第34話:魔法を改造したら





「ここなら何が起きても大丈夫」


 魔法練習用の頑丈な部屋を借りた俺たちはさっそく実験を始める。


「じゃあ僕が魔法を使ってみるよ」


 シイラはそう言って下級の光魔法のライトを使った。


 俺がスキルを使うと、魔法によって生み出された光が強くなった。


「おお、すごいね!」

「でも強くなっただけで改造っていうほどじゃ――」


 ツナオが驚いているが、大した変化はないとシイラが微妙な顔をした。 その瞬間、


――ぱちん


 光が弾けるように消える。


 そこにいたのは角の生えた真っ白なウサギだった。


「ふるるる~?」


 ふわふわと浮遊するウサギをシイラが抱きしめた。


「なんか出た」

「出たね」

「可愛いね。 これは一体どういうことなんだろうか?」


 ツナオが興味深げにウサギに顔を近づけると、ウサギは臭いをふんふんと嗅いだ。 そしてツナオの鼻に自身の鼻を優しくくっつけた。


「……可愛いです」

「魔法だからそのうち消えちゃうのかな?」

「えぇ……それは悲しいな」


 フブキもウサギの可愛さにメロメロなのか、撫でて表情をほころばせている。


 魔法は基本的に対象に当たったら終わり、もしくは付与ならしばらく効果は続くが永続的に持続する魔法はない。


 自分の魔法から生まれたからかシイラはウサギがいなくなる可能性に思い至ると、ひどく悲しそうに眉を下げた。


 その横で勇者マロはウサギを触りたいのかソワソワしつつ、しかし行動に移すのは気恥ずかしいのかもじもじしている。


「ぷる~」


 ウサギはやはり魔法であることに間違いなかったらしく、別れを告げるように足を上げて光となり消えていった。


「ああ……?!」

「触りたいなら言えば良かったのに」

「別に……平気」


 勇者マロが悲壮な声を漏らしたので、意外に思いつつ突っ込むと彼女は無表情でそう言った。


 彼女は笑わないと言われているだけあって表情が変わらないが、無表情の中にもかすかに表情の色がある気がした。


「そっか。 今度はマロの魔法で試してみようか?」

「!!……まあいいけど」


 勇者マロは口では渋々といったふうを装いつつ、素早く火の下級魔法を使った。


「じゃあ改造するよ」


 スキルを使うとやはり、それは動物に代わった。


「きゅぅ~?」

「……悪くない」


 今度は可愛らしい狐が誕生した。


 勇者マロは狐を抱きしめると、そのもふもふに顔をうずめて満足げなため息を吐くのであった。





 後日俺たちは文献などで、魔改造によって生まれた動物たちについて調べた。


「じゃああれは結局簡易的な精霊とか、召喚獣のようなものなのかな?」


 確証は得られなかった。


 しかし過去の文献では脅威的なモンスターたちと戦った英雄たちの記録で、魔法が竜や鳥の形となって敵を討ち滅ぼしたというものが一番近いように思えた。


「先生に確認出来たらもちろんいいけど」

「誰がどのような人間性か分からない以上は聞けませんね」

「そうだね、文献が正しいなら、まだ未熟な僕たちの魔法ですら、エクリオのスキルにかかれば英雄級の魔法へと変わると知れれば、何をされるか」

「誘拐? 解剖? 奴隷?」

「どれもろくな終わり方じゃないね! これはここだけの秘密! そして使用は控えることにするよ……」


 ということで全員一致で魔法の改造は封印となった。


 ただ女性陣、特に勇者マロが残念そうにしている。


「まあこのメンツで、研究室内ってだけならいいと思うけど」


 あまりに不憫なので俺がそう提案すると、勇者マロは心なしか目を輝かせているように見えた。


「そうだね、ただ見られないよう気を付けよう。 教師たちはもちろん、うちの姉と」

「こちらの姉にも」

「そうだね……」


 ツナオがマロの様子を見て苦笑いしつつ、そんなことを言った。


 そんなことは想像しただけで恐ろしく、俺は悪寒に震える。


「そういえばうちにも精霊がいるんだよね」

「はい? 精霊が?! そんなバカな話あるわけないでしょ」


 精霊というのは生きているうちに出会わないことが多い。


 前世で言うUMAとかツチノコとかそんな存在なのだ。


「いや実は以前知り合った聖女さんと、聖獣に挨拶に行ったときにさ――」

「……たぶん本当なんだろうね。 分かってる。 でも相変わらず話がぶっ飛んでて僕の平凡な頭が付いていかないや」


 俺の話を遮ったツナオが頭痛を堪えるように頭を抑えると、他のメンツも完全に同意なのか深く頷く。


「勇者として色々経験してきたど、この研究室に入ってから未知のことばかり起こる」

「大体の原因は分かり切ってるけどね」


 俺はスローライフを全力で楽しんでいるだけなので、勇者にとんでもない奴扱いされるいわれはない。


「じゃあ長期休みにうちの村に遊びに来る?」

「精霊様もいるのかい?」

「うん、今は俺の代わりに畑を管理していてくれているよ」

「聖なる獣の眷属である精霊様に畑……仕事か……うん、教会の連中に知れたら相当軽蔑されるから気を付けなね」

「行きたい」

「私も予定が伺いたいです」


 みんな興味津々な様子で参加を表明した。

 自分で誘っておいてなんだが、そんな面白いものは村にはないけどいいんだろうかと思う。 シイラと俺は転移があるからいいが、みんなはかなり遠方から長旅になるからだ。


 とはいえその前に決めなければならない本題を忘れてはならない。


「じゃあ文化祭の内容を本気で考えよう!」


 そして俺たちは本格的に文化祭について話し合うのであった。






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