小国の悪役貴族の息子に転生したけど、魔改造スキルで直した遺物を駆使して、田舎でのんびりスローライフするはずが大国や帝国のお偉いさんが放っておいてくれません
第31話:立ち上げ手続きと豪華すぎるメンバー
第31話:立ち上げ手続きと豪華すぎるメンバー
「エクリオ~、もう朝だよ」
そんな声に目を覚ますと、外は明るくなっていた。
俺たちは昨日、研究会立ち上げに必要な実績と成り得る資料を夜遅くまで、寮の談話室で作っていたのだ。
途中で居眠りしてしまったのだろう。
「やっべ、寝ちゃった」
「うん、寝ずにやるつもりとは思わなかったよ……お疲れ様」
ツナオは適当なところで部屋に戻り睡眠をとったらしく、平常運転だ。
フブキは朝の鍛錬があるからと、早々に寝室へ戻り、シイラだけは俺の横で寝息を立てていた。
「それで進み具合はどう? 終わりそう?」
俺はツナオに自慢するような笑みを浮かべながら資料を見せつけた。
「終わった!」
「おめでとう。 まあ研究レポートというにはお粗末な内容になってしまったけど、テーマがテーマだから仕方ないね」
研究と言っても俺がやりたいのは遺物を使ったエンターテイメントだ。
故に研究テーマは遺物の使用方法とその取扱いについて、とした。
遺物の機能を記し、危険であればどう管理すべきとかそんな内容だ。 とりあえずスマホに関してここに記すのもはばかられたので省いておいた。
「通るかな?」
「立ち上げには十分じゃないかな? そもそもそれって方向性を示す程度のものだと思うから」
「じゃあこんな頑張らなくて良かったじゃん……」
「まあまあ、僕としては遺物がどう素晴らしいのか知れて良かったよ」
俺とツナオが話していると、
「おはようございます」とフブキがポットと軽食を持ってやってきた。
珈琲の香りで目が冴えてきたが、シイラは一向に起きる様子はない。
「私が起こしましょう」
フブキがそう言うと、おもむろにシイラの胸元の膨らみを揉みしだいた。
「んば!? ななななになになに?!」
「おはようございます」
「フブキさん?! 何してるの一体?!」
「一度触ってみたかった」
「実行するな!!」
フブキとシイラはまるで友人のようにじゃれ合っている。
俺とツナオは見る場所に困ったので、お互い頷いて先に朝食を食べることにしたのであった。
「おしおきだ~!」
「あ~痛いです~」
シイラがフブキのこめかみを拳で挟んでぐりぐりとえぐる。
昨日までフブキやツナオにシイラはよそよそしい態度だった。 この学園では身分も関係ないと言っても、どうしてもラフに接することができなかったのだろう。
しかし今は寝起きで頭が回っていないのだろう。
「フブキ大丈夫? というか……シイラ我に返ったらどうなるかな?」
「大丈夫大丈夫、ああ見えてかなり楽しそうだから」
これから同じ研究会で長い付き合いになるのだし、ツナオがそう言うならいい機会かもしれないと俺は思ってシイラを止めることはしなかった。
「ああああああ僕はなんてことを! 申し訳ありませんんんんん!」
シイラの叫びを聞きながら、俺とツナオは食後の珈琲を優雅に楽しむのであった。
〇
研究会立ち上げ申請を行ったその後。
昼休みに俺は一人、呼び出しをくらった。
「遺物研究会のエクリオ、研究会の資料について話がある」
「どうしたんですか?」
「この資料だが」
職員らしき男は、俺たちが徹夜で書き上げた資料を手に持ち言った。
「こんな虚偽を元にした研究は認められない」
「はい?」
虚偽、嘘なんて一言も書いていないはずだ。 あまりに心当たりがなくて、俺は首を傾げた。
だってその内容は基本的に俺が所持している遺物と、その機能を書き並べているだけのようなものだ。
そうではないものであったとしても、前世で使ったことのあるものばかりだからこの世界の誰よりも正しい知識であるはず。
しかし職員は小ばかにしたようなため息を吐いた。
「最近多いんだ。 自分たちの研究会が欲しくて無理やりなテーマで申請してくる
「……そうなんですか。 でもこの資料は事実ですよ」
