第35話:死んだダンジョンの調査






 結局、文化祭の内容に関しての話し合いは進まなかった。


 学校中の度肝を抜くようなアイディアなんて、すぐには浮かばないので次回までそれぞれ考えてくる宿題とした。


「うーん、どれもぱっとしないなぁ」


 俺が教室で見ていたのは、今まで文化祭で行われた各研究会の内容を記録した資料である。


 ほとんどが展示や成果の発表などで、俺にとってはあまり面白みを感じられない。


「こうなってくると本気でタコ焼き屋がアリに思えてきた……」


 勇者マロの言っていた意見を真剣に検討し始めた、その時。


「エクリオ」


 教室のざわめきと共に、名前を呼ばれて俺が顔を上げると勇者マロが教室にやって来ていた。


「こんにちは、マロ。 なんかいいアイディアでも思いついた?」

「いいえ、違う。 少し話があって」


 勇者マロに呼び出されて、俺たちは廊下で話をしよとしたがクラスメイトが野次馬で見に来てしまったので仕方なく場所を移すことにした。


「それで話って?」


 遺物研究室にやってきたはいいものの、俺には全く心当たりがない。


「実は先日、ギルドの依頼でダンジョンの調査に行ったんだけど――」


 勇者マロはパーティーメンバーと共にダンジョンの調査に向かったそうだ。


 調査内容はダンジョンの隠しフロアの調査ということだったらしい。

 しかしそのフロアにはモンスターは現れず、仕掛けも何もない。 ただ見慣れぬ建物が並ぶ可笑しなフロアであった。


「それで私のパーティには賢者がいるから、その知見を借りたかったみたい。 それに隠しフロアには強力なモンスターがいることが多いから」

「力と知識、両方を兼ね備えた勇者パーティーにおあつらえ向きな依頼ってことだね」

「そう、それで結局何もモンスターは出なかったんだけど建物の中でこれを見つけたの」


 勇者マロはそう言って袋からとっても見覚えのある道具を取り出した。


「これは……?!」

「たこ焼きのやつ」


 それはまさしく先日タコパで大活躍したタコ焼き機だった。


「その建物は民家のようなものもあったり、私にはまるで町のように見えた。 賢者もそう言ってたけど、彼の知見を持ってしてもなぜダンジョンに町があるのか全く分からない。 だけど遺物に詳しいエクリオなら何か分かるかもしれないと思った」


 確かに俺はこの世界の誰よりも遺物に詳しいだろう。


 しかしその知識がダンジョンの調査に役立つことはない気がする。 せいぜい分かっても、その町がどんな街で、建物がどんな用途のものであるとか、そんなものであったギルドの依頼に沿うような結果は得られないだろう。


「だから一緒に見に来てくれない?」


 とはいえ気になるのは確かだ。


「分かった。 行くだけ行ってみよう」

「ありがとう」


 だから俺は二つ返事で勇者マロからの調査依頼協力を了承するのであった。





「今日はよろしくお願いします」


 後日、ダンジョンに向かうとすでに勇者マロと、そのパーティメンバーが待っていた。


「お前が遺物研究会のエクリオ……ふん!!」


 そのうちの一人、軽装の少女は俺をじろじろ見て顔を背けた。


 理由は分からないが、俺は少女に嫌われているらしい。


「来てくれてありがとう。 さっそく行こう」

「マロ、その前に私たちを紹介してくれないか?」


 勇者パーティーのメンバーは老人の賢者ジイ、盾持ちの優男風イケメン騎士ナイツ、なぜか俺を嫌う盗賊の少女シーフィ、そして勇者マロの四人だ。


「協力をお願いしておきながら、悪いねエクリオ」


 ナイツは苦笑いした。


「シーフィに悪気はないというか、君に嫉妬してるんだ」

「嫉妬……?」


 そう言われても全く心当たりがない俺は首を傾げた。


「シーフィはマロにぞっこんでね。 遺物研究会に入ってから一緒にいる時間がなくなってしまったから、誘った君を逆恨みしてるんだよ」

「それはなんと理不尽な……」

「シーフィ、エクリオと仲良くして」


 そういう気持ちは理性ではどうにもならない部分があるので仕方がない。 今日だけと思ってやり過ごすしかないだろう。


「……やだ」

「エクリオごめん」

「いいよ、別に。 マロが悪いんじゃないから気にしないで」


 このまま話していてもしょうがないので、勇者パーティーの案内で俺はダンジョン内部へ向かった。


 ダンジョンを進んだ先に大穴が空いていた。


「この下に町がある」


 しかしそこに階段など下りる手段はない。


「エクリオ、少しの間我慢して」

「へ? ちょ――」


 勇者マロは突然、俺をお姫様抱っこした。


「飛ぶ」


 俺たちは穴から飛び降りた。


 ジェットコースターのように流れていく景色に俺は息を呑んだ――



――そこはまるで、


「日本……?」


 前世で見慣れた街並みが広がっていた。






 


 

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