第一話・大団円?
「こんな時間にごめんね」
「ううん、私はいいんだけど……芙蓉は? 休んでなくて平気なの?」
晩御飯を食べてから自室に戻り項垂れていると、芙蓉からラインが来た。
『今から会いたい』、とのこと。いつもならその理由や私の都合等を事細かに聞き出してからそういった提案をする彼女にしては、非常に珍しいメッセージだ。
「もう大丈夫。さっきはごめんね」
時計の針がそろそろ二十一時を回ろうとする頃、私達は駅前の公園で待ち合わせて、そのまま、空いていたベンチに並んで腰掛けた。
人通りは少なく、鈴虫の声だけが、青い夏の死を悼むように寂しく響いている。
「聞かせてくれる? 澄河ちゃんが……告白をした話」
彼女はそう切り出したものの、私と目を合わせてくれない。
「できたらね、その人のどこが良いと思って告白したのかを、教えてほしいな」
なんというか、声に凄みがある。口調は相変わらず柔らかいから、妙な違和感を覚えた。
よっぽど深刻な事かと思っているのだろうか。違うんだよ芙蓉。笑ってネタにしてくれた方がずっと楽なんだよ……。
『ごめん、今は誰かと付き合うとか……考えられない』
芙蓉の問いに返そうとした時、フラッシュバックしたのは、想像とは随分違う彼からの答え。
『えっマジ!? 俺のこと好きだったん!? じゃあ付き合っちゃう!?』みたいな展開になると楽観していた自分が恥ずかしい。
恋人が欲しいと奮起したきっかけはやっぱり、芙蓉に置いていかれたくなかったから。
けれど当然、相手が誰でもいいわけじゃない。
「
「…………」
「あっ、今バカみたいって思ったでしょ。でもさ、私にとっては結構衝撃強かったんだよね、異性からそんなこと言ってもらえたの初めてだったし……」
「…………」
「んでさ、彼女もいないらしいしさ、会ってから一年くらい経つしさ、もしかしてこれあれか? 告白待ちか? って思ったら……まぁ、この結果ですわ。恋愛経験値ゼロの恥ずかしい勘違い女子高生大爆死〜。……もう、笑ってよ芙蓉ちゃ〜ん」
散々自分語りをしておいてリアクションを求める自分の面倒臭さに辟易していると、ようやく芙蓉は私の目を見て、言葉を紡いだ。
「笑わないよ。それにバカみたいなんて絶対思わない。でもね、澄河ちゃん」
「はい……」
すっごいガチトーンじゃん……えっ、なんか怖い。私今からお説教される……?
「私だって、言ってたよ」
「……?」
「澄河ちゃんが髪を切ったとき。シャンプーを変えたとき、ネイルをしたとき、夜更かししたとき、テストの結果が悪かったとき、新しい下着……じゃなくて服を着てるとき。澄河ちゃんの変化は……一個だって見落としてない自信がある」
「たし、かに。……??」
確かにそうだ。芙蓉はいつも私の、どんな些細な変化にも気づいてくれて、素敵だねって、可愛いねって、最高だねって、お金払うねって言ってくれる。(最後のは冗談だってわかってるけど財布出してくる速度が早くてたまに怖い)
でも……ん? 話の流れがわからない。私がバカ過ぎるの??
だって芙蓉が如才なくて優しくて真面目なことはもう五年前から知ってるし……。ともすれば論点のすり替えと受け取れる程ズレた会話のキャッチボール……ん、え、え、もしかして……。
「ごめんね、逸れちゃった」
「いやいや……話聞いてくれただけでありがたいよ」
「ねぇ、澄河ちゃん、あのね——」
不意に、突然。左手が温もりに包まれる。珍しい。私からは多々あるけれど、芙蓉から手を握ってくれるなんて。とか、感心してる場合じゃない。手のひらとは真逆に、なんて冷たい声なんだろう。
「——私……許せない」
めっちゃ怒ってんじゃん……!
「どうしてか、わかる?」
「っ!!!」
私が神田に告白して芙蓉が怒る理由なんて……たった一つしかない……!
そういうこと!? やっぱそうなの!?
「ごめん、そうだよね……こりゃ完全に私が悪いや……」
「!! わかって、くれたの? 本当に……??」
「あのね、いくら私が鈍ちんでも今の芙蓉を見てたらわかるよ!」
「……良かった……本当に良かったよぉ……」
やっぱり……そうだったんだね……芙蓉……神田のこと好きなんだ……。
「……その……私の気持ち……わかった上で……これからも……一緒にいてくれるの?」
「当たり前じゃん! 幼馴染なめんな! ずっと一緒って約束したでしょ!」
「ぅ……うっ……澄河ちゃぁぁあん!」
大粒の涙をボロボロと溢しながら、芙蓉は私の胸に飛び込んできた。
左手で頭を撫で、右手で背中をさすり、「よしよし」なんて言ってみる。
いやはや……芙蓉も恋するお年頃ですか……こりゃあ何でも協力してあげないと……!!
×
ど、どうしよう……どうしようどうしようどうしよう……!
どう足掻いてもモヤモヤが晴れなくて……あのままじゃとんでもないことをしでかしそうで怖かったから……衝動的に呼び出しちゃったら……!!
澄河ちゃんを傷つけたその男の存在が許せないってちゃんと言葉にしたら……!!!
私の好きって気持ち……届いちゃった……伝わっちゃった……!!!!
しかも……それでも一緒にいてくれるって……もう……私たち……完全に恋人同士だよね!? こんなにギュッとしてくれるって……そういうことでいいんだよね!? 澄河ちゃん!!
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