第12話:精霊通信/オークション
オークションが始まるのは夜らしく、俺はそれまで宿で少し休むことにした。
「地下にもこんな宿があるんだ」
「まあね、歓楽街もあるから」
この宿には水の出る魔道具があり、それぞれの部屋で水浴びできるようになっている。
「じゃあシイラも入ってきなよ」
「やった! 遠慮なく!」
俺はさっさと水浴びを済ませ、勧めるとシイラは意気揚々と水場へ向かった。
その間に俺は先ほど店で買った遺物の一つ――ラジオを取り出した。
「まあ聞けるわけないけど」
前世の頃、好きで良くラジオを聞いていたのを想い出し無駄とは思いつつも買ってしまったのだ。
俺はスキルを使って直したラジオに魔力を流す。 そしてつまみをゆっくり捻ると、
――ジジッ、ザー
しかしラジオから聞こえてくるのはノイズの音ばかり。
諦めようとしたその時、
『あ、あ、テステス』
女性の声が聞えてきた。
『さあやって参りました! 精霊通信のお時間です!』
「え……? 精霊、通信?」
軽快な口調はまさにラジオであるが、この世界にラジオ局なんてあるとは思えない。 ならば一体これはなんなのか。
『第一回の今回はみさなんご存じのスペシャルゲストをお呼びしております。 ささ、こちらにどうぞ』
『は、初めまして~? 創造神のエルダートトロイヤルです……こんな感じで大丈夫なんでしょうか?』
『はい大丈夫です! ありがとうございます!』
「いやいや創造神ってあり得ないだろ。 なんかめっちゃ戸惑ってるし……」
この世界において最も大きい勢力であるトロイヤル教会の神がそんな名前であったと記憶している。
『では色々お聞きしたいんですが! まずはこの世界を創った理由、そして成り立ちを――』
「いや、キリがなさすぎるだろ……」
もしも本当に神がゲストだとして、世界の始まりから語ったら終わるまでに何年かかるか分からない。
「すみませーん」
ラジオの内容に戸惑っていると、水場から声がした。
「タオル取ってもらえる~?」
「分かったよ。 ちょっと待ってて」
シイラにタオルを持っていく。 まあ相手は男子だし特に気にする必要もないと水場に入ると、
「え」
「あ」
そこにいたのは少年ではなく、巨乳の美少女だった。
「えっと、誰……?」
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
訳も分からないまま俺は少女にひっぱたかれ、水場から追い出されるのであった。
「ごめん、思わず叩いちゃって……大丈夫かい?」
少年、改めロリ巨乳シイラは心配そうに眼を潤ませた。
「うん、まあ不用意に水場に入った俺が悪かったから」
なんだか急に気まずいが、そろそろオークションの時間であるのが救いだ。
「さらし巻いてるの?」
「そう、この街では少年を装っていた方が安全だからね」
地下の街は治安が良くないので色々あるのだろう、と察する部分はあるが俺には彼女をその生活から救う覚悟はない。
「そっか。 じゃあそろそろ行こうか……オークションの案内よろしく!」
「うん! 任せてよ!」
だから俺は深く聞くことはせず宿を出るのであった。
〇
「収集家の皆様! お待たせしました!」
オークション会場は地下のさらに地下にある大会場で行われている。
意外にも超満員の会場は相当の熱気に包まれていた。
「さあ、まずは一品目!」
それは前世で理容室の目印である青と赤の螺旋を描くオブジェである。
「い、いらねぇ……」
使い道を知っている俺からすれば、どう見てもゴミである。
しかしこの世界の収集家から見ればその螺旋が芸術ぽく見え、おまけにガラス製なので鑑賞するには悪くないのかもしれない。
どんどんと入札の札が上がり、結局金貨越えの価格となった。
次から次に遺物が落札されていく。
ペットボトルや空き缶のようなゴミから、ルンバやコーヒーサーバーなど家庭的な物まで様々だ。 この世界では遺物の用途が分からない故の雑多さだろう。
「残り一つか……」
「どう? 目当ての遺物はありそう?」
「……いやないかもしれない」
「まあそしたらまた街を案内してやるさ」
シイラがなぜか嬉しそうに言うが、まあ案内する日数が増えれば彼女への手間賃も増えるからだろう。
できればここで見つけたいが、異世界と言えど世の中そう都合は良くいかない。
「続いて最後の品……の前にここで本日の大きさ枠です!」
そう言うと会場が熱気というより、和やかな雰囲気に包まれる。
なんだろう、と首を傾げていると巨大な船――クルーザーが運ばれてきた。
「このオークションでは最後の品が一番目玉なんだ。 だけどその前に休憩がてらネタ枠の出品があるんだよ」
船、それは確かにこの世界にもあるし遺物収集の観点から見れば、未知ではないそれは欲しいモノではないのだろう。
本当は湯沸かし器で風呂を沸かすつもりであったが、しかしクルーザーならば図らずも願いを叶えられると俺は知っている。
「これを落札する」
「頑張って!」
シイラに応援されつつ俺が札を上げると、別のところで入札が一件入った。
「もう一回…………くそ……っ」
俺がもう一度札を上げると、即座に札が上がる。
「いつになくネタ枠が盛り上がっております! 金貨十枚! 入札ございませんか?」
「こうなりゃヤケクソだ!」
俺はオールイン、金貨九十枚で入札した。
さらに入札されたらもう俺は下りるしかない。
「いませんか? いませんか?」
――カンカン
「金貨九十枚で落札です! まさかの今回のオークション最高額出ました!」
会場から送られる拍手に俺は照れていたが、隣のシイラは驚愕と呆れの表情でこちらを見ていた。
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