第14話:クルーザーでバカンス
――どうしてこうなった。
「さあ、キリキリ吐きなさい!」
「さあさあ、あなたの買った遺物はどんなものなのか……楽しみですわ!」
あの部屋から出ようとしたが、結局アコに止められなぜかオークションで落札した遺物――クルーザーを魔改造することになった。
「ええと、ここにありますは世間ではゴミと言われる遺物でございます。 このまま海に沈めるとこの船は沈没することでしょう……しかし! 私のスキルによって瞬く間にアーティファクトへと変貌する様子をご覧にいれましょう」
もうヤケクソで可笑しなテンションになってしまった俺に、二人が呆気にとられている様子が小気味良い。
「はいっ」
シーツで二人の視界を隠した一瞬でスキルを使うと、船が光り輝いた。 二つの世界の技術が混ざり合っていく。
床に置かれた船の底がふわりと浮いた。
このスキルを遺物に使う際は、完成するまでどのように改造されるのか分からない。
「これは自分でも予想外」
「浮いてる……?!」
こうなると中がどうなっているのかとても気になるところである。
「ではお嬢様方、こちらへどうぞ」
俺はアコとヒビキ、そして隅で黙り込んでいるシイラを連れて船の中へと入っていくのであった。
***
「まるで王宮ね」
アコは少年について入った船内を見て驚愕した。
巨大なソファーが置かれ、景色を眺めることができるリビング。
船内には円形のジャグジー、ベッドルーム、キッチンルームがある。 そしてデッキもソファーが各所に置かれ、プールさえついている。
王宮と言ったが、広さを考えなければ劣らない。 むしろ勝るかもしれない。
もちろんトイレは完備だ。
「……欲しい」
「あげませんよ?! 買ったばかりで全然楽しめてないんですから!」
アコは自分の口から無意識に出た言葉に驚いた。
幼い頃から王族に相応しい扱いを受けてきた。 それが当たり前で、そのことに興味はなく、アコは武術や魔法についての方が興味がある――そのせいでじゃじゃ馬と呼ばれていた。
その通りだと、アコは自分でも認めていた。
しかし久しぶりに美しく、ラグジュアリーな秘密基地のような船内にときめいていた。
「そう、そうよね。 ごめん」
「アコ? どうかしましたか?」
「……いえ、ちょっと気になって……ついね、ははは」
アコは正直、のどから欲しいと思っていた。
ヒビキはやはりトイレに夢中なようで個室へと消えていった。
「あのこれってもしかして――
――飛ぶ?」
アコはメカメカしい操縦室を触りたくてうずうずしながら、少年に尋ねるのであった。
***
「いざ発進!!」
俺の船ではあるが、やたら操縦したそうにしていたアコの掛け声によって船がふわりと空に浮かんだ。
「スイートルームってすげえや」
「しばらくしたら戻ります」
彼女たちの泊っていた宿にある巨大窓から船は外へ飛んでいった。
ヒビキは呆気に取られているホテルマンに言うだけ言って、船内へと入るのであった。
「これ、下は相当騒ぎになってるんじゃ……?」
デッキから下を覗きながら呟くシイラの肩を叩いて、俺は首を振った。
「気にしても仕方ないさ。 悪いことしてるわけじゃないし、気にしない気にしない」
「……うん、思考停止してせっかくだからこの際楽しんじゃお!」
まずやるべきことは決まっている。
「よし! 念願の風呂に入ろう!」
「おー!」
よく分からないまま拳を上げるシイラを連れて、俺はうっきうきでジャグジーへ向かった。
「ああ~、生ぎがえるぅぅぅぅぅ~」
風呂に入った途端思わず声が出た。
本当に気持ちい。 やはり風呂は日本人の心だ。
何か足りないと感じていた部分が埋まったような気がした。
「あ~、ホントに気持ちいい~。 お風呂って話では聞いたことがあったけど、こんなにいいモノなんだね~」
向かいで体にタオルを巻いているシイラが幸せそうな表情で呟く。
「失礼します」
そう言って風呂に入ったのはトイレ大好き少女ヒビキである。
「なんで混浴……」
「お気になさらず。 こちらが我慢できなかっただけですから。 それにあなたは――」
ヒビキは俺の体を上から下まで見て、鼻で笑う。
「――子供じゃないですか」
「ああ、そういうこと……」
前世の記憶があるせいか時々忘れてしまうが、そういえば俺は十二歳だった。
しかし未成年とはいえ皇女という高貴な身分の人間が、混浴していいのかと不安になってしまった。
「……まあもう、どうでもいいか~」
そんな疑問も風呂の温かさが洗い流してしまう。
股間問題についても今は置いておくことにする。
「はぁぁぁぁぁん……こんな心地よい湯あみ場私は知りません! 知りません! なんなんですかこのまるで、体を包み込むような、母の胎内に戻ったような安心感と心地よさは……」
「この風呂の本領はこれからですよ?」
ヒビキがまるでリアクション芸人のように反応するので、俺もノッてきた。
「ジャグジー! スイッチオン!」
――ぶくり、ぶくぼこぼこぼこ
「「ひゃぁぁぁぁぁ?!」」
ヒビキとシイラが飛び上がり、その勢いで二人のタオルがはがれた。 しかし泡が残念ながら大事な部分を隠して――
「んん! どう? 最高に気持ちいいでしょ?」
見ない素振りをしつつ、俺は彼女たちにサムズアップして見せるのであった。
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