第14話 Mystical Contents
再び歩き始めてどのくらい経っただろうか。
相変わらず流砂に足をとられて距離が進まない。腰を落として進めば歩みも捗るのではと思ったが、結局、今日は全く慣れなかった。
「マズイな。暗闇になる前にどこか寝場所を決めないと…。」
艶やかなオレンジ色だった空はどす黒い灰色に変わりつつあり、それに伴い気温も急激に下がってきた。相変わらずの砂風が今は冷たく感じる。
夜が訪れれば放射冷却でもっと寒さが増すだろう。
それに夜中に無暗に歩き回るのは危険だ。砂漠の夜は、魔物だけでなく夜行性の動物も活動的になるだろうから。
◇
「もう今晩はここにテントを張っちゃおうかな…。」
半ばやけくそに近い気持ちでうねる砂地にテントを設置しようと諦めかけた時、視界に小さな突起物のシルエットが飛び込んできた。
淡い期待を抱きながら、念のため静かに黒い物体へ近寄っていく。
「これって
眼下の少し窪んだ場所に比較的硬く締まった砂地が広がっており、その先に、大小の石に囲まれるように、まるで釣針のような形をした不安定な小さな岩が顔をのぞかせている。
俺は滑り落ちるように斜面を下りながら、その小さな岩に駆け寄った。
◇
岩は本当に小さくて、辛うじて
それでも完全な夜になる前に身を隠すことができる場所が見つかったと思うと、ちょっと泣きそうな気分になった。
暗闇が迫る中、俺はなだれ込むように鉤岩の窪みに身を預けた。
「ふぅ…。」
思わず安堵の吐息が漏れる。
完全に風を遮るほど大きくはない。だがそれでも常に流動し続ける砂地とは違い、石の上という安定感は何物にも代えがたい。
さてと。疲労困憊ですぐにでもここで眠りたいところだが、このまま何も食べないと空腹が気になって夜中に目を覚ましそうだ。
ということで、俺は逸る気持ちを抑え、リュックサックの中身を確認し始めた。
なぜなら、
────────── ◇◇◇
リュックサックの中は3層に仕切られて整理されている。
一番背中に近い場所には、厚手のテント幕と寝袋がそれぞれ専用の収納袋に収まっている。
鉤岩の窪みはあまり高さがないのでテント幕はリュックサックの中に戻し、寝袋だけ出して広げた。
袋から取り出した寝袋は驚くほどふわふわで、布地も肌触りが良い。気を付けないと寝袋の上に座っているだけでうっかり眠りそうだ。
…いや、今はだめだ。食事をするまでぐっと堪えないと。頑張るんだ、俺!
◇
外側に近い仕切り部分には、組み立て式テントや小さなカンテラなどの小物類があった。それからいくつか魔石が入っている袋も。
テント幕同様、ポールなどは今晩は使わないので後回しだ。
俺はカンテラに手を伸ばし、スライドバーを引いて灯を燈した。
魔石は、いかにも店で購入したような整形された綺麗なものと、不揃いなものが入り混じっていた。
なるほど、市販の赤色や橙色っぽい魔石は
拾って汚れたままの魔石も混ざっていたので、俺は昼間に討伐したホーンラビットの魔石も袋の中に放り込んだ。ついでに使いどころのわからない角も一緒に入れた。
◇
真ん中の仕切りには、
「やったね、コンロだ!こういうのを探していたんだよ~!
これで今晩は肉が食えるぞっ♪」
うれしさのあまり、ちょっと声が裏返る。
それ以外の細々としたキッチン・グッズ、──カトラリーだけでなく鍋や皿まで──は、3段の超薄いスタックボックスにうまく組み合わせて動かないように仕舞っている。
それからコンパクトな裁縫道具と皮革工芸の道具。
裁縫道具はともかく、俺は皮鞣しの薬品を眺めながら「なんでキャンプにこんなものが必要なんだろう」と独りごちたが、邪魔になるほどではないのでそのまま元に戻した。
◇
それにしても、リュックサックの中身は随分と馴染み深い、まるで前世の日本が得意そうなコンセプトのグッズだったな。
それだけじゃない。
中身を全部出してみてわかったけど、このリュック自体、とてもじゃないが5歳の子供が背負える重さじゃなかったはずだ。
これもきっとリュックサックの背面に施されている魔法陣のおかげに違いない。
…って、なんだよ、本当に
────────── ◇◇◇
料理器具はあったが調味料がないので、ボディポーチの中身を確認してみる。
水筒と手ぬぐいなどの布以外は薬瓶や薬草と、…ビンゴだ、塩だけでなく胡椒の小瓶もあったぞ!
それからこっちは切り傷などに使う化膿止めの軟膏っぽい。軟膏ってちょっと使うには便利なんだよな。
薬草は
無造作に採取袋に入れてあるところを見ると、採りたてなのかもしれない。袋を開くと独特の香りが鼻をつく。
調味料を肌身離さずに持ち歩くのは、調味料自体が高価なものだからだろう。常に身に着けて盗まれないようにしたい気持ちは想像に難くない。
この世界では塩は多少入手しやすくなったがまだやや高めで、塩の次に人気の胡椒は品薄ゆえにさらにお高い。砂糖などもってのほか。
── 余談だが、甘味を使ったデザートに至っては上位貴族が客をもてなす最上級のサービスの代名詞となるほどで、平民には縁がない食べ物の一つだ。
◇
それにしてもこんなに色々と準備して俺はどこに行くつもりだったのだろうか?
おかげで今の俺には大助かりだからいいんだけど、ちょっとは気になるよね。
────────── ◇◇◇
そういえば、腰ベルトの小さなポケットポーチの中身はなんだったっけ?
ちらりと見た時は、数枚の硬貨と、この世界ではまだ流通していない洋紙を使った手帳にインク壺がないボールペンのようなものが目に入ってきたな。
それから最後に、不思議な模様が描かれたタブレットがあったな。あのタブレットは何だったんだろう…?
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