第11話 心境の変化

───数分前。







「今から事情聴取を始める。まずお前の素性について───……」




「…………お腹空いた」






「……は?」





「お腹空いた」





「……あとで残飯でも食っとけ。


それより、まずはお前の経歴をだな……」





「私は死神。都市部の偉い人間をみんな殺して、その地位から引きずり下ろす為の任務(ってアレクは言ってた……)の真っ最中。

今までの任務中に殺した人数は135人。



……これでいい?

早く食べ物を……」
















「…………大量殺人及び国家転覆を目論む反乱分子、1人確保。


牢にぶち込んどけ。」









       ・ ・ ・






「……それでお前もこの牢屋に来たと。


あのさ、お前……。








…………………………馬鹿なのか?」









「……私は正直に答えたまでですが。」







「あのなぁ……それで牢屋に入れられてんじゃ元も子もない……」







ミスタの声をうるさそうに遮り、ユズリハは声を荒らげた。




「……そもそも!!


貴方が大量虐殺なんてしなければこんなことには……!」









───ユズリハは、他人の絶対触れられたくない話題に触れられた時の反応が瞬時に分かるという密かな特技を持っていた。





絶対に知られたくない秘密。

大きな過ちを犯した過去───。


誰でも1つや2つ、そんな物を抱えているものだ。


そんな傷をつつかれた時、人は途端に心を閉ざす。




またやってしまった。

この男との関係を悪化させるのは今後の任務に支障をきたすというのに。


つくづく、自分は空気というものを読むのに長けていない。





少女がちらりと顔を上げると、






今目の前にいる男の表情はまさに、傷に触れられた人間そのものだった。









ポチャン……









ポチャン───……









水の音だけがこだまする。













「……そうだな。」





───怒らない??


自分の発言をあっさりと肯定されたうえに、いつになく真面目な表情で見つめられ、ユズリハは思わず拍子抜けした。








ミスタは目の前の少女をまっすぐ見つめたまま、静かに、丁寧に言葉を紡ぐ。





───理解されなくても良い。


ただ、自分の気持ちを伝えるだけで良いんだ。









「……殺した瞬間の記憶は曖昧だし、なんで俺にそんな力が出せたのかも、正直分からねぇ。



分からねぇけど………。




……俺が村の人を殺したのは、事実だ。頭では覚えてなくても、俺の身体にはその感覚がじっとり残ってる。」






「……砂漠でさまよってた時は、

とにかく死にたくて仕方なかった。

思えば俺は、殺人を言い訳にして、逃げようとしていたんだ。


最低な奴だよな。」





「……でも今は違う。

初めは人の死ぬ姿を見届ける旅だなんて何の意味があるのかって思ってた。だけど、、



正しい『死』とは何なのかを見届ける。

いや、見届けるだけじゃなく、

人々が『正しく』、


……少なくとも俺の集落の様にならないように、


死を向かえる為の手助けをする。


これが俺のすべき償いなんだな。」







ひとしきり喋り終わった後、ミスタは満足そうに笑って、天井を見上げた。












(……馬鹿な人。)



どこまでもおめでたい考えの持ち主で



人を疑う事を知らない。



(この旅にそんな意図はない。


───全ては都市連盟と『死神』との抗争の為の下準備として、貴方は利用されただけ。)



そんな事ぐらいは、世の中の政治に全く興味が無いユズリハでも簡単に想像できた。


……でも、この男は違う。






旅が終わったら───いや、正確には、抗争が始まった時、ミスタに利用価値が見い出せなかったら。





確実に彼は処刑されるだろう。






少女は、自身の下唇を軽く噛む。


(……あくまで、これは任務の一環だから……。

この男の炎の能力に利用価値が無かったら、『死神』側が不利になるからで……。)







ミスタは自分の言葉に対する少女の反応を待っているのか、再びじっと見つめてくる。



ふいに、ユズリハはミスタのわき腹をどん、とつついた。





「……何勝手に自分語りして満足してるんです?」





「……へ?」






「ぼさっとしてないで立つ。


貴方はこのままだと弱すぎて手に負えません。


……私が今日から特別レッスンをします。」





「……牢の中で……?」







「何か文句でも?」







「……ないです」







───言ってしまった。

何も余計な事はするなという命令だったのに。




(……これだから、調子が狂う……)








こうして、地獄の牢獄生活……いや、地獄の特訓生活が幕を開けたのだった。

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