第15話:交換条件/シイラのお願い
「あなたやはり帝国へ来ませんか?」
「いやいや、ぜひ大王国へ!」
ホテルマンが運び込んで冷蔵庫を詰め込んだ食材を使った、日本食モドキパーティーを振る舞った。 その後二人は目を血走らせて俺に迫った。
「いや、だから行かないって」
「いけません。 帝国にはあなたの力が必要です」
「いやいや大王国にこそあなたの存在が必要よ! 働く必要もない! いるだけでいいからね!」
「……う、うわぁ、欲にまみれた人間って恐ろしい」
美少女二人に求められる、嬉しいはずなのに彼女たちの想いが強すぎて正直俺は引いてしまっていた。
確かに空飛ぶクルーザーなんてこの世界にはないだろう。 どんな城よりも見晴らしの良い景色、誰にも煩わされない空という場所。 そして風呂にプール、トイレキッチンと前世の技術を使った設備は悪魔的に快適だ。
安易に利用させた俺が悪いのだろうかーー否、むしろ貴重な体験ができのだから感謝されても良いくらいだ。
「分かったわ……ならこういうのはどう? 共立国際魔法学園への入学資格と特別特待生への推薦!」
アコの提案にシイラが息を呑んだ音が聞こえてきた。
「いや、大丈夫です」
「「「なんで!?」」」
魔法学園には色々あるが、中でも共立国際魔法学園は誰もが認める最も権威ある学園だ。
全ての国がこの学園においては経営、戦闘において中立であり、生徒教師はただ魔法の研究や研さんに打ち込むことができる理想の学舎である。
それ故、試験は相当難関でここの卒業資格を持っていれば魔法使いとして一生食いっぱぐれることはないと言われているらしい。
「俺、魔法使いになりたいわけじゃないし」
「いやいや! そうは言っても全人類の! 憧れの! 賢者が創始者と言われるあの学園だよ!?」
「いやー、今の生活が気に入ってるんだよね……少し旅するくらいならともかく何年も離れたくないよ」
やたら興奮しているシイラが俺の胸ぐらをつかんで揺さぶってくる。 彼女は魔法使い志望なのだろうか。
「まるで年寄りみたいな精神してるわね……あなた大丈夫?」
「まあ人生色々ありますから」
物憂げに遠い目をしてみるが、今はもう追放されたことや、父に殺されかけた傷は癒えているので問題ない。
「なるほど」
ヒビキがシイラの反応を見て、あくどい笑みを浮かべた。
「そこのあなたお名前は?」
「僕? 僕はシイラだよ」
「そう、シイラさんですか。 あなたはずいぶん魔法学園に興味がおありのようで」
「はい……実は共立国際魔法学園に入学して学ぶことが夢でして」
はにかむシイラに、ヒビキは大げさに手を叩く。
「ではあなたに一つ条件を付けましょう。 それを見事達成したその時はあなたにも入学資格を与えましょう」
「ほ、本当っ?! その条件は一体……」
「彼を説得すること」
ヒビキは見た目は気品のある美しい少女だが、実は結構腹黒なのではと思ってしまう。
目をキラキラさせて魔法学園に食いついていたシイラの表情が脳裏に焼き付いて離れないのだ。
「エクリオ!」
「やめてくれよ……そんな無垢な目で見られたら断りずらいって」
「一生のお願いだ……頼む、君とって寄り道になることは理解している。 その分学園を卒業した後、何年かけても恩を返すから……だから頼むよ」
すがりつくシイラを引きはがそうと試みるが、離せない。
「それに村から離れたくないなら大丈夫! 僕のスキルで送り迎えするから!」
「いや、確かその学園ってラララ大王国のさらに向こう側……そう簡単に行き来できる距離じゃなかったような?」
アコとヒビキに聞かれたくなかったのか、シイラは俺の耳に顔を寄せて囁くように言った。
「……僕のスキル転移を使えば一度行ったことのある場所なら行けるから」
この世界の移動手段は乏しい。
そして転移や時空魔法の使い手がいると言う話を、俺は聞いたことがない。 故にもしも人に知られれば面倒になると考えたのだろう。
確かにそれなら俺にとっての問題はクリアしている。
「はあ、分かったよ。 まあ通いでいいなら行くだけ行ってみるか」
「本当?! ありがとう!」
「……卒業はできなくてもいいですよね? 一応は頑張りますけど、あそこは入学よりも卒業が難しいと聞くし」
喜びの爆発したシイラに抱きしめられながら、俺はヒビキに確認した。
入学する以上卒業はしたいが、そこまで興味があるわけでもないので保証はできない。
「構いません。 ただあなたは王族の看板を背負っていることだけはお忘れなく」
「……脅しですか」
「いいえ? 罰もありません、本当に。 安心して落第してください」
「それはそれでシャクですけどね!!」
まあ人生は長いし、数年くらい寄り道するのも悪くないかと俺は自分を納得させる。 しかし帝国にも、大王国にも仕える気はさらさらないので、そこは否定しておく必要があるだろう。
「ただ国に仕えるのは嫌です! あくまで検討、ということで!」
「まあその辺が落としどころかしらね? 分かったわ、こちらもそれで構わないわ」
お互いが合意したところで俺とヒビキは握手を交わすのであった。
「ちょっと! そもそも私が提案した話なんですけど!?」
「説得したのは私です」
「がーん!!!」
焦るアコはヒビキの言葉に衝撃を受けたように固まった。 するとヒビキはくすくすと楽しげに笑い声をもらした。
「嘘よ、嘘。 じゃあ二人で推薦しましょ。 それでどちらに行くのかは彼に決めてもらいましょう」
「ヒビキ~ありがとう~!」
アコはヒビキに感謝しながら、俺と握手を交わすのであった。
一章終
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今話で一章は終わりです。
拙作を読んでいただきありがとうございます。
面白い! 続きに期待! そう思っていただけましたら評価、フォローしていただけますと嬉しいです。
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