第30話:五人目のメンバー




 教師に相談すると、校庭での勧誘は自由に行えるらしい。 

 ただテントなどはすでに発足している研究会が使うものなので、俺たちは空いてる場所で目についた生徒を勧誘することとなった。


「クラスメイトで見つかれば話が早かったんだけどね」


 ツナオは肩をすくめて笑った。


 コミュ力の高いツナオは生徒が揃っている状態で勧誘を試みるという強心臓の持ち主であった。


 シイラもできる範囲で声は掛けたがダメだったらしい。


「……俺も頑張らないと」


 発足人の俺が頼りきりでは始まらない、と果敢に勧誘してみる。

 しかし新しい研究会というフレーズには好感触なのに、遺物の研究というと即答で断れてばかりだ。


「あー、せめてテント張って遺物を展示できたら楽勝なのに」

「僕はあまり詳しくないんだけど、遺物ってそんなに素晴らしいものなのかい?」

「便利どころじゃないですよ! 船が空に浮かぶんですから!」

「……それが本当だとしたらアーティファクトに近しいものじゃないか。 ごめん、想像以上にファンタジーで、この目で見るまでは信じられそうにないよ」


 なぜか俺よりも興奮した様子で語るシイラの言葉に、ツナオは曖昧な笑みを浮かべた。


 それはそうだろう。

 未知のものはその目で見なければ理解できるわけがない。 無条件で信じるのはバカだけだ。


 ただ非常識だからあり得ない、なんて言うならナンセンスだが。


「よっし、あの人に声かけてくる!」

「え、ちょっとあの人は――」


 俺がそう言って目を付けたのは、誰にも勧誘されていない甲冑姿の戦士だ。

 警備の兵士はみな揃いの制服を着ているので、単純に武術に秀でた生徒なのだろう。 一見、かなり声はかけずらい。


 しかしだからこそ俺にとってはチャンスでもあると思った。


 後ろでツナオが何か言っている声が聞えたが、当たって砕けろ数打ちゃ当たるの精神である。


「すみません! そこの鎧の人! 良かったら俺たちが立ち上げる新しい研究会のメンバーになりませんか?」

「……私は遠征に出ることも多くあまり参加できません」

「それでも構いません。 この研究会は俺がメインで、他のメンバーも恐らく掛け持ちになると思うので基本自由参加にするつもりなので」


 俺の言葉を受けて考えているのか無言になった甲冑はしばらくしてかすかに頷いた。


「ホントに?!」

「……ああ、ほとんど参加でいないかもしれないが」

「いいですよ! わー! ありがとう! やったよ、みんな!」


 嬉しくて振り返ると、なぜか三人は黙ったまま青い顔をしていた。


「何かあった……?」

「……何かじゃない。 エクリオ、知らないとは思わないけど、一応説明するとその甲冑のお方は――」


 後ろでがしゃんと鉄の留め具が外れる音がした。


「初めまして。 私は氷の勇者アーマーローズ・キャリバリ。 これからよろしく」


 そこにいたのは白みがかった黄色の髪を、一つ結びしたまるで女神の化身のような美しい女性だった。


「へえ、あなたが噂の勇者様ですか! お会いできて、光栄です。 俺はエクリオ、この研究会の発足人です。 よろしくお願いします!」


 勇者アーマーローズは一切表情を変えることなく、こくりと頷くのであった。





「さすがに知ってたよ?」


 勇者アーマーローズが去って行ったあと、俺はそう言うとツナオが苦笑いした。

 まあ正確には兜を取った姿を見て、ようやく気付いたんだけど。


「あの方の噂を知っててあんなに気さくに話しかけられるのは、肝が据わっているというか……」


 氷の勇者アーマーローズ、彼女は氷の魔法の使い手であり、正当な勇者の後継者として選ばれた傑物だ。

 彼女の強さは有名だが、それと同じくらい笑わないことでも有名であった。


 ちまたでは彼女に粗相を働いた貴族が無残に切り捨てられたとか、気に入らない法律を王族を剣で脅して変えさせたとか、そんな黒い噂もまことしやかに囁かれている。


「本当に笑わなかったね」

「こっちも笑えなかったよ……心臓に悪すぎるよ全く」


 ツナオは心底安堵した様子で息を吐いた。

 まあ話してみた感じ全然普通の人にしか思えなかったので、やはり噂は噂でしかないのだろう。


「なんにせよ、これで研究会を立ち上げられる!」

「そういえばそんな話だったね。 勇者様の登場で頭から飛んでたよ」

「……怖い、でもぜひ手合わせしたいです」


 フブキは大人しそうな見た目に反し、バトルジャンキーな発言をした。


「ツナオさん、僕これからエクリオが研究会で何をしでかすのか恐ろしくなってきました……」


 シイラが遠い目をしながら呟くと、ツナオは大きく頷く。


「うん、僕もだよ。 だけど怖いもの見たさという気持ちもある」

「それは外野から見るから楽しいのでは……?」


 そんな散々なことを言われつつも、俺はこれから何をしようかと研究会の活動を楽しみにするのであった。

 







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