第17話:村での役割/職場体験





――村は家で家族だ。


 遺物探しの旅から帰ってきた後、俺はフェリに呼び出された。


「畑を耕す人、道具を作る人、戦う人、みんなそれぞれ役割を担ってこの村の生活は守られている。 ピトのように研究することも役割の一つと言えるだろう」

「分かります」

「村での生活にも慣れた頃だろう。 エクリオにもそろそろ自分の役割について考えておいて欲しいんだ。 できない事を無理してしろとは言わない。 自分に出来ることを考えてみてくれ」


 そんな話があって、俺は頭を悩ませていた。


「まあ銭湯ならできるし、あとは船で遊覧船みたいなことするとか」


 スキルを使って物を直す仕事は鍛冶屋と被ってしまうので微妙だろう。


「遺物を直して配ることもできるが、それは村の役割……とはまた違う気もするし」

「やあやあ何かお悩みなのかな、ちびっ子?」

「ちびっ子じゃありません。 サボりですかミヤさん?」


 村の様子をぼんやり眺めていると、通りがかった警備担当のミヤが俺の顔をのぞき込んできた。


「いやいや困ってる子供に手を差しのべるのも、警備担当のお仕事だからね! なんかあったんでしょ? 話聞くよ?」


 ミヤはヘラヘラ笑うが、その瞳は真剣で心配してくれているのがよく分かる。 根はいい奴なのだろう。


「この村に必要なものってなんなのか。 俺にできることはなんなのか。 色々考えてしまって」

「なるほど、ちびっ子もフェリ姉さんに言われたんだね? 役割を見つけろって言われて……ミヤも悩んでたなー」

「へえ、意外……ミヤさんって悩みとかなさそうに見えるけど」

「たはは、なかなか言うねぇちびっ子――


――じゃあ行こっか」

「はい?! どこに? 何しに?」


 ミヤに手を引かれ俺がやってきたのは、村唯一の商店佐々木である。


「職場体験だよ! ササちゃん、お手伝い連れてきたよ~」

「……いらっしゃいミヤ。 そしてエクリオ」

 

 迎えてくれたのは客のいない店内で、揺り椅子に座って本を読むササーキであった。



 


「……」

「……」


 ミヤは特に嫌がることなく、俺のバイトを認めてくれた。


 しかし数時間経っても客が一人も来ず、俺は店内のホコリ取りしかすることがない。


「誰も来ないね~」

「いつもこんな感じなんですか?」

「大体こんな感じだね~。 ね、ササちゃん?」


 ササーキは気にする様子もなく、かすかに頷いた。


「この村の人は基本的に自給自足だし、頻繁に買い物へくるほど物欲がない。 そもそもあまり貨幣が流通していない」

「えぇ……じゃあこの商店のある意味は何ですか?」

「まあ村唯一の食堂や薬師、それと鍛冶師が必要なものを行商人から受け取る……仲介役、商談、交渉担当みたいなもの」


 一応店内に商品が陳列されているが、それはほとんど売れることなく飾りのようになっているようだ。


 確かに生きるだけなら商店を頻繁に利用することはない。


 現に俺も初めて来た。


「……ただ交渉ならこの村の誰にも負けない」

「なるほど」

「……それに行商が来る時までは好きなだけ本を読んでられるし」

「なんだか仕事って感じしないですね」


 村での役割を果たさなければ、何か仕事をしなければならないと俺は重く考えすぎていたのかもしれない。


「じゃあ次いこっか」


 俺はミヤと共に鍛冶師ゴドルフの作業場へ行った。


「お、何か壊れたか?」

「職場体験に来ました!」

「なるほど、ミヤに連れ回されているのか。 ご苦労さんなことだな」


 来たはいいものの、素人に鍛冶仕事は危険とのことで俺は話を聞くことになった。


「仕事、役割で悩んでるのか。 真面目なことだな」


 ゴドルフは元々鍛冶師として街で働いていたらしい。


「わしは精霊武具を作るのが幼い頃からの夢だった。 そしてそれは街で鍛冶仕事をしながらでは時間が足りなくてな。 だからここで片手間に鍛冶仕事をしつつ、それ以外の全ての時間は精霊武具作成――好きなことをしているだけだ。 仕事という仕事をしているつもりはないな……あまり難しく考える必要はないんじゃないか?」


 俺はゴドルフに別れを告げて、ミヤが取りまとめる警備担当の待機所へと向かった。


「ここが私の仕事場だよ! そんでミヤの仕事仲間たちです!」


 そこには村のやんちゃそうな男の子が三人騒いでいて、他に男女が四人ほどがテーブルでカードゲームを楽しんでいる。


「なんだか思ったよりもアットホーム? な職場……ですね」

「まあ待機所はこんなもん! 他は今、村の周囲を見回っているよ!」


 この場だけ見るとすごく平和そうだ。 犯罪が起こったという話は聞いたことがないので、子供でも警備担当を務められるのだろう。


「ミヤ隊長だ!」

「「隊長! お疲れ様です!」」


 子供たちはミヤに気づくとぴしっと背筋を伸ばして敬礼した。 しかしカードゲームをしていた男女はだるそうに手を上げる程度だ。


「……大人顔負けですね」

「たはは、まあ大人たちもやる時はやるから! ね!」

「「「うぇ~い」」」


 警備担当としてどうなのかと思いはするが、この緩い雰囲気は嫌いじゃない。


「まあどうしても仕事が見つからないなら、警備隊に入ってくれてもいいけど」


 ミヤは俺の体を上から下まで見て、苦笑いした。


「肉体労働の得意なタイプには見えないけど、たはは……」

「否定はできないですね。 でも気持ちは嬉しいです、ありがとう」


 結局俺は何か思いつくことができないまま、職場体験は終わるのであった。


「まあこの世に不要な仕事なんてないから、なんでもいいんじゃないかな?」


 俺にあるのは改造した遺物だけだ。

 それを使ってできること。

 みんなが喜ぶような何か――


「仕事と重くとらえず……なんでもいい、か」


 役割になるかどうかは分からないが、俺は思いついたとあるアイディアを実行するために行動を始めるのであった。







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