「それに立ち上げメンバーも可笑しいだろう? 大王国の王子に、帝国の皇女、それに氷の勇者だなんて。 もう一人は平民みたいだが……いくら自由な校風だからといってやっていいことと、やってはいけないこと分別はつけないと」
確かに言葉で客観的に言われるとメンツが豪華すぎて、現実味がない。 とはいえ疑うのはいいけど、一方的に決めつけられるとさすがに腹が立つ。
「じゃあ一緒に来てください。 そこでメンバーを確認して、俺の持ってる遺物の現物を見せれば申請を通してもらえますか?」
「嘘に嘘を重ねてどうするんだ? まあいい、そこまで言うなら俺が君の嘘の承認となろう……一応これが最終確認だ。 これが嘘であれば君はそういう人間であると学校側も認識するが、それでも折れるつもりはないか?」
「ありません」
俺は即答して、ぶつぶつ文句を垂れている職員を連れて学食へ向かった。
「おー、エクリオ! こっちこっち!」
すでにお昼を食べていたツナオたちが俺を見つけて手を振っている。
「それで呼び出しはどうだった?」
「いや実は今そのことでトラブってて」
俺がそう言うと、ツナオは俺の後ろにいる職員を見て首を傾げた。
「ところでそこの方は誰なんだい? エクリオの知り合いだろうか……初めまして、僕はラララ大王国第二王子ツナオです」
「私はロドド帝国四女フブキです」
「僕はシイラです」
「この人は学園の職員の方で――」
紹介しようと後ろを横目に見ると、職員は可哀そうなくらい顔が青ざめ冷や汗をかいていた。
「あの!!」
何を言われると思ったのか、職員は突然大声を上げた。
「確認取れましたから!! もう大丈夫なんで!!」
そう言ってこの場を去ろうとするので、俺は「いや待ってください」と手を掴んで制止した。
「もっと確認しなくて大丈夫ですか? それに勇者アーマーローズの確認もしてないし」
「それは――」
職員が焦って何かを言いかけて、言葉を止めた。
その視線の先には白い甲冑姿で食事を運ぶ勇者の姿があった。
「アーマーローズさん!」
「ひぇっ!?」
俺が彼女に声を掛けると、がしゃんがしゃんと音を立てながらアーマーローズはこちらにやってきた。
「こんにちは、何か用?」
「研究会のメンバーを職員さんに確認してもらってるんだ」
「そう、私は氷の勇者アーマーローズ・キャリバリ」
「ありがとう。 これで大丈夫ですか――ってあれ?」
職員さんは驚愕の表情で勇者を、王子、皇女、そして俺を見て呟いた。
「本物……」
「理解してもらえましたか? じゃあ次は――」
どの遺物を見せようか、と考えていると職員は「もう大丈夫です……」そう言ってまるで魂が抜けた廃人のような力のない足取りで去って行くのであった。
「えぇ……」
「エクリオ、彼はどうしたんだい?」
訳が分からず立ち尽くす俺にツナオが問いかけるが、俺にもよく分からない。
しかしこの場で唯一シイラだけが訳知り顔で頷いていた。
「エクリオ……普通はこんなえげつないメンツを見たらああなるのよ。 しかも仕事とはいえ疑ったとなれば、その心労の重さは測りかねない」
「なるほど……じゃあ後でもう一回行かなくても大丈夫?」
「うん、何があったか詳細は分からないけどもう許してあげて」
そう言ってシイラは苦笑いすした。
そして次の日、思ったよりも早く申請が通り、俺が事務室へ手続きに向かうと室長という肩書の偉そうな人に頭を下げられた。
「うちの職員がエクリオに行った言動は職員にあるまじきものであった……不快にさせたこと心からお詫びするよ」
「そうですね、確認することはともかく言動はかなり問題があるように感じました」
「すまない。 このようなことがないよう厳しく指導する」
室長からはとても誠実な人柄を感じた。
彼は俺の後ろにいる権力に怯えているわけではなく、単純にエクリオという一生徒を見ている。
「よろしくお願いします」
俺は少しだけ胸がすっとした気分になって、研究会立ち上げの手続きを終えるのであった。
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