第38話:調査終了/本格始動
「ここは非常に危険である。 何が起こっても可笑しくないから、閉鎖してしっかりじっくりと研究すべきでる――この私が!!」
着替えを済ませたピトは勇者パーティーと顔を合わせるなり、真面目くさった表情でそんなことを言った。
誰が聞いても私利私欲による発言であることは明白だ。
「本当に分かったことを正直に教えなさい」
「……そんな睨むな。 ちょっとしたジョークだろう」
ピト曰く、ここは空から降ってくる遺物と同じものであるらしい。
「前にドラゴンに乗って遺物が降る瞬間を確認したことがある。 遺物は突如空間にひずみが現れ、落ちてくるが場所や条件に明確な基準はない。 高度も一定ではない」
「ドラゴンに乗るって、確か相当費用がかかると思う」
「うむ、当時私は小金持ちであったが全ての金と人に借りた金でなんとか乗れたぞ」
「エクリオ、この人って本当に頭いいの?」
「ある意味バカではあるな」
ピトが咳払いして、話を戻す。
「そもそも地中から掘り起こされるケースもあるし、ダンジョンの中に遺物が出現しても可笑しくない。 故にあの街はダンジョンの一部ではないし、特別な意味があるわけでもない。 一般的にゴミと呼ばれているそれと同じものだろう」
ピトは自虐的とも取れる言い方をしたが、本人は至って平然としているのであくまで客観的に述べたに過ぎないのだろう。
「そして遺物の出現に関しては未だに研究は進んでいないから、これ以上を知りたければ資金提供を得たうえで本格的に調査するしかあるまい。 私以上にこの分野に詳しい人間はいないだろうから、詳細な原理や原因については諦めることだ」
「そう。 それが分かっただけでも充分。 依頼して正解だった、ありがとう」
「……うむ、だが念のため今日も少し調査しても良いぞ?」
勇者マロが素直に見解を受け入れたことに、ピトは少し驚いた表情をした。 そしてまだ町を見足りないようだ。
「調査は終わり。 護衛の依頼なら正規の値段で受ける」
「くっ……零細研究者に無茶を言うな」
勇者パーティーを個人で雇うとなると、どれほどの料金になるのか想像がつかないが高額であることは間違いないだろう。
こうして死んだダンジョンの調査はほとんど判明したことがないまま終わるのであった。
ただ俺としてはピトと話すきっかけになったので、関わって良かった。
「助手、金を貸してくれ」
「それは返ってくる算段はあるのか?」
「……」
「ダメだ。 諦めろ」
「やだやだやだ、行きたい行きたい行きたーい!」
しかし調査が終わって数日間は、ずっとそんな感じだったので、早く落ち着いてくれと嵐が去るのを待つように俺は心を無にするのであった。
〇
「ダンジョンって買えたりするのかな?」
ピトがしきりにダンジョンダンジョンうるさいので、俺はふと思ったことを研究員のメンバーに尋ねてみた。
するとツナオが苦笑いして首を横に振った。
「難しいね。 なにせ発見されたダンジョンは国と冒険者ギルドが権利を持つ仕組みだから……ギルドと国、両方から恩賞を与えられるレベルの偉業を成さないと」
「えぇ……そんな偉業ってもう魔王倒すとか、ドラゴンを退けるとかそういう伝説級しか思い浮かばないんだけど……」
「実際、それに近しい偉業を成してダンジョンに隠居した賢者も過去いるみたいです」
さすが皇女、王子コンビは庶民の知らない内情に詳しい。
「あー、でもその賢者って死後リッチとなって、今そこは凶悪なダンジョンとなって誰も寄り付かないんじゃなかった?」
「よくご存じですね。 私も一度は手合わせしてみたいところです」
相変わらず戦闘狂なフブキに、シイラが口元を引きつらせた。
「そもそもダンジョンはきちんと管理すれば永続的にアイテムや素材を生み出す金の実る木みたいなものだから、よっぽど手放さないと思う。 例の調査に行ったダンジョンのことだよね……そんなに気に入ったのかい?」
「いや、好奇心で聞いただけだよ」
ピトほどではないが、実現可能な範囲ならばあの街が欲しいとは思う。
しかしそんな偉業を為してまで欲するほどの執着は俺にはない。
「結局報酬は遺物だったんだっけ? エクリオは本当に遺物が好きなんだね」
ツナオに呆れたように笑われて、俺は苦笑いを返すことしかできなかった。
本当を言えば普通に金が欲しかった。
しかしスマホをどうしても回収したかったため、俺とピトの報酬は好きな遺物を持ち帰ることとしてもらった。
ピトに関してはスマホとは関係なく、元からそのつもりであったようだが。
「ところで今日、みんなに集まってもらったのは文化祭に関していいアイディアを思いついたからなんだ。 みんなも何か意見があったら教えて欲しい」
文化祭の発表内容について、みんなはあまり思いつかなかったようでたこ焼きがなぜか有力候補となっていた。
「演劇をやらないか?」
俺がそう言うと、みんなぽかんとした表情になった、
それはそうだ、日本の文化祭ならともかく、遺物の研究というには突拍子が無さすぎる。
「俺も驚いたんだけど、知り合いの遺物研究者が遺物の技術を使って録音機を発明した」
そう、二年ぶりに会ったピトは俺がいない間研究に没頭し一つの成果を出していたのだ。
しかし彼女は過去の研究会を追放されるようにして、村にたどり着いたため発表する場がない。
そこで俺は文化祭を利用してピトの偉業を多くの人に知ってもらうことを思いついたのだ。
「それはすごいね! 面白そうだ、僕はぜひやりたい!」
ツナオを皮切りに、シイラは渋っていたもののこの場にいない勇者マロ以外は賛成してくれた。
こうして俺たち遺物研究会は文化祭を目指して、話し合いを進めるのであった。
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