#16

 その日の晩にコーチンが所属していたソユーズ音楽事務所のホームページを覗いてみると、トップページ上には「お知らせ」と表して、コーチンの死去を伝えるプレスリリースが掲載されていた。そのリリースのすぐ下方には、コーチンの盗難ギターに関する情報提供を求めるページへのリンクがあった。


 コーチンの死亡告知と盗難ギターの情報提供、そのアンバランスさに違和感を覚えながら情報提供ページへのリンクを辿ると、いきなりコーチンのギターが画面に大きく映し出されて思わず目を背けたくなる。


 そんなことをしなくなって分かっているさ、コーチン。あなたが探しているものは、いま俺の手元にある。


 ギターの情報提供を求めるありきたりの文章とセンセーショナルな懸賞金三百万円の文字を視界に捉えて、さらに目を凝らしてページを漁ると、ギターの情報提供専用の電話番号とメールアドレスが記してあった。


 翌日、会社の昼休みを利用して盗難ギターの情報提供専用ダイヤルへ電話をすると決めた。午前中の業務を上の空でこなしながら、電話の相手と何を話すべきか、ギターを入手した経緯をどこから話すべきなのか、自分の身分はまだ明かさぬほうが良いのでは、など一頻りの思考を巡らせる。


 いつもの優柔不断さが爆発してスマートフォンを手にさんざん悩んだ挙句に、えい、と非通知設定でその番号をコールすると、一コール目で電話は繋がった。


『ただいま留守にしております。ピーという発信音のあとに、あなたのお名前、連絡先を録音して下さい』


 落ち着いた男性の声で留守を知らせるメッセージが流れて、思わず腰砕けになる。メッセージを録音する気などさらさらなく、ピーという発信音を聞きながら通話を終了させた。

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