から聞こえてくるミアの声にそう返した。
今は学園に行くための準備をしている。
先ほど起きたばかりの俺は着替えの最中で、俺より何分も早く起きて支度をしていたミアが、俺に向かって早く行こうとたった今催促していた。
そう、俺たちは中等部に上がっていた。
つまりは年も十二歳になった。
俺たちは徐々に青年へと近づいている。
「だめ!入学式くらいは一緒に行くって約束したでしょ!」
また、玄関からミアの声が聞こえてくる。
彼女も初めて会った時から随分と成長し、声変わりも終えた。
声変わりしたと言っても、少し低くなったくらいで、それはゲーム上でよく耳にしていたような可愛げのある澄んだ声だった。
「本当に遅刻するわよ!」
俺が遅いせいで、彼女も流石に怒ったのだろう。
玄関から上がって、俺が着替えている部屋まで早足でくる足音が聞こえた。
そして、彼女は俺がいる部屋の扉をがばっと開けて、俺に言った。
「テオ!入学式で初日から恥かいても────って、ふ、服!まだ着替えてないじゃないの‥‥‥!」
相変わらず騒がしい少女だ。
赤い顔をしながら俺に叱りを入れる。
ところでだがミアよ。
十二歳になって見事に育ってきた俺の腹筋や胸筋にちらりと視線を預けているのを、俺はばっちし見抜いてるぞ。
ツンデレも相まってなかなか面白い反応だった。
「わかった、わかった。あと五分で行くから、もう少しだけ待っててくれ」
「‥‥‥遅刻したら全部テオのせいにするからね!」
そう言いながらもミアは五分しっかりと待ってくれた。
成長した俺とミアは周りからも目を惹く。
自画自賛ながら、テオの容姿は異常に優れているため、成長するたびに色気だっていく自分の姿を見るのも楽しかった。
ミアは言わずもがな。
髪型については一切触れていなかったが、彼女の髪はハーフツインである。
ぶっちゃけすごく似合ってる。
可愛いの言葉しか出ない。
このような超絶激かわのヒロインがあと六人もいると思うと、本当に動転してしまいそうだ。
彼女らが集まったときの景色は想像を絶することだろう。
「────では、いってらっしゃいませ。テオ様、ミオ様」
「ああ、ありがとうモミジ。ルーカスとエイブリーも見送りありがとな!」
「坊ちゃん、暴れないでくださいよ?」
「分かってるって」
「がはは、このガキどもは思いもしない行動を起こすからね。ミア、テオをしっかり見張っとくんだよ!」
「分かってます!」
「おい、見張りってなんだよ!」
そして、俺とミアは馬車に乗った。
ガタゴトと、しばらくして見えてくる学園の巨大な敷地が、心を弾ませる。
(結局、十二歳になって能力値カンストまではいけなかったけど、それ相応の能力値には達することができた!)
主人公・ヒロインたち。
その力は未知数。
だが、俺の努力はそれ以上だと言う絶対的な自信があった。
まだ正確には言っていなかったが、能力値カンストはつまりレベルを100にすること。すでに88の俺は既に誰にも負けないような力を手に入れている。
これから、物語が開始される。
ゲーム上で起きた全ての事象が変わっているかもしれない。
でも、それこそ人生なのだから、楽しむしかないのだ。
「さて、天下の学園様──”ムーンズ・オブ・マーズ”に到着だ!」
そしてその門をくぐる。
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