第15話 二人の弟子
「ちょ、ちょっと!どさくさに紛れてどこ触ってんのよ──!」
バチン!
と痛々しい音が訓練場に響いた。
そして、次の瞬間には俺はその訓練場の壁まで吹き飛ばされ、ゴオオオン!と通常ではならないような轟音が響いていた。
俺に平手打ちを喰らわせた、可憐であるが冷徹な表情を持つ少女──ミアは腕を組んで、俺をぎろりと睨んでいる。
「訓練中にセクハラするなんていい度胸ね……!」
そう、訓練。
今、彼女とは実践形式の魔術の訓練を行なっている。
吹き飛ばされた俺はよろよろと起きながら、冤罪をなすりつけるミアに抗議した。
「い、今のは冤罪だ!俺は背中にしか触れてない……!」
「いいや、絶対に胸まで触ってたわ……!」
射殺すような視線で俺を睨んでおり、その顔は赤い。
彼女は触られたと言う胸を隠すように腕を組んでいた。
カウンターとも言うべき彼女の平手打ちは殺人級だった。
「いや、俺は絶対に胸には触れてないって……!なんか固かったし、あの感触は絶対に胸などではない……!」
骨のようなごつごつした感じもあったし、あれは絶対に背中だろう。
俺はそう確信めいた表情でミアに抗議したが、さらにミアは顔を赤くした。
「わ、悪かったわね、ペチャパイで……!」
「はあああ?!」
ペチャパイ、だと?!
何を言ってるんだ、この娘は?!
俺はそう言われて被害妄想を膨らまさているミアに言った。
「ミアの胸がペチャパイなわけねえだろ!まだお前、十歳っていうのにそこまで大きく育ちやがって!さっき感じた固めの手の感触は絶対に背中だ!お前の柔らかそうなその双丘ではない!」
傍から見たらただの変態野郎だろう。
今の俺は堂々と彼女の胸について話題に触れ、セクハラ発言をかましていた。
七歳だったあのときからはや三年が過ぎた。
もちろん、能力値も徐々にカンストに近づき力を身につけてきたが、それ以上の成長に気づいてしまったのだ。
そう。
ミアの胸の成長速度がとても早いということである。
あの柔らかそうな双丘はこの三年で最も成長した。
俺の能力値なんて比にならないほどに。
ゲーム上のプロフィールでもあったが彼女が成年した姿はスレンダーな体型にして、胸は馬鹿でかかった。
その成長を間近で感じているのである。
その俺のキモ発言に、当然ながら彼女は怒った。
「き、きもっ!どうして私の胸をそんな堂々と語るのよ……!まさかこれまでの訓練中もずっと視姦してたの?!」
「ち、違うわい!訓練中にめっちゃ動くから自然と目がそこに吸い寄せられてただけだ‥‥‥!」
「し、死ねっ!」
そう言って彼女はレイピアを手に持った。
顔を最大限まで赤くし、左腕でその胸を押さえながら、俺目掛けてレイピアを振るった。
「あ、あぶねえ!今、お前に平手打ちされて腰痛めてんだぞ!それに追い打ちをかけるな!」
「うるさいっ!世界中の女性のためにあなたを殺すわ!」
ぎゃーぎゃーわーわーと俺たちは騒ぐ。
三年間訓練をしてきたわけだが、ミアとの距離は結構縮まったように思う。
まだ少し壁があるが、それはおそらく俺の所為だろう。こんなふうに常日頃から彼女を揶揄っていたら、信用がなくなるのも当然だ。
訓練場で騒ぐ俺たちを横目に、二人の師匠であるルーカスとエイブリーは話に興じていた。
メイドのモミジも俺たちを微笑ましそうに見ながら、二人に紅茶を入れていた。
「やれやれ、とんだ子に育ったな、テオは」
「ははは、言うじゃないかジジイ。お前も昔は今のテオみたいに失礼な発言をしていたくせに」
「そのことはいい加減忘れろ、エイブリー。若気の至りってやつだ」
「言うねえ」
どうやらルーカスにもそんな時期があったよう。
今の姿からは想像がつかないが、やはり男というもの。見事な双丘には反応してしまうらしい。
「それより、訓練を再開させるぞ。このままでは進まん」
「そうだね、”規格外”の情報を仕入れてきたし。二人に教えとこうか」
そして、エイブリーは二人のじゃれ合いを制止する。
「おい二人とも!そろそろ再開するからね、喧嘩はそれくらいにしときな!」
エイブリーの目線の先にはさらに追い打ちをかけられ、地面に倒れ伏した俺がいた。
ミアはそれを復讐だというように見て笑っていた。悪女じゃねえか。
「はーい」と彼女は返事をし、師匠のそばにかけよった。
「おいテオも、早く起きるんだ!」
そう言われて再び俺は身を起こす。
「わ、わかりました……」と情けない声で返事をして、師匠のそばまで駆け寄る。
「では、次は新人戦に出るであろう試合相手の確認だ。お前たち、よく聞くんだよ」
まだまだ訓練は終わらない。
あと二年。俺はようやく地に足をつける。
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※一章はこれで終わりです。ここまで読んでくださり、ありがとうございます!最後にフォローと応援、また☆☆☆のレビューお願いします!
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