第16話 Chasing&Creepy
────────── ◇◇◇:16.1 体力
……いやむしろ
でも魔物の肉はあまり消化が良くないと聞いたことがあるので、慣れないうちは調子にのって爆食いするのはいかんだろう。気を付けなければ。
というわけで、テンションが上がっているうちに再び
俺はもし迷子になって戻ってしまってもわかるように鉤岩を中心に円を描くように小石を並べた後、名残惜しげにこの場所を離れた。
◇
鉤の岩は
川底とはいってもほとんど砂地と見分けがつかないくらい干上がってるのだが、それでもやや硬さを感じる砂土は、柔らかな稜線沿いを歩いた時より断然歩きやすい。
何よりあの砂地に体力を吸い取られるような感じが減るってだけでも嬉しいもんだ。
よし、今日からこの
砂漠の空気は想像以上に乾燥している。もちろん今日も熱風がやむことはない。
風呂敷ストールで肌だけでなく目鼻や口をカバーしても、ヒリヒリ痛さを感じるくらい乾いていくのがわかる。
ミストシャワーが欲しい。お肌の乾燥、マジで馬鹿にならない。
水筒の水をチビチビと飲みながら、辺りを見廻す。
相変わらず砂地ばかりで視界を遮るものが何もない。どうやらここらあたりも草木はないようだ。
それでも昨日と違い、川底だった石が景色の変化となり確かな歩みを実感する。
◇
ただ歩くだけではもったいないので、ホーンラビットから取得した《脚力》と《突進》のスキルも練習してみる。
《鑑定》スキルは、鑑定したい対象物を見つめていると
まず最初に、心の中で《脚力》と唱えながら走ったりスキップやジャンプをしてみた。……何も効果はなかった。
次は《脚力!》と声に出しながら同じように走ってみたが、やはりちっとも早くならなかった。《突進》も同じで、ヒュンともギュンともならない。
呪文のように唱えるようなやり方だけではだめなのかな?気を高めるとか?
……そうか、こっちの世界なら魔力を集中させるって感じなのかもしれないな。
幸いなことに、魔力操作なら昨晩の寝落ちの原因となったタブレットのおかげで少しコツがわかるようになったから、やってみる価値はある。
俺は早速心を鎮めて魔気を高め、その流れを脚に集めるようにイメージしてみた。そして魔力が脚に集まってくるタイミングで、《
「おぉ~!」
いきなり歩くスピードが上がって、軽やかな(?)足取りで砂地を蹴って埋もれる前に自然に次の一歩が出て…を繰り返し始めた。
シュタッ、シュタタタ、シュタシュタ……。
「うぉー?」
足は先に進みながらも腰が引けたまま砂上をスピード上げて進んでいく。残念ながら走るとまではいかず、速足って程度だ。
シュタシュタ……、ギュッ、ギュッ、ギュッ。
だが軽快な速足はすぐに止み、また元のゆっくりな歩調に戻ってしまった。
もう一度同じように魔力を意識して使ってみる。さっきと同様に、砂地へ沈むことなく素早く歩きはじめ、暫くするとスピードが減少して元の速度に戻る。
なるほど、じゃあ《突進》も同じようにすれば使えるかな?
試しに目の前に見える岩に向かって突進してみよう。
脚へ魔力が移動したことを意識しながら《
タッ、タッ、タッ、タッ、タッ…。
ホーンラビットの突進とは雲泥の差だが、それでも砂をつま先で蹴るようにして前に駆けっていくことができた。
「脚力」同様、期待したほどの速さではなかったが、それでも成功したということなのだろう。
ちなみに《突進》は目標にした岩まで到達できないくらい短い距離しか続かずにさらに疲労度が高かった。
もしかしたら《脚力》より《突進》の方が魔気を必要とするのかもしれない。
《鑑定》スキルは魔力不要で使えるが、《脚力》と《突進》のような
うーむ、魔力が少ない今は多用厳禁だな。気をつけよう。
だがそれより一番問題なのは、この二つのスキルを試しただけで脚がプルプル震えている俺自身の体の方だ。
これってもしかして筋肉痛だよな?
