第18話:週末異世界イベント~第一回「上映会」~







――娯楽が無い。


 俺がこの村を見回っていて感じたことだ。


 どの異世界物語でもこの手のことはありふれた話ではあるが、この村での娯楽といえばお喋り、カードゲームなどの賭け事だろうか。


「みんなはそれで満足だろうけど、俺には足りない」


 村の生活にストレスはないが、刺激が無いことも事実。

 

 仕事、仕事と深く考えず自分の好きなことをみんなと共有する場を作れればそれでいいのではないかと俺は思うのだ。


 喜んでもらえればそれでよし。


 反応が微妙なら別のことをまた考えても良い。


「フェリさん、お話があります」





 数日後、俺は自宅の前に集まった村人たちに向かって宣言した。


「第一回イベント――映画上映会を開催します!」


 商業都市でテレビと大量のDVDを買っておいたのだ。


 原理は不明だが改造によって、この世界の人間にDVDの言語が理解できるのはすでにピトによって確認済みである。


「参加者は十人……まあ初めはこんなものかな」


 フェリにピトやミヤ、いつものメンツに加えて子供たちとその親御さんが参加してくれた。


 俺はポップコーンもどきと果実ジュースを配って、俺は家の窓明かりを布でさえぎり上映を開始した。


――――――


――――


――


 日本人なら知らぬものはいないアニメ製作会社のアニメ映画を上映した。


 俺も見たのは久々だったが、小さい頃から何度も見たことがあったため感動というよりも故郷への哀愁で少し泣いた。


「で、みなさんどうでした?」


 布を外して家を明るくすると、みんな口を開けてぽかーんとしている。


「あれ? イマイチ、でしたか?」

「……しい」

「へ?」

「素晴らしいっ!!!!」


 フェリが叫ぶと、我に返った人たちが興奮した様子で拍手喝采した。


「よく分からなかった部分はもちろんある! それでもこの映像! 音楽! そしてストーリー! 物語を読んだことはあるが、こんなに笑って泣けるものは初めてだよ!!!」


 子供たちも喜んでいるが、むしろ大人の方が楽しんでくれたように見えた。


 特にフェリが興奮して感想をべらべらと語り続けている。


「僕はもっとお菓子たえたーい」

「あたしはジュースおかわり!」

「はいはい、昼の上映会は終わりだけどしばらくゆっくりしていって下さい」


 何度も上映すると疲れると思ったので、昼の部と夜の部で一本ずつ上映する予定だ。 そうすれば仕事で来れない人もDVDを見る機会を得られるだろう。


「これからは週一回くらいのペースで上映会を行うから、興味があれば参加してください」

「毎日でも構わないぞ?」


 俺の言葉にフェリが冗談交じりに言うが、目が笑っていない。


「か、勘弁してください……」


 こうして第一回のイベントは少人数ながら大盛況で幕を閉じるのであった。





 久しぶりにピトの家に行くと、開口一番つまらなそうに彼女は言った。


「共立国際魔法学園に行くのはやめておけ。 あそこは話に聞くほどいいところじゃない」

「そもそも俺は何か求めて行くわけでもないから心配無用だよ……ちなみにどうしてそう思うんだ? まるで行ったことがあるみたいに――」

「私はあそこの卒業生だからな」

「は? こんなちんちくりんが?」

「……お前だけには言われたかない」


 一体何歳なのか。 普通の人族かと思っていたが、もしかしたらエルフのような長命種なのかもしれない。


「ん? 何じろじろ見てる?」


 しかしピトの視線が聞くな、と言っているような気がした。


「いやなんでもない」

「学ぶことにおいて最高の環境である、とは言っても各国の貴族が多くやってくるから結局は派閥争いや国家同士のいがみ合いになる。 身分も国も関係なく純粋に学びたいことを学べる、なんて理想論でしかない」


 ピトは学生時代から遺物に夢中だったらしく、どこでも馬鹿にされてきた。

 共立国際魔法学園なら誰もバカにせず、むしろ研究する同士が見つかるかもしれない。 そう思って入学した結果、その期待は打ち砕かれた。


 そして失意のうち方々を旅した末にたどり着いたのがこの村であったようだ。


「色々苦労してるんだ」

「普通だろ。 苦労なんて誰でもしているさ……人間は生きるだけでも一苦労だからな」


 自分の経験か、それとも旅した時の見聞か、ピトの言葉には根拠のある重さがあった。


「まあ泣いても笑っても腹は減るし、どんなに辛くても時間は止まってくれないから」

「そうだな……さてつまらない話はこのくらいにして、前世の話を聞かせてもらおうか」

「ええー?! また? もう散々話したじゃないか……」


 そんなこんなで長々と付き合わされるであった。








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