第4話:報酬と商談





「まさかヤマーダ様とお知り合いになれるとは!!」


 どうやら商人の間でバイクに感動していた収集家の商人は有名人だったらしく、彼と知り合いに慣れたことを商人の男――タナーカはひどく感謝していた。


「いえいえ、たまたまですから。 そんなに凄い方なんですか?」

「ええ、それはもう! とんでもない金持ちですよ!」


 タナーカ曰く、ヤマーダは気に入った品であれば金に糸目はつけない変わり者のコレクターである。 貴族ではないらしいが、職業や素性は不明で神出鬼没の謎の人物であるらしい。


「これはその感謝も込めてチップだよ! 受け取ってくれ!」


 帰りのタクシーが終わると上機嫌の商人は銀貨を一枚投げてよこした。


 銀貨一枚は日本円だと一万円くらいの感覚なので、かなりの太っ腹と言えるだろう。


「依頼完了しました!」

「早すぎませんか?!」


 冒険者ギルドへ依頼完了の報告に行くと、受付のお姉さんにかなり驚かれた。

 しかしサインはもらっているので、嘘ではないとなんとか納得してもらえた。 報酬は銀貨八枚ほど。 本来であれば野営の準備、戦闘が発生するリスクを考えると決して十分とは言えない。


 しかし俺にとっては美味い仕事という他ないだろう。


「順調、順調」





 それから数日後、冒険者ギルドを介して俺はヤマーダと連絡を取った。


 そしてヤマーダの使いの馬車が俺の元へとやって来た。


「お待たせいたしました。 こちらへどうぞ」

「いや俺にはこれがあるので」


 馬車への乗車は断り、俺はバイクで追走することにした。


 しばらく進んでたどり着いたのは森の奥に、ひっそりと佇む大きな洋館である。


「待っていたよ」


 中は伯爵家とそん色のない豪華な内装である。


 違う点はそこかしこにショーケースが置かれ、コレクションが飾られている点であろう。


「凄いですね」


 折れた刀、蓋の割れた炊飯器や扉の取れた冷蔵庫などの電化製品。 ペットボトルが飾られているのはシュールで吹き出しそうになる。


 とにかくジャンルなどはなく、とにかく空から落ちてくる不思議な遺物が好きなのだろうということがよく分かる。


「どれも自慢の一品さ。 他にもいくつかあるが、飾り切れないのでね。 定期的に気分で入れ替えたりしているんだよ」

「凄いですね……」


 ヤマーダほどの執着はないので、共感することは難しい。


 しかしそんな微妙な反応には慣れているのかヤマーダは、気にせず延々と話し続けている。


「ヤマーダ様」

「おっと失礼。 それで本題だが」


 ヤマーダは真剣な表情で指を三本立てた。


「これでバイクを売ってほしい」


 銀貨三枚なら安すぎる。

 しかし銀貨の百倍の価値がある金貨三枚なら、俺の懐は一気に温かくなるが――


「金貨三十枚では安すぎるか。 すまない、ならば百枚でどうだろうか?」

「え……え? えええええ??! ひゃ、ひゃひゃ百枚ですか?!」


 あまりの高額の提示に驚いて俺は言葉を失った。


「遺物は確かに市場では捨て値、ゴミ同然の価格でやり取りされている……それはどれもありふれたものであったり、使い方の分からないものばかりであるからに過ぎない。 しかし!! これは動くではないか! しかも一見、どんな原理で動くのか全く理解できない!! これは迷宮のアーティファクトに近しい、いやそれ以上の価値がある!!」

「旦那様。 お客様が引いておられます」

「おっとまた熱くなってしまった。 すまないね、それで……どうだろうか? 金貨百枚で」


 本来であればバイクは残して、他の遺物を直して料金を払ってもらうつもりであった。 次、バイクや旅の足となる遺物をいつ見つけられるか分からないのだ。 しかし金貨百枚――俺は悩んだ末、一つ条件を出して頷くのであった。


「いきなり大金持ちになってしまった」


 この金の使い道は一応決めていた。


 それはヤマーダに話した条件が関わってくる。





 後日、迎えにやってきた馬車に乗って俺は街を出た。


 御者一名に、護衛の冒険者四名。 俺を含めて六名の旅となる。


「これから向かう村についてご説明させていただきやす!」


 気さくな雰囲気の御者から、これから向かう――そして俺が住むことになった村について聞く。


 その村は大国と小国の間に伸びる国境の上に位置していて、どの国にも属さない特殊な村らしい。

故に貴族も国も関係ない。 まさに俺が教会の地下で願った理想にぴったりの条件である。


 そう、俺はヤマーダに権力が関わらない、のんびり暮らせる場所を提供してもらえないかと条件を出したのだ。


「しかしお若いのに本当にそこに住むんですかい? やたら遺物が降るくらいで、それ以外は何もないと聞いてやすが」

「何もない、そこがいいんです」

「……まあ人それぞれってやつですね。 失礼しやした!」


 遺物が降るというのは、つまり一般的にはゴミがやたら降る土地でしかないが、俺にとってそれはメリットでしかない。


 ヤマーダも定期的に通うというようなことを言っていたし、金には困らないだろう。 買い物は時折通る行商に頼めば問題はないし。


「刺激はないけど、これでのんびり暮らせる」


 俺は自分でも気づかぬうちにずっと張り詰めていた気持ちが軽くなったような感覚になり、そのまま眠りに落ちるのであった。






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