「1分も使ってないのに…。」
ゴールの岩までよろよろしながら辿り着き、岩の日陰に座り込んでぜーぜーと息も荒く休憩に入る。
俺はガクガクする脚を見ながら、
「参ったな…。魔力だとかスキルだとかいう前に、そもそも俺自身の身体をもっと鍛える必要があるな…。」
つまり、魔力以前の問題だ。
だが多分それが正論だろうとわかっても、俺はその事実から目を逸らしたかった……。
────────── ◇◇◇:16.2 気色わりぃ…
スキルもだが、まずは体を鍛えないと。
体力がないことを痛感した俺は、砂漠で「苦行」を続ける…って、ただ歩いているだけだ。
でも俺にとっては文字通り苦行だ。まさか砂漠を歩くだけのことがこんなに大変だなんて思わなかったよ。
完全に干上がったように見える
なぜなら昨日は一度しか会わなかったホーンラビットに今日はすでに二度もエンカウントしている。
ウサギというと集団で行動するイメージがあるが、ありがたいことに
素早い
それに、討伐した魔物の魔力吸収は俺の微量な
◇
とは言え、果てしない砂漠横断にこの暑さと乾燥は、俺のモチベがダダ下がってしまう最大要因だ。
直射日光を遮るものはないし、背が低い俺には日光の照り返しが厳しい。
軟弱者と思われてもいい。
俺は太陽が頭上高くなってきたのを言い訳に、早くも昼の休憩を取ることに決めた。
どこか休むのに良さそうな場所はないかと辺りを見回していると、周囲にそぐわないカラフルな岩が目に入ってきた。
よし、あの岩あたりにテントを張ろう。
「珍しい色の岩だなぁ。」
その岩コブは砂漠ではかなり目立つ艶やかな濃い青色の色彩で、花崗岩のようにところどころ黒や灰色の斑模様が入っている。
俺は変わった岩の表面に興味が湧いて、もっと近くで見たくて岩に近づいた。
そしてその岩肌を触ろうと手を伸ばそうとしたところ、突然青黒いコブが流動して複数の濁った金色の模様が出現した。
「なんで岩が動くんだ?」
俺は驚くより先に身の危険を感じて、大きく後退した。
すると、俺の後退するタイミングとほぼ同時に、「ビュルビュルルンッ!」と群青色のコブから真っ青な色の紐が飛び出てきた。
「!!!」
俺は急いで未知なるものから離れて、念のためナイフだけでなく
青いコブはもぞもぞしながら3つの山に分離し、それぞれ2つの金色の玉模様が俺の方を向いている。
…違う、あれは目だ。金色の目が俺を凝視しているんだ。
「ゲッゲーロン、ゲフッ。」
「ゲップ。」
「ゴフゴボッ。」
コブと思ったのは俺の頭よりも大きい色鮮やかなカエルだった。それら3匹が岩に鎮座して、俺を威嚇している。
そしてここの砂漠の魔物の特徴なのだろうか、そのふてぶてしい面構えにも小さな角が生えている。
(──── 俺がうっかり近寄ったから攻撃されるとでも思ったのかな?
なら、俺がここから離れるから見逃してくれって…、ダメかなぁ。)
俺の願いも虚しく、カエルは俺を敵認定としたようで見逃してくれないみたいだ。
カエルたちがドスンと岩から降りて俺を凝視する。
「ビュールルルン!」
「ビューン!」
「ヒョロローン!」
先ほどと同じ青い紐のようなものが3本、伸びてきた。…紐に見えたのは粘着性のある舌だ!
怒気を露わにした角カエルどもが、ギョロリと鈍い金色の瞳を動かしながらドスンドスンとジャンプして俺に近づいてくる。
そして、…まただ!また俺に向かってあの青色の長い舌を伸ばしてくる。実に気味が悪い!!
俺が慌てて右に飛び退くが、まるで追跡装置でも付いているかのように、俺が逃げる方向に舌先が伸びて追いかけてくる。
俺は一目散に逃げ出した。
◇
「ヤバい、失敗した!」
一匹のカエルの舌が逃げ惑う俺の片足を絡め取り、強引にぐいっと引っ張った。
俺はバランスを崩して尻を強く打って倒れて、角カエルに引き寄せられ始めた。慌てて足に巻き付いた舌をナイフで切ろうとするが、狙いがうまく定まらない。
俺が捕らえられた姿を見て、他の2匹もドシンドシンとジャンプしながら俺に近づいてくる。
俺は足に絡まるカエルの舌に向けて思わず最大火力で
「ギャローン!」
「うぉっ、あちちーっ!」
最大級の
舌で俺を捕えていたカエルは、直接炎を浴びたわけでもないのに瞬時に表面の皮が干からびて、ひっくり返って動かなくなった。
角カエルが淡く瞬き、魔力が俺に吸収される。
だがそんな俺も、危なく一緒に自分の足を黒焦げにしてしまうところだった。
「やっべー、
まぁ、本当は生活用品なんだから文句言っちゃいけないんだけど。」
俺は急いで死んだカエルの舌を脚から外しながら、あとでスライドバーにストッパーをつけようと思った。
が、そんなことよりまずは目先の危険の回避だ!
