第41話:売れない音楽隊




 この世界の音楽といえば基本的にクラシックだ。


 ならばそれ以外のポップス系の音楽は存在しないのかというとそんなことはない。


 彼らはサーカス団の一員として働いていたり、大きな町の広場などで大道芸的に稼いでいる。 とはいえ社会的な地位は高くはない。


「それで町で声をかければ協力してくれる人もいるんじゃないかなーって?」


 俺と町を歩くシイラは呆れたようにため息を吐いた。


「行き当たりばったりすぎない?」

「まあ自覚はしてるけど、結構ありだと思うんだよな」


 劇で使うことにより宣伝になるのが一つ。

 そしてこの録音機が広まれば、サンプル音楽として使っていくことを条件にしてもいいし、音楽隊の広告を録音機に同封するのも面白いだろう。


 そもそも研究費として支給される金でもちろんいくらか支払いはするので、仕事として受けてもらうことはできるはずだ。


「おーいるいる」


 まるで前世の駅前や公園のように、路上演奏している集団がいた。


 陽気な音楽を演奏していたり、踊り子がダンスしてたり、同時に芸をしてみたり、にぎやかで見ていて面白い。


 その中でも人気のあるないは明らかで、俺が足を止めたのは誰にも注目されていない音楽隊であった。


「なんでここがいいの?」


 音楽隊の前に置かれた箱に銅貨を投げ入れる俺を見て、シイラが首を傾げた。


「どこも同じくらいいいと思うんだけど、ここが人気ないのは華がないからだと思うんだ」


 俺は音楽隊の人たちに聞こえないようシイラに耳打ちした。


 他の音楽隊には美しい踊り子や、可愛い歌い手など必ず看板となり客を引き付ける要素がある。

 しかしこの音楽隊は見た目に気を遣うことなく、あくまで音楽しかしていない。 だからエンタメとして他の音楽隊に負けていると俺は感じた。


「だけど録音なら関係ないだろ?」

「確かに」

「それに人気が無い方が話を受けてもらいやすいかもってのが大きいけど」


  俺は音楽隊の演奏が終わったタイミングで拍手しながら話しかけた。


「ブラボーブラボー!」

「ありがとう! そんなに喜んでもらえるなんて久しぶりですよ!」


 音楽隊の一人である女性は頬を上気させて満面の笑みを浮かべた。


「実は私は共立国際魔法学園で遺物の研究をしてりまして」

「はあ……?」

「今度行われる研究の発表会で遺物を利用した演劇を行おうと考えているのです。 そこであなた方にお願いがあって話しかけさせていただきました」


 俺がそう言うと、音楽隊たちの表情は喜びから一変怪しんだものへと変わった。 詐欺か何かだと思われているのかもしれない。


「あなた方に演劇用の音楽の作成を依頼したいのです」

「……え? え? それは無料ではなくお給金がいただける有料のお仕事なんでしょうか?」

「ええ、もちろん。 高額の予算はありませんが研究費からそれなりの金額はお支払いできると思います」


 音楽隊の女性はごくりと唾を吞み込んだ。


「それは具体的においくらくらいなんでしょうか?」

「その辺りは知見がありませんので、すり合わせていくこととなると思います。 もし見合った金額を支払えそうにないと、判断されたら断っていただいても構いません。 お話だけでも聞いていただけませんでしょうか?」

「……」

「あの? いかがでしょうか? 難しいですか……?」


 黙りこくった女性の反応を伺いながら、俺が恐る恐る尋ねると、彼女は勢いよく顔を上げて興奮した様子で俺の両手を握った。


「ぜひ!! こちらこそよろしくお願いします!!」

「いやいや、まずは話を」

「いえ!! いくらでもやらせていただきます!! 演劇に使っていただけるなんて光栄な話初めてで……そもそも仕事をいただくことも初めてなので、もう嬉しくて嬉しくて!!!」


 音楽隊の他のメンツも女生徒気持ちは同じようで、依頼を受けてもらえそうで俺は安堵の息を吐いた。


「では依頼の内容を詳しくお話します」


 俺は場所を移し、生演奏ではないこと、録音した音声を使うことを伝えたが、結局二つ返事で了承された。


 そして録音機に興味津々らしく、欲しい音の相談も兼ねて後日研究室に来てもらうこととなるのであった。





「どうぞ、ここが研究室です。 そして研究員たちです」

「ひっ?!」


 音楽隊の人たちは学校を見た段階で驚き緊張してはいたが、メンツを見ておののくように後ずさった。


「初めまして。 私は脚本を担当いたしますツナオと申します」


 ツナオが爽やかに挨拶すると、音楽隊の女性は青ざめた顔色で俺を見た。


「この方はもしかして王子様……だったり……?」

「はい、そうですよ」

「あわわわわ、きゅ~」


 俺が頷くと女性は可笑しな声を出して、よろよろと座り込んでしまった。


 あまり気にしていなかったがよくよく考えたらここにいるメンツは豪華だ。


 皇女に王子、そして勇者。


 彼らの発するカリスマオーラを感じて、精神的に参ってしまったことに俺はその時ようやく気がついた。


「とりあえずタコパする?」

「「「しないから!」」」


 マロのずれた発言に突っ込みを入れつつ、音楽隊が遺物研究会のメンツに慣れるのは時間がかかりそうだと、ため息を吐くのであった。








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