第6話:空を見上げる少年/ゴミ漁りのピト
新しい暮らしはとても丁寧なものだ。
朝起きたら井戸で顔を洗い、村長の家で朝食を取り、新居の前を耕した畑の手入れをする。 それが終わればやることも無いので、自由時間となるので俺は遺物探しがてら村の近くの山まで登山に行く。
「お、見つけた」
ここは本当に遺物が降りやすいらしく、一日複数のは遺物が降ってくるのだ。
今日もさっそく降ってきた遺物をの落下地点を目指して、俺はひた走る。
――ドーン
落ちたのは森の中だった。
俺が急いで到着して遺物を拾おうと手を出したその時――
――にゅ、と伸びてきた白い手が俺と同時に遺物を掴んだ。
「残念だったね、これは私のだから」
白衣をまとい首にヘッドフォンを掛けた少女が当たり前のように遺物を持って行こうとするので、納得のいかない俺は引っ張り返した。
「いやいや、俺の方がちょ~っと早かったです! だからこれは俺のです、残念ながら」
「いやいやいや、私の方が先に見つけたし」
「いやいや、俺の方が」
「いやいやいや」
「いやいやいや」
俺たちの力は均衡していた。
そして俺たちが掴んでいる遺物はカメラである。 彼女には無用な物だろうが、俺にとっては有用なものだ。
「あなたこんなもの持って帰ってどうするんですか? 金ならあげますから、これを渡してください」
「研究に使うんだ。 金は……欲しいがこれは私のものだ。 そしてお前はその金を私に投資すればいい。 そしたらいつかこの遺物の技術を流用した道具を私が作ってやる」
――ブチッ
そうやって引っ張り合っていれば、空から落ちたことによりただでさえボロボロになった物は壊れれてしまう。
少女の掴んでいたカメラのストラップ部分が嫌な音を立ててちぎれた。
「「ああっ?!!」」
俺はカメラを、少女はちぎれたストラップをそれぞれ見下ろした。 そして俺はこのまま立ち去ろうかと思っていたところ、少女から「ぐす」と鼻をすするような音が聞こえ始め、
「うぇーん」
「えぇ……」
少女は幼子のように大粒の涙を流して泣き始めてしまった。
こうなってはさすがに罰が悪いので、俺は仕方なく少女をなだめるしかない。
「泣くなよ……」
「だって私のっ私のっ壊れちゃったぁぁぇぁ」
「元々壊れてるし、ストラップは本体じゃないんだから大丈夫だよ。 な?」
そう言って少女をなだめていると彼女は「ふぇ?」と唐突に泣き止み、俺を不思議そうに見つめた。
「なんでそれが本体じゃないと知ってる……? あなたはこれが何かを知っている?」
「あ、いや」
「知ってるんだね!? 君は遺物に関して何を知っている?! 教えてくれ!!」
少女の必死な様子に、諦めた俺はどうせ信じてもらえないと思いつつ荒唐無稽な事実を呟いた。
「俺は異世界から来た転生者なんだ」
○
「ようこそ、我が研究所へ!」
俺は少女に連れられ、村の外れにある彼女の家にやって来た。
その家の周りには大量の遺物が置かれ、まるでゴミ屋敷のように見える。
「研究対象ならもっと大事に扱いなよ……」
「家が小さすぎるから仕方ないんだ! 私には家を作る技術なんてないからな!」
「村の人に手伝ってもらってーー」
俺は言いかけて口をつぐんだ。
歓迎の時も、住み始めたここ数日も彼女を見かけなかったし、話しに聞いたこともなかった。
それにこの世界において遺物はゴミだ。 そんなものを必死に集める少女は変わり者であり、村人も近寄りがたいーーつまりこの少女ボッチなのでは、という考えが過った。
「うるさい。 頭の固いやつとは関わりたくないんだ!」
涙目で怒る少女を見て、何も言えずただ自分の好きなことを周囲に理解されない思春期の若者を見ているような気分になった俺は何も言えず頷くのであった。
「だがお前は話の分かるやつだからな。 特別に私の研究を見せてやろう」
ウキウキした少女と共に家に入ると、そこは家というより倉庫といった感じだ。
大量の遺物と、奥に机があるくらいで全く生活感のない空間であった。
「住居は別なんだよな?」
「? ここに住んでいるぞ。 家と研究所を分けるなんて移動時間が無駄だろう?」
「う、うん、そうか。 そうか」
少女は全ての情熱を遺物に注いでいる、まさしく研究者の鑑のような人物らしい。
「さて異世界人」
少女は後ろ手で扉を閉めて、悪い笑みを浮かべた。
「お前は今日からここで私の助手をしろ」
「は? 嫌だよ」
若干危険を感じた俺は少女を押しのけて帰ろうとするが、彼女が抱き着いて必死に止めてきた。
「た、頼む! 私の研究にはお前が必要なんだ!」
「知らないよ! 俺は研究するために来たんじゃない! スローライフしたいんだ!」
「ちょっと、ちょっとでいいから!」
「そんな胡散臭いセリフ信じられるかっ!」
男とはいえ十二歳、俺たちはもみ合った結果もつれるように倒れ込んだ。
そして俺に馬乗りになった少女は、
「頼むよ……もう一人は嫌だ……一人は虚しい、一人は寂しい、一人じゃ何もできない……私にはお前が必要なんだ」
泣きながら懇願する少女を振り切れるほど俺はメンタルが強くない。
「……ちょっとだけ?」
「……うん」
「はあ、分かったよ……本当にちょっとだけなら手伝ってやる」
「ほ、ほんとか?!」
まるで散歩に行くと言われた子犬のように目を輝かせる少女に、俺は仕方ないと頷いた。
しかしさすがに手伝うだけというのも癪なので、俺はある条件を付けた。
渋るかと思ったが、予想外に少女は即座に頷く。
「それでいい! 私は遺物研究者ピト! よろしくな!」
少女――ピトは嬉しそうにほほ笑むのであった。
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