第18話 砂漠生活

 まだ数日しか経っていないのに随分と昔からここで生活しているような気がする。馴れって怖いな。


 ◇


 何が起こるかわからない砂漠の一人旅(?)なので、暑さが厳しい真昼間や危険が増す夜間の移動は極力避けている。


 今は砂漠を汗だくになりながら一日何時間も走ったり歩き続けているわけだけど、これだけでもそれなりの鍛錬になるようだ。

 なぜなら、あれだけ流砂に足を取られて進めなかったのがまるで嘘のように、今ではしっかり砂地を踏み込みながら苦も無く移動出来るようになったんだからな。


 まあ、もっともたかが数日程度の走り込みだけでここまで足腰や体幹が鍛えられるはずもないから、おそらく討伐後に吸収した魔物のちから魔力や能力が俺のちから地力を底上げしてくれてるのだろうね。


 ◇


 食料確保も必要なので完全に魔物を避けるわけにもいかないが、治癒能力もなく手持ちの薬も限られているので、倒せそうな相手とだけ戦い、俺より強そうな相手なら逃げる、を鉄則としている。


 とにかく、安全第一。

 無理無茶無謀、ダメ、厳禁。成長欲求や探究心も我慢、封印。


 好奇心はcuriosity猫を殺すkilled the cat。好奇心が満足satisfactionしたら生き返るbrought him backなんて都合の良いハッピーエンドは待ってないからね。

 

 ────────── ◇◇◇


 幸いなことに今のところ食料調達魔物肉に困ることはない。


 最初は何もない砂漠地帯で手持ちの非常食が尽きたらどうしようかと心配していたが、今では俺でも倒せる魔物が適度にエンカウントしてくる状況に安堵している。

 魔物が襲ってくるのを喜ぶなんて、普通ならおかしな話なんだけどね。


 ただし、魔物肉は普通の家畜の肉より美味しいし栄養価も高いから助かるんだけど、食べすぎると胃の辺りがムカムカしてくるのが難点なんだ。

 きっと消化吸収があまり良くないんだろう。


 お気に入りの魔物肉は、定番の角ウサギホーンラビットと角カエルだ。

 淡白なのに腹持ちが良い兎肉と、ふわトロな贅沢風味の蛙肉。──この噛み応えも風味も異なる2種類の肉は、今の俺の砂漠生活に欠かすことができない貴重なエネルギー源だ。


 ちなみに、カピバラに似た角大ネズミも捕食してみたが、肉の味はまあまあだけど、とにかくやたらと骨が多いし泥臭いんで好みじゃなかった。


 また、何十という集団で襲ってくる小さな蠍は、毒が怖くて先手必勝とばかり火魔道具チャカロッドで焼き殺してしまうので、まだ食べたことがない。

 あの食欲をそそる香ばしい匂いは堪らないんだけどね。


 デカい角蛇も食べてみたいのだけど、動く速度、パワーの全てにおいて俺を上回るので、残念だがまだ手を出せそうにない感じだ。


 俺が存在に気づかないだけかもしれないが、今のところ出会ってる魔物はこれくらいだ。


 ◇


 それにしても、いくら砂漠とは言え草木が全く生えていないって不自然じゃないか?

 雑草の一本も見当たらないこの砂漠の生態系は一体どうなってるんだってツッコミたくなる。


 実際、俺としても、このまま植物がみつからない状況は困るんだ。

 だってこのままだとそう遠くないうちに栄養バランスの偏りに悩まされるじゃないか。──つまり野菜不足ってことだけど。


 ────────── ◇◇◇


 太陽の日差しがきつい時間帯は、魔法陣が展開する快適で安全な不思議なマジカルテントの中で過ごす。

 もちろんただ休んでいるだけでなく、魔力操作や《鑑定》スキルの練習もしているよ。


 俺の魔力は、主に魔法の指輪マジックリング自動回復オートチャージと魔物から吸収する魔力のおかげで日々微増している。…多分だけど。

 それでも元の魔力量には遠く及ばないようで、相変わらず魔力器に備蓄される魔力はほぼ無いに等しい量だし、魔力枯渇による倦怠感や鬱状態も改善しそうにない。


 でも正直なところ、砂漠生活を少しでも快適にしたいから生活魔法くらい使えるようになりたいのだけど、俺のメンターであり自称俺の魔法の師匠である天使アイオーン様が休業バックレ中につき、魔法はまだ何も取得してない。


 一方、魔力操作は「習うより慣れよ」らしく、明確なイメージが思い浮かぶと案外サクッとできることが分かった。想像力イメージ、超大事。


 おかげで、日々の鍛錬の成果か、はたまた俺の魔力センスが高いのかはわからんが、たった数日なのに「魔力纏い」はもちろんのこと、「魔力乗せ」や「魔力伸ばし」もできるようになった。実に良きことだ。

 そして今は、「魔力飛ばし」に挑戦中だ。

 だって、少しでも接近戦以外で戦える攻撃手段を増やしたいからね。


 ────────── ◇◇◇


 《鑑定》スキルの練習は、目に入るものを片っ端から何回も繰り返し鑑定練習していたら、ようやく鑑定対象を直接触れなくても鑑定できるようになったんだ。…とは言っても、まだ手近な範囲までなんだけどね。

 実は当たり前にできそうで出来なかったことなんだ。


 触れずに鑑定できるということは、便利なだけでなく、危険かもしれない未知のものを触らずに判別できるのだから、より安全性が高まるわけで、すごく嬉しい。


 ただし残念ながら相変わらず予測分析はできない。おそらく《鑑定》スキルは既知の情報を元に観察・解析する能力なのかなと推測している。


 ◇


 そして鑑定スキルの派生だろうか、なんと、《索敵》スキルまで身についたのは僥倖だ。


 《索敵》はサーチしたいと意識すると視界の景色中に赤い点滅ランプが灯って敵対する「何か」がいることがわかるスキルだ。

 まさに身の安全性を求める俺が欲しかったスキルの一つだよ。


 まだ習熟度が低いので探索範囲の狭さや敵の細かな情報が取得できないなど制約も多いけど、例えば岩の裏を覗き見する必要がなくなったり、なにより夜間の暗闇の中でも敵の有無がわかるのはありがたいことだよね。

 これもガンガン使って、先制攻撃ができるくらいまで習熟度を上げたい。


 ということで現時点で俺が保有するスキルは、魔力で能力アップする系の《脚力》《突進》と、魔力不要な《鑑定》に《索敵》が加わったことになる。

 

 

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