王と鶏

#10

　幼少の頃からずっと、大事なことはすぐに決められずに先送りする悪い癖が自分にあるのは分かっている。所謂、優柔不断というやつだ。その悪い癖が出て、二階の部屋で静かに横たわるコーチンのギターをどうすべきなのか決められずに、一日が経過した。ネットニュースで報じられたギターの懸賞金の一件は、世間一般的にはそれほどの騒ぎにまでは至ってない様子で、これが現在のコーチンの活動休業から来ているものなのか、いや世間一般の人は古びたギターになんか興味を持たないのか、と思考を巡らせる。

　それでも昔からのコーチンのファンは黙っていられない様子で、コーチンのファンサイトの掲示板を恐る恐る覗いてみると、

「コーチンのギターを盗むなんて、許さん」

「犯人は万死に値する」

「なんてことをしてくれたんだ、あのギターがコーチンのトレードマークなのに」

「オークションサイトのデータを総ざらいして、絶対に見つけ出す」

「全国の中古楽器店に電話をかけまくってギターを探し出そう」

と、熱心なファンは盗んだ犯人の糾弾とギターの捜索に忙しい。

　誰一人として「懸賞金」というキーワードを使わずに書き込みの応酬が行われているのは、清々しいファン精神を気取った結果なのだろう。だが俺は知っている。金に目が眩まない人間なんて、この世にいないということを。