第13話:美少女二人と再会/勘違い





***



 オークション会場にて、ヒビキは目当ての少年を見つけニヤリと笑った。


「見つけた」



***



「凄いの買ってたね……あれって船、だよね? 乗れるのかな?」

「いや、このままじゃ乗れないだろうね」

「えぇ……?」


 船を収納袋にしまった俺が答えると、シイラは微妙な表情になった。


「まあまあ直すあてはあるから」


 それにこの船は船として使うつもりはない。


 中を軽く確認したところ、船上で優雅な時間を送るのに必要な機能は兼ね備えているようで安心した。


 本当は湯沸かし器があるか街を見て回りたいところだが、すでに金はほとんど使い果たしてしまったので今回はクルーザーを手に入れただけでも良しとしよう。


「悪いけど案内は今日で終わりにさせてもらうよ」

「えぇ?! まだ目的の遺物は手に入れてないんだよね??」

「もう一文無しだよ」


 シイラはその答えに納得したようで、残念そうに息を吐いた――


――その時、俺の肩を誰かがつかんだ。


「少しよろしいかしら?」


 振り返るとそこにいたのは、旅の道中で出会ったヒビキとアコであった。





「あなたにお願いがあります。 これを使えるようにしてくださいませんか?」


 ヒビキたちの泊る高級ホテルにやってきた俺に、ヒビキが遺物を指して言った。


「おお、すごい! よく見つけましたね?」

「ええ、まあ私にかかれば容易いことです。 そんなことは良いのですが、出来ますか?」

「ええ、いいですよ」


 この異世界で一度別れて、すぐに再会するなんて運命のような偶然だ。 それに今はクルーザーを手に入れて気分が良い。


「はい、できました」

「え……え?」

「嘘……ヒビキですらできなかったのに」


 二人がやたら驚いていることが不思議だ。


「それじゃあ帰っていいですか?」

「……ちょっと待ってください。 お礼を受け取ってください」


 ヒビキに渡された小袋を、まさかと思って覗くと金貨が詰まっていた。


――いやいや、こんなに?!


 心中驚いたが、こんな額間違って渡すとは思えない。


――ラッキーと思って黙って退散しよう。


「……ありがとうございます。 それでは、」


 しかし俺の帰り道をなぜかアコが通せんぼした。


「ちょっと待ちなさい。 あなたうちに来ない?」


 俺にはアコが言っている意味が分からないことを察したのか、彼女は目を輝かせて言った。


「あなたみたいに若い才能が一人でも多く私の国には必要なのよ」

「私の国……? すみません、それってどういう――」


 アコは胸元から金ぴかなペンダントを取り出し、俺に見せつけた。


「我が名はラララ大王国第三王女アコ・ラララ。 あなたの力をラララ大王国の発展のために役立ててもらいたい……いわゆるスカウトってやつね!」


 名乗りを上げたアコは何かの魔法でも使ったのかと思うほどオーラというかカリスマというか、存在感が増した気がして俺は思わず頭を垂れそうになった。


「そんないきなり……そもそもどうして俺なんか?」

「あなたは知らないかもしらないけど、あなたは世界でトップクラスの魔力保有量なのよ」


 アコは俺をラララ大王国の魔法学園で勉強させ、将来は国の魔術組織で活躍して欲しいと言う。 しかしそこまで話を聞いても俺にはピンとこなかった。


 だって伯爵家に居た頃、魔力保有量はもちろん確認したが大したことはなかったはずなのだ。


「いやいや何を勘違いされているのか分かりませんが、俺は平民のなかでは保有量が多い方ですが、そこまで飛びぬけてはないです」

「隠しても無駄よ! もう分かってるんだから……そこまで言うなら確認してみましょう」


 アコはなぜか自信満々で、魔石の指輪を差し出した。


「これは……?」

「その石は魔石だから魔力を込めてみて。 まあちょっとやそっとじゃ壊れない代物だから安心なさい。 仮に壊れても文句は言わないわ」

「……それって国宝の一つ」


 ヒビキから何か不穏なセリフが聞えたが、アコは逃がしてくれる様子はないし、俺は聞かなかったことにして震える手でそれを受け取り魔力を込めた。


「うそ?!」

「そんな……淡い水色」

「ほら、だから言ったでしょう? そこそこですと」


 その指輪についた魔石は淡い水色に光り輝ていた。


 この世界では魔石に魔力を込めた時に生じる光で、おおよその魔力保有量を測ることが出来る。


 色なしで、光も弱く点滅するならほぼまともに魔法は使えない。


 そこから色が濃くなり、光の輝き、色などでFからSとランク付けされる。


「C、よくてBってところですよ」

「そんな嘘よ! だって」

「だって?」


 以前から変化はない。 魔力は魂と紐づいていると言われており、死線を潜り抜けるような経験を体験することで成長することはあるらしい。 しかし伯爵家を追放されたときはともかく、それ以降は穏やかな暮らしをしていたので魔力が増えることもなかった。


 しかしこの結果をアコもヒビキも信じられないようで、ヒビキが試しに魔力を流すと指輪はまるで油絵具の描いたような真っ白な光を放った。


「S級……?!」

「正常みたいね。 私がやっても、うん壊れてないわ」

「だとしたらあなたは一体どうやって――


――魔力を偽ったのですか?」


(えぇ……なんでそんなに疑われるの?!)


 しかしそんな疑いの目で見られても、俺が嘘をついていないと照明する手立てはない。


「どっちにしろあなたの国には行きません。 なので帰りますね! では!」


 というかそもそも魔力保有量が高かったとしても、アコの誘いに乗るつもりはないのだ。 故に彼女たちに付き合う必要がないことに気づいた俺は晴れやかな気持ちでアコに告げた。





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