第12話 火と水

 暑さが突き抜けるようなれき砂漠は、荒々しい風景が広がっている。

 砂と石礫せきれきが広大な地表を覆い尽くし、その高低の谷間が入り混じる景色はまるで大自然が描いた地図のようだ。


 だが言いかえれば、それだけ厳しい環境ということだ。

 とにかく大小の石溜まりがところどころ点在しているだけの砂地なのだから。

 ということで、次はとにかく少しでも休めるような場所、できれば岩を探すんだ。


 ズサッ、ズサッ、ズズズズズッ、ふー。

 ズサッ、ズサッ、…。


 流砂に足がとられて足が砂の中に埋まってしまう。ちっとも進まない。

 大きすぎる靴のためしっかりと足裏で砂を踏めてないのだろう、力が変な方向に入っちまう。

 思った通り軟弱で筋力のないこの体では力任せに一気に進むのは期待できそうにない。残念だが一歩一歩踏みしめて進むのみだ。


(──── さて、これからどうしよう…。)


 ギラつく太陽が、容赦なく俺に暑い視線を投げ掛ける。遮るものは何もない。

 さらに砂を含んだ熱風が俺を責め立てるように背中を押し続ける。砂が目に入って痛い。

 

 とりあえず、強風に煽られながら太陽を背にして歩き始める。

 隆起の少ないひたすら広く感じる砂漠だが、なぜか風が止む時がない。

 少し歩いただけでも汗がぽたぽた目にしみこんでくる。


 ────────── ◇◇◇


 俺はまだ子供で背が低いため、砂地からの照り返しが結構きつい。

 なので、あまり水分を取りすぎても却って体が疲れるだけとわかっても、ついつい水筒の水を口に含んでしまう。

 ポーチの水筒の水を一口含んでは口の中で水を転がす。


 ボディバッグに収まるサイズ、──300㎖くらいかな?──の水筒には常に冷たい美味い水が湧き出て満たされている。


 この水筒、どうやら優れた職人の手で作られた魔導具のようで、狭い水筒の内面には見たことがないくらい精緻な魔法陣が描かれており、さらに底にはびっしりと黒い魔石が敷き詰められている。

 生活魔法が使えない今の俺にとっての、まさに命綱だ。


 うだるような砂漠の中で水の枯渇を心配することなく飲めるなんて、こんなにうれしいことはない。

 水筒の蓋をしっかりと締めてポーチにしまい、再びとぼとぼと歩き出す。


 まぶしさに目を傷めないように気を付けながら、遠くを眺めたり近くをきょろきょろと見回して周囲の気配を確認しつつ、再び一歩ずつ歩き始める。


 ────────── ◇◇◇


 そしてもう一つ、俺が早々に確認したい魔導具。それは、水と同じくらい大切な火の魔導具だ。


 バッグから着火棒火魔道具を取り出して眺める。

 名前だけでなく形状も前世のチャ〇カ〇ンみたいな形だが棒の部分が少し長めだ。

 握り部分ついているボタンとスライドスイッチのうち、ボタンの方を押してみた。


 ── シュボっ。


 …うーん、まるでマッチの灯火だな。

 持ち手が熱くならずにずっと火がついていてくれるのはいいが、あまりにもしょぼすぎる。これでは燭台や薪に火を付ける時にしか使えないぞ。


 俺は少しガッカリしてもう一度ボタンを押して火を消した。

 そして今度は隣にあるゲージ目盛があるバーを押しながらスライドさせた。


 ── シュパっ、ボウゥゥゥゥ…。


 ゲージの中ほどまでバーをスライドさせたところ、いきなり白い炎が迸る。


「うわぁぁ~!

 ちょっと待て、こんな短い持ち手のままでうっかり手離したら俺まで焼け焦げちまいそうだ!」


 慌ててバーを元の位置まで戻すと、嘘のように炎が消えた。


 いきなり高温の炎が放出されたて焦った。

 俺としては、せいぜいイワ〇ニのトーチバーナー程度を期待していたのだが、今のはどうみてもそれより高温だろう。

 不思議と持ち手部分は熱くはならなかったが、俺の心の準備ができてなかった。


 今度は先ほどよりはかなり手前のでところでバーを止めたところ、赤味がかったほどよい勢いの炎が付いた。

 うん、きっと肉を焼くならこれくらいで充分だろう。


 この着火棒チャカロッドは、高温の炎を放出していても持ち手が熱くならない。実に良き。

 キッチングッズであんなに高温が出力できる必要なんてないと思うが、火力については都度試していこう。

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