第7話:電子レンジ
「うん、最低限は揃ったな」
俺はピトの家から持って来たいくつかの遺物を魔改造し、新居に運び入れて一息ついた。
――ダブった遺物を譲ってほしい。
ピトの家にある遺物はたくさんあったが、一目見てダブっているものもあることが分かった。
だから俺は研究に時より協力する代わりに、不要な遺物を譲ってもらうことにしたのだ。
「おおお! リオ! リオ! これはすごいぞ!!」
「うん、すごいね。 とりあえず一旦落ち着こうな」
ピトは電子レンジで飲み物をあっためては驚き、冷蔵庫に顔を突っ込んでみたり、やりたい放題だ。
「この電子レンジはどういう原理で温かくなるのだ?」
「……」
「もしや知らないのか?」
「……それを研究するのがピトの仕事だろ! お前の分のレンジを解体して確かめてくれ!」
当たり前に使っていたが、原理なんて知りたいと思ったこともなかった。
今思えば、異世界に来ると分かっていたら現代知識チートするために頑張って勉強したのだが。
「まあそれはそうなんだが……こう完全に使えて、加えて便利だとバラすのが惜しくなると言うか」
確かにこの世界では温めるには薪を割って、火を起こして、その後は灰の片付けなどもしなければならない。 それがボタン一つで済むのだから。
ピトは飽きもせず何度もつまみを捻りちんちんと鳴らしてはしゃいでいるが、いい加減日も暮れてきた。
「今日はこのくらいにしてそろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
「帰らないぞ」
ピトは不思議そうに首を傾げた。
「前世の話で今晩は語り明かすんだ!!」
「ええ……」
鼻息荒いピトからはどう説得しても、帰らないという強い意思を感じた。
――コンコン
俺がピトにげんなりしていると、フェリがやってきた。
「遊びにきたぞ……おや珍しい、久しぶりだなピト」
「あ、あ、あ」
フェリは気さくに話しかけるが、ピトの様子がなんだか可笑しい。
「あの、ああ、うわ……」
「ん? どうした? 具合でも悪いのか?」
「いや、あの、いえ」
俺はこんな光景を前世で見たことがある――話しかけられて困ってるコミュ障だ。
「実はピトの研究を手伝うことになりまして」
「ほう、それは酔狂だな。 夕飯を持ってきてやったから食べながら聞かせてもらおうじゃないか」
俺が話を逸らすと、ピトはあからさまに安堵した息を吐いた。
フェリが持って来たのはウサギ肉を挟んだハンバーガーのようなものであった。
「私が作ったんだ! 美味いぞ~! あれ? でも冷えちゃってる……」
嬉しそうなフェリはしょんぼりと肩を落とすが、俺は隅っこで震えるピトの肩をつついた。
「電子レンジ使うチャンスだぞ?」
「!!!」
「まあでもピトさんは動けなさそうだし、俺がやっちゃおうかなー」
「待て……! そのハンバーガーは全て私のものだ!」
人が怖いことより電子レンジを実際に使ってみたい気持ちが勝ったらしく、ピトは先ほどまでの怯える小動物のような様子から一変、意気揚々とレンジを使いだした。
「エクリオお前どうやってピトと仲良くなった? あいつと話せる奴なんてミヤくらいだったのに」
「遺物を取り合ったら仲良くなりました」
「なるほどな。 遺物……何がそんなに面白いんだ?」
「面白いというか便利なので」
――ちーん
軽快な音が鳴ってピトが湯気の立ち昇るハンバーガーを持って来た。
「あの遺物は食べ物を温められる道具です」
「は? そんな箱に入れただけで温められるわけ……温かい……?」
フェリは受け取ったハンバーガーをおそるおそる一口頬張った。
「美味い……こんなことエルフの魔法でもできないぞ。 遺物ってすごいんだな」
「そうなのだ!!! 遺物というのは――」
感心するフェリに、ピトはなぜか自慢げに遺物のどこか素晴らしいか語り始めた。
「そ、そうか! 遺物の素晴らしさはよーく分かった! さて……二人のお邪魔なようだし、私はそろそろお暇しよう!」
フェリは焦った様子で「ではまた!」と逃げるように立ち去って行った。
「うーむ、まだまだ話したりなかったんだが……あのエルフなかなか見どころあるな」
「……偉そうだなあ。 あ、ウサギうまっ」
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