第4章~ダンジョンの日本都市+ピトの研究+文化祭

第37話:近況報告/ピト大興奮




 久しぶりのピトの家は相変わらず、いや以前よりも遺物でごった返している気がした。


「相変わらず物だらけだな」


 俺は最近ここらへんでの遺物拾いをしていなかった。 その分の遺物はピトがせっせと運び込んでいたんだろう。


「うむ、頑張って集めたぞ」

「なんで自慢げなんだよ……」


 一度会ってしまえば気まずさも消えて、いつも通りに口は回る。


「そんなことよりどうなんだ、その学園の方は?」


 意外にもピトの方から学園の話題が出た。


 話したい事は山のようにあるが、まず話さなければならないことが一つある。


「学園長パト……母親にあった」

「ああ、そうだろうな。 元気だったか?」

「……元気だったよ。 心配してたぞ」


 思ったよりも素直な返しに俺は少し驚いた。


「そうか。 なら良かった」

「会いに行ったりしないのか? お節介かもしれないけど」

「今の私では会いに行っても合わせる顔が無い……せめて遺物で一旗揚げるまでは」


 学園長の様子からして、そんなドライな人には思えなかった。 けれど過去二人の間には色々とあったのだろう。


 単純に勇気が出ないこともあるのだろう。

 だから何かを成すことを母親に会うきっかけに、と思っているのかもしれない。


 もしそうなら俺にできることは、


『そんなこと言ってないで会いに行ってやれよ! 母親にいつでも会えると思うなよ!』


 なんて説教ではなく、これまで通り彼女の研究を手伝うことが一番だと思えた。


「今日、俺がここに来たのはとあるダンジョンの調査への協力を頼むためだ」

「そうか。 ダンジョンは専門外だよ」

「それは分かってる。 見てくれ」


 俺はダンジョンで撮影した写真をピトに渡す。


 すると興味なさそうだった彼女は食い入るように写真を見つめた。


「これは、なんだ……見たことのない街並み。 だけどどこか見覚えのあるような――」

「見覚えはないが、聞き覚えはあるはずだ。 せがまれて何度も話したからな」

「……異世界転生。 まさか異世界の街……?!」


 俺がピトに異世界転生をカミングアウトした後、しつこく彼女にせがまれてした日本の話と写真が一致したようだ。


「これがダンジョンと何の関係がある?! いやここでその質問は愚問だ……そのダンジョンのこの街を調査するのだな?! そうなんだよなっ?!」

「まあそうなんだけど……ちょっと落ち着こうか」

「ちょっと待ってろ!!」

「いやいや、話聞けや……」


 ピトはうっきうきで支度を済ませると、俺の手を引いた。


「さあ行くぞ!! 今すぐに!!」

「いや、シイラの迎えが来る明日までは行けないから」

「……っ」


 俺がそう言うと、ピトはまるで絶望したかのように愕然とするのであった。




 

 翌日、勇者パーティーと共にダンジョンにやって来たピトは街に下りるなり、雄たけびを上げながら駆けだしていった。


「うおおおおおおお!!!」


 それを見た勇者たちは若干引いた様子である。


「あれに任せて大丈夫?」

「うーん、まあ遺物方面に詳しいことだけは確かだから」


 大丈夫とは即答できない。


 しかしこの場で最も不安なことは、ピトの調査結果よりも彼女がここに住むなどと言い出さないかどうかである。


 さすがに水道も、食料もないし、家からの腐敗臭が漂っているのでそんなことにはならないと信じたい。


「おーい、あんま遠くに行くなよー」

「助手!! これはなんだ!?」

「それは――」

「これは? あれは? うひょおおおお宝の山だああああ!!」


 テンションが上がり切ったピトは、まるで宝物庫に忍び入った銀行強盗のような口調いなりながら、夢中で街を漁るのだった。


 そして最終的には勇者マロのビンタによって気絶してもらい、近くの宿へと連行されていった。






「あれ……ここは?」


 翌日、宿の部屋へピトを起こしに行くと彼女はあたりをきょろきょろと見まわして首を傾げた。


「ここは宿だよ。 ピトが我を失っていたから強制送還されたんだ」

「ああ、そんな……貴重な調査時間をロスしてしまったじゃないか! こうしちゃいられない!!」

「ちょ、ちょっとここで着替えるな!?」


 状況を理解したピトは寝間着を戸惑いなく脱ぎ去って、支度を始めた。


 ピトは背が小さいが、意外と女性らしい体つきをしていたことに少し驚いた。 彼女がいつも着ている研究用の白衣は体の線が分かりづらいのだ。


「ふん、恥ずかしがることはない。 こんなものただの脂肪だろう?」

「いいから! もう出るからそれまで待ってろって!」


 俺は慌てて部屋を出て、扉を閉め息を吐いた。


「どうだった?」

「ああ、いいケツして……いやなんでもないなんでもない!!」


 部屋の外で待っていた勇者マロに思わず、可笑しな返答をしかけて俺は口をつぐんだ。


「けつ?」

「いやいや、気にしなくていいから!」

「確かに一日中フィールドワークしても元気だったし、研究者というのは意外と足腰が丈夫なんだね」

「いや! 広げなくていいから!」


 勇者マロが俺の発言をどう受け取ったか、彼女の表情からは読み取れない。


 とりあえずあまり気にしてはなさそうであることに安堵して、俺は先ほど見た光景と共に失言を忘れようとピトが出てくるまで瞑想するのであった。









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