第3話:空から落ちてくる遺物/タンデム
見晴らしの良い草原で、俺は空をひたすらに見つめていた。
「うーん、来ないな」
かれこれ数時間ほどそうして過ごしているうちに、空に黒い点が現れた。
「来た!!」
それは落ちてきていた。 落下点を見極めながら俺はひた走る。
この世界には魔法やモンスターが存在するが、特徴的なこととして空から異界の遺物が降ってくるというものがある。
伯爵家の領でも何度か見かけたことがあるが、どれも前世の世界の物であった。
遺物と言っても地面に落ちてきた衝撃で大抵壊れてしまう上に、治したところで使い道のないものか、大した価値のないものである場合が多い。
ただし一部の収集家の間では物によってはそれなりの値で取引されている。
――ドーン
激しい衝撃音の起きた場所に近寄ると、そこにはバラバラに壊れた破片が飛び散っていた。
「これは大変だぞ」
俺はなんとか周囲を探して全ての破片を集めて、それが何であるか理解したところでニンマリ笑った。
さっそく僅かな金で取ったぼろ宿の部屋で俺は集めた破片を広げてスキルを使用した。
「魔改造!」
すると破片が光り輝き、見覚えのある姿へと変わっていった。
「おお、かっけえ! バイクだ!」
それは男心をくすぐるメカメカしいフォルム。
この世界では絶対にお目にかかれない異世界の、前世でよく見た乗り物だ。
「うわー、これで旅が楽になる!」
俺は無邪気に喜ぶのであったが、そこで一つ大きな問題に気づく。
「さて、ここは二階だけど……どうやって外まで運ぼうか」
人に見られ見世物になるのが嫌だったので、部屋で改造したのは失敗だったかもしれない。
「まあとにかくこれを使って稼ごう」
配達やタクシーなどをすればそれなりに稼げるだろう、と俺は安直に考えながら冒険者ギルドへ向かうのであった。
ギルドに行くと簡単な護衛依頼や遠くの町への荷運びなどの依頼がいくつかあった。
「ホントにあなた一人で大丈夫?」
「はい大丈夫です。 俺にはこいつがありますから」
荷運びは戦闘はないが、それなりに信用を積まなければ受けられないため俺は隣町までの護衛という名のタクシーをすることに決めた。
初めは断られたものの受付嬢にバイクに乗っている姿を見せることで、人を運ぶ能力は認めてもらえた。
だが護衛依頼依頼の場合、顔合わせの際依頼主に断られる可能性はあるという説明があったので、その点は心配である。
「おお! これは素晴らしい馬ですね!」
その心配は無用であった。
商人をしているという男は俺のバイクを見て目を輝かせていた。
「じゃあ、荷物はこちらに。 そして俺の後ろに座ってください」
俺は無邪気にはしゃぐ商人を後ろに乗せて、隣町までのツーリングを開始した。
この街から隣町まで、歩きで一日半、馬車であれば一日かかる距離だ。
しかしバイクであれば数時間で駆け抜けることができる。
加えてこの世界に速度制限はなく、魔力が尽きない限りこのバイクは動き続けることができるのだ。
「これは移動法の革命だぁぁぁぁぁああああ」
速度150キロで道中のモンスターや盗賊をぶっちぎり俺たちは日も暮れないうちに隣町へとたどり着いた。
本来であればここで一泊して、翌日の早朝に出発する手はずであったがあまりに早く着いたため、商人の用事が済み次第帰る予定に変更した。
男が商談などをしてる間、俺は商人ギルドの外で待たせてもらうこととなった。
「そこの君」
「はい、なんでしょうか?」
俺は突然、身ぎれいな男に声を掛けられてバイクにもたれていた体を起こした。
「それはなんだね……いや遺物かな?」
「ええ、そうですよ」
男は興味津々な様子でバイクを見て「少し話さないか?」と言って、俺の横に並んだ。
「実は私、遺物の収集が好きでね。 コレクションはいくつもあるがこんな完璧な物は見たことも無いよ」
「元はスクラップでしたよ。 それを集めて、スキルで直したんです」
「ほうなるほど。 スキルで、か……」
男の視線がバイクから俺に移った。
別に俺のスキルは隠すことでもない。 むしろ察してもらって、この収集家と縁を結びたいと俺は考えていた。
正直大陸に行くには相当の金がかかる。
足代が浮いたとしても、飯、宿など諸々。 故にこのスキルを手に入れた時から、機会があれば収集家に魔改造した遺物を売りたいと考えてはいたのだ。 ただこんなに早くチャンスが巡って来るとは予想外だったけれど。
「乗ってみます?」
「やはり乗り物だったか! ぜひお願いしたい!」
俺は快く男をバイクに乗せた。
乗り方をレクチャーしつつ、商人ギルドの前をゆっくり走るくらいはできるようになると男はバイクを降りると興奮した様子で詰め寄ってきた。
「これは最高だ! どうか売ってもらえなだろうかっ……」
「実は今仕事中でして――」
俺が人を運んでいる上、自分にとっても唯一無二の品なため今すぐは難しいと告げると、男は笑えるほど落ち込んだ様子を見せた。
しかしもし良ければ遺物を一つ、魔改造して使えるようにしようかと提案すると彼は子供のように無邪気に喜ぶのであった。
「あっと、すまない。 名乗りが遅れた、私は――」
「お待たせしましたエクリオさん……ってあれヤマーダ卿?!」
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