第11話 身嗜み
なぜなら今の俺は大人の服の中に埋没状態で身動きがとれないような情けない状態だから、もし何かあったら一発でアウトだ。
◇
服は、前世ほどではないがそれなりにカネを掛けた良い品質のようだ。
少しごわごわした赤色のシャツと光沢のある
ベストの内側には前後に
サスペンダーで吊り下げられた半ズボンは、今の俺にはくるぶしまで届くキュロットスカートのようだ。
ベストとおそろいの革製で、やはり裏地に脛楯代わりの帷子が縫い付けられている。
足元は少し厚手の若草色の靴下に革製のショートブーツで、靴底はしっかりとした滑り止めの形状をしている。
とまあ、市街地を歩くおしゃれ着というよりは、近くの森に採取かキャンプにでも行くつもりだったのだろうか、しっかりした生地の丈夫な仕立ての服装だ。
だがいくら立派な仕立てとしても、着ることができないなら意味がない。
────────── ◇◇◇
さてと…。
周囲を警戒しながら、俺が背負っていたらしいリュックサックの横に移動する。
その上にずり落ちたヒップバックと腰ベルトを置き、いつでも使えるように腰につけていたナイフを荷物の一番上に置く。
ここからは短時間勝負だ。
大丈夫。誰もいないことだし、堂々と恥じることなくヌードショーといこうではないか。
まず嬉し恥ずかしのパンツは簡易褌タイプなので、長さを調節して締め直すだけで済んだ。
これで最低限の威厳は保てるな。
ぶかぶかの赤いシャツをいったん脱いで、荷物の上に置く。
アンダーシャツ姿で先にズボンを正す。
ズボンのゆるゆるな腰回りをヒップバックから見つけた手ぬぐいをサッシュベルトのように結んで体にフィットさせた。
子供には大きな半ズボンは脚にへばりつくことなくゆったりとなり、若干動きずらいことを我慢すればむしろ通気性がよく、砂漠では助かるかもしれない。
ただし、サスペンダーは役に立ちそうもないので諦めてリュックサックに仕舞った。
ズボンを合わせてから
最後に、さっき脱いだ赤色のシャツをコート代わりに上から羽織って、袖を捲る。シャツの上から腰紐を適度に結わえる。
こうしておけば、この柔肌を晒してうっかり火膨れ状態になってしまう心配もないだろう。
焼けつく砂地を裸足で歩くわけにもいかないので、靴下をしっかり上まで上げて、ぶかぶかのショートブーツも脱げないように全体を締め直す。
さらに、靴紐をシューズバンドのように足の甲から靴底までくぐらせたり足首にくるりと巻き付けてみる。
ちょっと周辺を歩いてみて、最初よりは動けるように改善したことを確認する。
ポーチの中にまだ風呂敷と手ぬぐいみたいな薄手の布が何枚かあったので、もう一枚の手ぬぐいを帽子代わりに頭に巻き、風呂敷は風と日差し避けのストール代わりにした。
大げさにみえるかもしれないが、目はもちろんのこと、鼻や口もできるだけ覆って紫外線や熱風からの乾燥、場合によっては風雨から守らないと。日射病だけに注意すればいいってもんじゃないよね。
これで一応、俺が考えられる限りの砂漠対策をしたつもりだけど大丈夫かな?あとは都度、適宜見直していくしかないだろう。
最後に装飾品だが、俺はなぜか指に2つの古ぼけた指輪を装着していて、そのうちの一つは魔力回復してくれるとわかった。
であればもう一つも単なる装飾ではなく、例えば体力回復してくれるなど、何か特殊な働きをしてくれるに違いないと期待する。
とりあえず指輪は指から抜けることなくぴったりと嵌っていることだし、邪魔にならないのでそのままにしておこう。
それにしても俺の爪は随分と綺麗に手入れされているようだな。
まぁこの指先を見ても、きっと冒険者のような肉体労働系の仕事ではなかったと予想する。
────────── ◇◇◇
服装も整えたことだし、あとは軽く荷物を整理してここから移動してどこか岩場とか木陰を探すとするか。
背負ったリュックサックは見た目が大きい割には軽い。
ちらっと見た感じ、食料と着替えの他には、寝袋、大きな布や長い棒はテントだろうか、それから火付け棒や携帯コンロなどの料理道具等が見えた。いかにもキャンプグッズっぽい品揃えだ。
もっと細かく確認したいのだけど、ゆっくりできる場所を見つけるまで我慢だ。
ポケット付きの腰ベルトの中身は緊急性のなさそうなものだったので、とりあえずナイフだけ抜いて、あとは中身ごとリュックサックに放り込んだ。
ヒップバッグには、ぱっと見て直ぐ使いそうな薬の小瓶と数種類の薬草、携帯食料少々と水筒が入っていたので、とりあえずボディポーチのように肩から斜め掛けにした。
そうそう、リュックにあった火付け用の魔導具をポーチに入れ直しておこうかな。
◇
予期せぬ砂漠で子供返りした。
そんなところに突然現れた話し
幸か不幸か、
…ついさっきまではな。
だって、今の俺はまだ何も魔法を覚えてないし。
さらに、元々シティーボーイだったらしい俺の身体は実に軟弱な体つきの上、武器もナイフ2本だけいう心もとない装備だ。
さすがに興奮が冷めれば悲観的にもなるだろう。
だが悲しんでいるばかりでは何も進まない。
当座の身繕いも終わったことだし、俺はボディポーチの上からリュックサックを背負って立ち上がった。
さぁ、いよいよここからがスタートだ!
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