第2章 オアシスの村

第10話 違和感

「み、」



「水だァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」






まさか水にこんなにも興奮する日が来ようとは。



村に着くなり、ミスタは目を輝かせながら叫んでいた。

オアシス付近の市場では、複数人がこちらを不思議そうに見ていたが、その中にユダの姿を見つけると、ぺこりと頭を下げて去っていった。







「ぁぁあああ!!!!

泳ぎてぇぇぇーーー!!!!!!!!」





ミスタが2度目の歓声を挙げた瞬間。






───ゴッ。




鈍い音を立てながら、腰に激痛が走った。


「……ッ?!」


思わずすごい形相で振り向くと、元凶は思いの他、近くに立っていた。





「……いい加減にして。恥ずかしい……。


あんまり騒いでると喉を裂きますよ。」




先程ミスタの腰に攻撃した片足をぱっぱっ、とはたきつつ、顔を歪ませながらユズリハは言う。






ユズリハは今日の朝からずっと機嫌が悪い。

本人曰く、9時間の睡眠がとれない日はそうだと言っていたが……、




───村に着く前にミスタに礼を述べた、あの時からあからさまに不機嫌な態度をとるようになった気がするのは、考えすぎでは無いはずだ。





暑いからだろうか。彼女の髪はいつの間にか、首辺りで2つに団子結びにされている。

彼女の背丈ぐらいある大きな鎌は刃先に布でカバーがされ、華奢な背中に紐でくくりつけられている。


「……その鎌、重くないか?

俺、持とうか?」



「この子は鎌じゃありません!



……ジュリアちゃんです!!」





「……ぷっ」






「……今、笑いましたか……?」





「い、いや?」





「旅が終わったら絶対ずたずたに斬り殺す……。」





「……旅って結局どんな事するんだ?」





「忘れたんですか?!



……貴方が100人の死を見届けるまで、私はずっと付き合わされるんですよ?!」





「……あ~。

うん、そんな話だったな。」





「無責任。最低。今すぐ死ぬべき。」





「あの~、ユズリハさん?

言い過ぎじゃないかなぁー……」







       ・ ・ ・




(……ずっと見てられるわ~)



ユダはというと、2人の会話に目を細めながら、村人の1人に話しかけていた。



「よっ、久しぶりやね。」



「ユ、ユダ兄さん?帰って来てたんすか?!」



「ん。ちょーど今来たトコ。

で、ばーちゃんは?」



「家にいらっしゃいますけど……。


……今は会わない方がいいっすよ。

理由は分からないけど、今朝はすごくご立腹だったってウワサですから……。」



「あはは。ばーちゃん気難しいヒトやからなぁ~。

まぁ、さっさと会ってちゃちゃっと済ませるわ。」





「まあ、兄さんなら大丈夫かな……、?



───ところで、ずっと気になってたんすけど、後ろの人達は……?」






「あぁ、すっかり忘れとった。

じゃ、紹介するわ~。

こっちの赤い子がミスタ君。

んでこっちの銀の子が

ユズリハちゃん。

よろしくなぁ~。」




「ミ、ミスタ…………?

ミスタって確か……」





名前を呼ばれたのに気づき、ユズリハをからかって遊んでいたミスタは、村人の少年に駆け寄った。






「おう!俺がミスタだ!

えっとお前は……、ま、いっか。

村人君!よろしくな!」





「く、来るな!!人殺し!!」




「へ?」




突然、気弱そうな少年の手のひらから、棘だらけのツタのような植物が飛び出した。



「来るな、来ないでぇぇぇ!!

おねがいしますぅぅぅぅ」



その発言とは裏腹に、手のひらの植物は先制攻撃だとでも言わんばかりにミスタを目掛けて飛んでいく。

少年はコントロールが出来ないようで、まるで植物の方が彼を従えているように見えた。





う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───……


襲われている男、自らの能力(らしきもの)に引きずられている男。

2人の悲鳴が重なる。



オアシスの村には、3回目の大声が響いた。





        ・ ・ ・




薄暗い牢獄では、全身に銀の鎧をまとった看守達が常に囚人を見張っていた。





「───入れ。」



看守の低い声が石造りの壁に反響し、不気味な音を奏でた。






ポチャン……





オアシス付近の地下に立地するからだろうか。乱雑な造りの天井からは、しきりに水が滑り落ちる。






「、おい。

何でこんな急にッ…………」





必死の抵抗も虚しく、ミスタは狭い牢獄の一室に押し込められた。





「……おいッ。

銀髪の、…………。」

「───ユズリハはッ、あの子はどこに居る?

危害を加えてないだろうな」







「……お前と一緒に居た女は別室で事情聴取中だ。


ユダ様が今村長と話をしている。

処分は村長が……。

センカ様が決める。」





厳格な看守は、それ以上の質問は頑として受け付けなかった。








───村人はユダの事を知っていたし、ここがユダの故郷である事は間違いないだろう。


……しかし。



この村がこんなにもミスタを警戒していたなら、どうして教えてくれなかったのだろう。それとも、彼も全く知らなかったのか。






(文明のレベルは俺の集落と何ら変わらないのに……。

なんだこの違和感は……?)








都市から遠く離れた村人の魔力とは到底思えないような、強力なツタを操る少年。



村人の、村長やユダに対する態度。




そして、この牢獄。








───この村は、何かがおかしい。









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