#7

 いつもより早く仕事から家に戻ると、普段は帰りが遅い美咲が珍しく早めの帰宅を果たしていた。


「あれ、こんなに早く帰るなんて珍しいな」


「うん。私、午後の仕事は辞めたから」


「え、介護の仕事を?」


「そう、ボランティアみたいな仕事は、もうおしまい。大金が手に入りそうだから」


 コーチンのギターの懸賞金の件は、もう知っているよ、ということらしい。


 工房AKIRAへコーチンのギターを引き取りに行くのは夕食後、と決めていつもより早い夕食となった。今日の会話の話題はもちろん、あのコーチンのギターだった。


「まさか、こんなことになるとはね。懸賞金を無事にゲットできたら、美咲に感謝しかないよ」


「……私は違うギターを選んだから、関係ないよ」


 美咲はきっちりと否定したが、懸賞金によって大きな利益をもたらしてくれるこの取引は、美咲のバイヤーとしての引きの強さだと、俺は信じて止まない。


「そっか、そうだった……なあ、あのギターを出品した奴って、コーチンからギターを盗んだ本人だと思う?」


「さあ……そんなの知らない」


「俺はなんだか、違う気がするんだ。出品者はコーチンのギターだって、知らなかったんじゃないかな。ひょっとしたらケースの中身をろくに確認もしないで、右から左へ転売しただけだったんじゃないかって思うんだ。出品したものと違うギターを発送したのにも、まだ気付いていない気がする」


「右から左って……迷惑な話」


「あのギターは誰かが盗んで、何かの間違いで出品者の元へやって来て、それが何かの間違いで俺の元へやって来た……どう、このストーリー? コーチンに会ってあのギターを渡す際に、そう説明すればいいかなって」


「コーチンには会えないよ、たぶん……」


「……そうだよな、誰かが代わりに引き取りに来るんだろうな」


「……」


 懸賞金ともう一つ、俺は美咲に感謝しなくてはならない。


 美咲は「会えないよ」とつれないが、俺はすでに憧れのコーチンとの面会の場を頭に想い描いて、気分はすっかり有頂天だ。

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