第19話:聖女を助ける
***
「早くお逃げください!!」
「行けません! 騎士隊長様も一緒に!」
とある森、聖女を乗せた馬車はモンスターに追われていた。
「きゃあ!」
「くそっ、馬車が……聖女様を連れて逃げろ!!」
「隊長」
「なんだこんな時に?!」
大きな影がその場に下りた。
その瞬間、モンスターも聖女も騎士たちも少しの間呆気にとられた。
「船……?」
巨大な船が空からこちらにゆっくりと向かってきていた。
そこから体を乗り出す半裸の少年が必死な形相で言った。
「助けに来ました! 乗ってください!」
***
「ふーう、プール日和だなぁ」
今日はなんとなく自動運転にした船を遊泳させながら、プールを楽しむ。
「これぞ、まさにスローライフ!」
「いやスローライフというより、金持ちライフの間違いじゃないか?」
昨日に引き続き話を聞かせろとせがむピトを、なんとか説得した結果なぜか二人で空中遊泳という事態となったのだ。
「ん? 何か聞こえたか?」
――早くお逃げください!!!
「やっぱり聞こえた!」
「誰かが襲われてるのか?! どうするエクリオ?!」
俺は戦えないし、研究者であるピトが戦えるとは聞いたことが無かった。
村に戻って助けを呼ぶのは間に合うかどうか分からない。
しかし見過ごす選択肢は――――ない。
「急いで救援に向かう! ピトは戦えたりする?!」
「いや戦えない!」
「了解!」
俺は慌てて声のした方へ船を動かすのであった。
「いたぞ! 馬車がモンスターに追われてる! どうするんだ?!」
「船を近づけてモンスターをけん制する!」
戦わず人助けできれば最良。 戦闘になった場合は船で物理的に攻撃でもするしかない。
「助けに来ました! 乗ってください!」
モンスターと対峙する騎士と、その隙に逃げようとしていた馬車から顔を出した少女が幽霊でも見たかのような顔をしている。
モンスターも突然の事態に動きを止めている。 今しかない。
「何をしてる?! 早くしろ!!!!」
「は、はい!! 助太刀感謝する! 聖女様!」
まずは馬車の少女から、そして二名の騎士と、メイドを船へ引き上げた。
「GRUUUUUUUU」
「ピト! 上昇!!」
船が上がり俺は安堵の息を吐く。
そして地表を見下ろすと、黒い狼モンスターはモヤのように消失した。
「消えた……?」
「助太刀感謝する。 本当に助かりました、ありがとう。 あなたのおかげで彼女を守ることができた」
彼女とは、真っ白のローブを着た少女のことだろう。 フードを外すと白銀の長髪、美しいがどこか愛嬌のある美少女が顔をあらわにした。
「この度は手を差し伸べていただいて心より感謝申し上げます」
「とんでもない。 助けられて良かったです。 目的地はどこですか? 近くでしたらこのまま送りますが」
「すみません目的地はかなり遠方なのです。 一旦、休みたいので近くの街までお願いできますか? 後で馬車も回収したいので」
彼女たちの移動手段である馬車は、一見して壊れた様子もなにかったので後で回収すれば使えるかもしれない。
近くの街と言ってもここからはかなり離れることになるので、後で戻ってくる予定があるなら村に向かうのがいいだろう。
「では俺の住んでいる村までご案内いたします」
「お手数をおかけします。 重ねて感謝いたします……私はアダムイブ聖教国で聖女の地位を賜っております、ハウナ・アダムイブと申します。 お見知りおきを」
「……俺はエクリオです」
高貴な身分であるとは身なりから予想していたが、聖教国の聖女と言えば王女のようなものだ。 まさかそこまで高位の存在であるとは思わなかった。
「では村までお願いします」
「はい……」
なんだか一気に責任重大になったと、俺は気が重くなるのであった。
〇
「ここがエクリオ君の住んでいる村ですか。 気持ちの良いところですね」
聖女ハウナは目を輝かせてのんびりとした村の様子を眺めていた。
「とりあえず村長の家に行きましょう。 ここで過ごすなら挨拶くらいはしておいた方が良いと思いますので」
やってきた俺たちを見てフェリは驚いたようで、目を丸くした。
「大物じゃないか。 どこで引っかけてきたんだ?」
「フェリさんやめてください……俺はこんなところで死にたくはないです」
フェリのふざけた発言に、騎士が密かに剣へ手をかけようとしているのを横目に俺は首をぶるぶると横に振った。
「エルフ」
「ああ、そうだ。 私はエルフのフェザリード・エル・フルール、よろしく」
誰に対しても一貫しているフェリの態度は長命種のエルフならではといえるだろう。
とはいえ高貴な身分の者であれば、それでも気分を害していたかもしれない。 しかし聖女ハウナは何も気にしていない様子で挨拶を交わした。
「ここにギルドなどはあるのでしょうか?」
「いやないな」
「うーん、困りましたね」
「まあ困っているならエクリオと相談してくれ」
俺の想像ではフェリがどうにかしてくれると思っていた。
「俺ですか?!」
「そうだ、お前が助けたんだろ? なら助けたいか、見捨てるのか、お前が決めろ。 もちろん相談には乗るが、責任は持て」
「……分かりました」
意外と厳しい一面もあるのかと、驚くが納得はできる。
全員が全員、問題があるたびにフェリに頼っていたらさすがのフェリでもパンクしてしまうだろう。
助けられたことは良かったが、若干面倒に思いつつ今後を話し合うために聖女たちを連れて家へ帰るのであった。
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