第33話:魔改造スキルの可能性
研究会は立ち上がった。
とはいえ何をするか具体的な活動については、
『文化祭で何かする』
という曖昧な方向性だけ決まった。
「何か……意見ある人!」
俺がそう言うとシイラが困った表情をした。
「そんなこと言われても僕らは遺物に関して詳しくないから、思いつかないよ……」
「確かに。 ただ文化祭に参加するには、事前のふるい落としがあると聞いたよ。 だからそれなりのクオリティのもの、もしくはインパクトの強いものがいいよね」
ツナオの言う通り、文化祭は参加できる研究会の数に限りがある。
そのため学内で発表会を行い、点数上位百の研究会が参加することを許されるビックイベントだ。
文化祭は各国から様々な研究者や有識者が見に来るようなイベントなので、ここでアピールできればパトロンを手に入れたり、国に引き抜かれりすることがある。
だからどの研究会も力を入れるイベントなのだ。
「展示ですかね」
「タコ焼き屋がいい」
参加の形は制作品を展示するだけでもいいし、実演してもいいし、スピーチのような形でも良い。 特に決まりはない。
フブキの展示という意見は無難なところだ。
勇者アーマーローズことマロが意外と食い気に走っているのは少し意外だ。
表情が変わらないから分かりずらいが、結構気に入ってくれたのかもしれない。
「とりあえず他の遺物も見てみたいところだね」
「一番大きいモノだと船があるけど、ここにないものだとあとはラジオとか、テレビとかかな?」
船はここでは出せないし、ラジオもテレビも家に置いてきているので持って来る必要がある。
「私はエクリオのスキルに興味があります」
フブキは興味津々な様子で言った。
「遺物を直すスキル、魔改造スキルは他にも使い道がある気がして」
「たとえば?」
「一度改造したものを、もう一度改造したらどうなるのかとか」
そんなこと思いつきもしなかった。
俺は勝手に一度しか改造できないと思いこんでいたけど、確かにそれは試してみる価値はありそうだ。
「それを言うなら僕からも一つ。 魔道具の定義について、魔法とは神の生み出した目に見えない魔道具の集合体である、という説があるんだ。 もしその説が正しければエクリオのスキルで魔法を改造できるかもしれないよ」
シイラがワクワクした表情で語った。
しかしそんな説はこの場の誰も知らなかったようで、みんな驚いていた。 勉強熱心なシイラだからこそ知り得た情報なのだろう。
「なら試してみようか」
俺はそう言ってダメになっても困らない遺物をいくつか取り出して、スキルを使用した。
「これは……すごい!」
結果から言うと魔改造スキルは二度掛け可能だった。
しかし三度となると、魔力が足りなくなり気分が悪くなってしまったので中断したけれど。
「確かにすごいけど……」
「凄すぎて研究成果には使えませんね……」
ツナオとフブキが渋い顔で言った。
その理由は改造された遺物の機能を知れば誰でもそう思うはずだ。
改造されたドローンは、一度目は魔力で動くだけだった。 しかし二度目の改造を施すと、自動運転が可能になった。
おまけに本来であればそこまで強度のない機械であったのに、魔力を消費して自暴的にシールドを張るし、おまけに空気中の魔力を吸収し稼働することも可能なようだ。
「いやいや、可笑しいでしょ?! こんな遺物がいっぱいあれば世界の連絡手段が変わるんじゃない?!」
基本的にこの世界の連絡は、手紙を人力で届けるものとなっている。
そのためこのドローンに手紙を括り付れば、地上で人間が運ぶよりも遥かに安全に、そして早く届けることが出来るだろう。
「それにもし戦いに利用されれば」
「全ての動きが丸裸になるね……それに僕たちがまだ到達していない未知の世界を調査することもできる」
場の空気が不穏に包まれるが、この世界は俺が知る限り戦争などなくいたって平和なはずだ。 だからそこまで大事にはならない、と思いつつも王子皇女が真剣な表情をしていることがとても不安だ。
「でも今は戦争なんてないよね……?」
「今は、ね」
「だけどこんな技術があれば、他の国に攻め込もうとする野心家は必ずいると思います」
俺のスキルが戦争の火だねに成り得るなんて、スローライフを志すものとしてあるまじき事態だ。
「じゃあ二倍改造は封印かな……?」
「いや封印はしなくていいと思う。 でも二倍改造した遺物に関しては、誰かに見せない。 見せるとしても事前に性能を確認してからにすればいいんじゃないかな?」
あまりに二倍改造した遺物の性能がぶっ飛びすぎていて、話がでかくなったが他の遺物がどんな風に変わるのか正直興味はとてもある。
そこでふと、聖女の持って行ったスマホは二倍改造したらどうなるのかと思ったが恐ろしくなって俺は気持ちを切り替えるように小さく息を吐いた。
「それじゃあ次は魔法も試してみようか」
俺がそう言うとみんな戦々恐々としつつも、好奇心を隠せない様子で頷くのであった。
「とりあえず広い場所に行くべき」
そして勇者マロの提案に全員が無言で賛成し、俺たちは色々な意味で危険にり得る実験をするために研究室を出るのであった。
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