◇
砂地のカエルでも火は苦手なようだ。
「このまま逃げ去ってくれればいいのに」と心の中で念じていたが、やはり魔物は好戦的なようで、気を取り直した2匹が大きくジャンプして散開した。
まずいな。複数方向に別れられると俺の方が不利だ。
岩の上に飛び乗った一匹が、俺の斜め上にジャンプしながら「ゲッゲーロン、ぺっ」と盛大に唾を吐き、俺に近づきすぎない程度の位置にドスンと着地した後すぐに離れていった。
「!」
カエルの唾なんて気持ち悪い!
慌てて飛び退いた俺がさっきまで立っていた場所の土を見る。じゅっと、黒く蒸発していた。
もしかしてあの唾は酸を含んでいるのだろうか。あれを浴びるのは危険だ。絶対避けねば!
接近戦は不利だ。
俺は足元の小石を拾ってそれを角カエルに投げたが、かすりもせずに軽々と避けられてしまった。全く意味がなかった。
そして、あんな巨体なのになんて素早い身のこなしだ!
酸の唾を吐く角カエルに近づかずに戦うためには飛び道具で対応したいところなのだが、小石以外だと俺に投げられるものはナイフ2本しかない。だがこれは命綱だから手放せない。
どうしたらいいかな…。
◇
俺が唾を嫌がるのがわかったのか、2匹の角カエルは人間っぽくニヤリといやらしい表情を浮かべ、適度な距離を保って交互に一機離脱しながら唾を吐き始めた。
魔物って思ったより知能が高いんだな。
「ゲロゲロッ。」
「ぷしゅーっ、ぺっ。」
俺は酸性の唾の雨を避けるために、狙いが定まらぬよう方向転換しながら走り続ける。
だが砂地に慣れている
背中から飛んでくる唾がだんだん足元に近いところに落ちてきて視界に入ってくる。ジュワっと土が飛び散る音が怖い。
必死で走る俺の周辺にどんどん黒い穴が増えていく。
俺が逃げ惑う様子を見て、調子に乗った角カエルどもが楽しそうにジャンプ&唾吐きを繰り返す。
角カエルたちが興奮しているのがわかる。
俺が前方に見える岩に向かって回り込んで隠れようとするのを見越して、角カエルたちが挟み撃ちにしようと追いかけてくる。
一か八かの勝負だ!
一瞬だが先を行く俺の身体が岩に隠れて角カエルたちの視界から見えなくなるのを見計らって俺はくるりと体の向きを反転させ、密集して追いかけてきた角カエルたちと対峙する形をとった。
《
魔力温存も大切だが出し惜しみして死んでしまっては元も子もない。
俺は慣れない
そしてその反動を活かしてうまく岩壁を蹴って、急ブレーキをかけた2匹目の近くまで跳んで、そいつの鼻面めがけてナイフを突き刺した。
ジャンプの勢いのままナイフ押し込んだカエルの顔面が真っ二つに割れる。
「ゲゲッ、ギョエー!」
スプラッター化したカエルはまるで人間みたいな悲鳴を上げて絶命した。
そして俺も顔面血まみれのカエルと一緒に砂地に転げるように落ち、カエルの血と砂埃を浴びたままくるっと回転して立ち上がり、さっき蹴り落した残りの角カエルの姿を見定めた。
俺に蹴られて顔が潰れたカエルが猛烈に怒った様子で青い舌を伸ばして俺を捕えようとしてきたので、今度は火力を抑えて
「ギョエェェ~!」
だが舌を大火傷したカエルはその舌を口に仕舞うことなく、むしろ切り離して、火の熱から自分自身をさっと遠ざけた。
切り離されたカエルの舌が、俺の目の前でまるでピクピクと生きているように蠢いている。
(──── なんだよこれ、トカゲのしっぽ切りならぬカエルの舌切りか?すっげー気持ち悪いんだけど。)
暫くうねうねと動いていた舌は、やがてぴたっと動きを止めた。
舌の動きに気を取られていた俺は、油断して俺の背面にカエルが回ったことに気づかなかった。
「ぷしゅーっ、ペっ!」
唾を首元近くで受けてしまった。フードにしていた風呂敷がジュっと言って煙を上げる。
「いい加減にしろっつーの!」
後ろから俺を襲おうととびかかってきた角カエルに向かって、俺はもう一度「《
二度も蹴られたカエルはちょうど岩に叩きつけられ、「ギョエ~ッ」と一声上げて、ボトリと岩から落ちた。
続けざまに攻撃を畳み掛けたかったが、俺も脚がプルプルと震えて動けずにその場に座り込んでしまった。息が完全に上がってる。
もしここで襲われたら…、俺、動けないかも…。
だが幸いなことに、すぐに3匹目の角カエルの魔力を感じることができた。
よかった、やつも絶命したらしい。心底ほっとした。
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