第17話 Grace2 - 痺れる旨さ
それにしても、角カエルが酸性の唾を吐いてきた時点で安易に蹴ったりナイフで刺したのは危なかったかもしれない。迂闊な攻撃だった。
今回は幸いなことに彼らの血を浴びても俺はこうしてぴんぴんしているが、もし体液すべてが酸性だったらと思うと背筋が凍る…。
…………そうだ、《鑑定》スキル!
戦う前に鑑定で相手の強さとか特性とか、──どこまで確認できるかはわからないけど──、そういうものをチェックすればいいじゃないか?
でも俺の《鑑定》はまだ練度が高くないから、直接触れないと確認できない。これからどんどん使い込んでいくしかないだろう。
そうは言っても、たとえ今は戦う前の鑑定が難しくても討伐後の情報整理だって意味あることだよな。
ということで、早速さっきの角カエルを《鑑定》を通してデータ収集しておこう。
角カエル3匹を並べて、順番に鑑定だ。
まずはこっちはナイフや殴打でやった角カエルの情報。
『角カエル。生命反応なし、食用可。
特徴:水陸両生、皮膚に近い筋肉に微量の毒を含む
特技:
注釈:唾袋は酸性のため要注意だよ。見かけによらず舌が絶品。』
比較用に、干からびた角カエルの情報。
ちなみに正式名が不明な場合は、俺が連想する名前で仮登録できるみたいだ。
『角カエル→毒カエル《ヴェノ・フロッグ》。生命反応なし、食用可。
特徴:水陸両生、皮膚に近い筋肉に微量の毒を含む。加熱による毒性低下:67%。
特技:
注釈:唾袋は酸性のため要注意だよ。見かけによらず舌が絶品。』
形状より特性をメインに名前を換えてみたら、すんなりと出来た。いいねぇ。
鑑定結果の中身まで加筆できればさらに便利なんだが、どうかな?
ところで、《鑑定》では状態変化も加味されるんだな。これもなかなか助かる情報じゃあないか。
それにしてもホーンラビットの
◇
とりあえず角カエル《ヴェノ・フロッグ》の肉も食べられるようだが、今は解体も何もかもやりたくない。
それでも唾袋が潰れてせっかくの肉がダメになるのは困るので、頭部を落として唾袋を慎重に切り離した。舌も食料になるようだがどうしてもあの見かけが耐えられず、今回は破棄することにした。
唾袋を切り離した際に、一緒に「ポロン」と濃いネイビーブルーの小さな魔石が零れ落ちた。
角カエル《ヴェノ・フロッグ》の魔石は、
だがやっぱり今は使いどころがわからないので、ホーンラビットの時同様、魔石と小さな角をリュックサックの魔石袋の中に放り込んでしまっておく。
で、最後にこの小さな唾袋だ。
毒はブヨブヨしているが比較的しっかりした肉厚な袋に入っている。
危険な酸性の液体なんてすぐに捨てようと思ったが、これも何かの役に立つかもしれないと思い直し、採取用の空のガラスの小瓶に入れてしっかり封印して仕舞った。
解体は夕飯前にすればいいか。
俺は頭部を切り取ったカエル肉をそのまま採取袋に仕舞い、ゴロゴロした大石の横に一人寝用サイズでテントを張り、寝袋を敷いてぐったりと横になった。
────────── ◇◇◇
解体をせずに休憩してしまったので、今日は夕飯前にスプラッタ仕事から始めなければない。
俺は少し溜め息をついてから、下拵え、──解体を始めた。
(──── まだグロいシーンって耐性ないんだよな…。
前世に理科の授業実験でカエルの解剖をしたぶりなんだけど。解体の参考になるかな…って、無理か。)
頭部は毒の唾袋とともに既にカットしてあるから、あとは腹を捌いて内臓を取り出して…、食べやすいように身体から足を切断すればいいのかな?
「チマチマと面倒…。内臓まで食べるならもう少し楽なんだろうけど。」
ウサギの解体はワンツー、フィニッシュの勢いで一気に処理できるけど、カエルは、毒もあるし内臓除去やら手足分離やら、なんか気を使う。
《鑑定》で内臓も毒はないらしいから食べようと思えば食べられるのだろうけど、生理的に受け付けない。今回はやはり破棄しよう。
ところでウサギの時にも感じたが、内臓を抜くと、あんなに太っていたカエルも実にスリムになってしまうんだな。
解体後のカエルは食べられる部分がかなり小さくなったので、焼き串ではなくフライパンで焼くことにした。
◇
ジューッ。
…パチパチパチパチッ、ジュワワッ。
「ゴクッ。」
…あ、すみません、今のは俺が唾を飲み込んだ音です。
濃厚な脂が焦げる匂いに鼻がヒクヒクして、知らないうちに口の中に唾が溜まってしまった。まるでパブロフの犬状態だ。食べる前から脳内がしあわせ色に染まる匂い…。
結論から言うと、角カエル《ヴェノ・フロッグ》の肉もめちゃ旨かった。
ヴェノフロッグもホーンラビットもどちらも鶏肉に似た味と思っていたけど、なんというか…、柔らかさとジューシーさが違うんだ。
あれだけでっぷりとした体を素早く跳躍できるくらい発達した脚の部分なのに、火を通すとなぜか口の中に残らないくらいふっわふわでトロットロな食感に変わる。なのに味はしっかりと濃厚で実にクリーミー。何より香り高いのがいい。
そのまま焼いただけでも充分旨いが、力強い味わいなのにふんわりと軽やかな食感は濃厚なソースも合うかもしれない。(今はソースの素材はないけどな。)
あるいは脂ののった肉の表面の皮だけ削いで、パリパリに焼くのもいいかな。
皮膚に近い毒を含んでいた部分は、加熱後はピリリと刺激的なお味に変わった。いわゆる「通好み」の味ってやつだ。これも病みつきになりそう…。
◇
そして角カエルの肉のおかげでもっと嬉しい発見があった。
まず、カエルの肉を中身まで焦がさない程度にちょっと強めに焦げ目をつけて焼く。
それを湿らせた
するとどうよ、あのクソ不味いはずの堅パンが超絶うまくなるじゃないか!
少しクドく感じるくらいの脂加減が、乾いたパンに程よくなじむ。
この組み合わせはすごい発見だと思うんだよね。
でも、この肉は多分煮込み料理には向かい気がする。
シチューならホーンラビットの淡白にも関わらず力強い味わいの肉の方が合うだろうな。
(──── そう言えば、《鑑定》ではヴェノフロッグの舌も絶品って教えてくれたけど…。
あんな色のものを食うなんて気持ち悪いって捨てちまったけど、こんなに肉が旨いなら、舌も食ってみるべきだったな…。)
次回は捨てずに食べてみよう。
てなわけで、今回も新しい食の恵みに
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