第5話 <100%前編 地雷の綺麗な堕とし方>


昨日はいっぱい泣いていっぱい慰めあった。

その隙間の時間にも色々な出来事があった。

勝手な願いながら、ハラコウから10万を借りた。

もちろんハラコウも真面目な顔で話をして来た。

でも、彼もユウナさんの生まれ変わった姿を見たいと少し共感してくれてた。

あとは、ユウナさんの怪我の治療と服を買いに行き旅行の準備をした。

その時に見せた笑顔はあの頃に見た笑顔とは程遠く、見えないおもりが外れた感じだった。

そして今、僕とユウナは洗面台の鏡で自分を見つめ合っていた。

ユウナさんは、化粧をしないありのままの美しい姿で歯を磨いている。

そのユウナさんの髪を僕は櫛でとかした。

その姿はピンク色だった時の髪型の頃より、今の黒髪でサラサラとした清い姿は謎に感動する。

こんなカノカレみたいな事をしているが、別にまだ付き合っているというわけでもない。

こんなのが現実に無いと思えるものも、僕らネットだけの国から抜け出せてないからかもしれない。

そう鏡を見て思った。

「イッタ」

髪が引っかかり、眠そうな目をしていたユウナさんが目をぱっちり開けた。

「ごめん、痛かった?」

「別に...ずっと黙ってるから...そろそろ出よ。遅れちゃうから」

「そうだね」

最後の準備をしてトランクを閉めた。

僕とユウナはアパートを出た。

まだ薄暗い青空を見て、昨日のことを思い出した。 

隣にはユウナさんとは思えないユウナさんがいた。

もう地雷のファッションを卒業し、大学のミスコンにいそうな美人に生まれ変わっていた。

その姿は生きている意味を見出しているようにも見える。

「行こっか」

「うん」

近くの駅に向かった。

東京駅までの切符を買って、電車を待っていた。

「ユウさん。結局どこに行くの?」

実はまだ行き場所をユウナさんに教えていない。

「さあどこかな?」

「ユウさんって意外と意地悪なんだね。でも、前より話しやすくなって嬉しい」

始発の電車が来た。

電車の席にランダムで座っているサラリーマンの間に僕らは座った。

電車は動き出し、東京駅まで向かって走り出した。

度々駅に止まったりして人の動きを見ながら暇を潰していた。

ユウナさんはウトウトしていた。

20分ぐらいして東京駅に着いた。

新幹線のりばの改札に直行し、ホームで新幹線を待っている。

横にいるユウナさんはなにかソワソワしている。

つま先で立ったり、普通に立ったりを貧乏ゆすりくらいのペースで体全体がソワソワしていた。

ユウナさんが落ち着くことはなく周りをキョロキョロしているところ、新幹線が到着した。

新幹線の中に入り、指定席に着いた。

僕はもう一回行き先をスマホで確認した。

そんなところでユウナさんが喋った。

「ユウさん!そろそろかまってください…確かに私は変わりましたけど、私は私です…ちょっと…寂しいです…」

新幹線の席という隣同士の密着度が高い場面で、ユウナさんの照れた顔と僕の目が合った。

なにか変だ妙に体がおかしい。

僕は一旦周りを見た。

隣の席にはアイマスクをしたおじさんが寝ていた。

後ろと前の通路を見た。

それでもう一回ユウナさんの方を見つめて、一瞬だけのファーストキスをした。

不意打ちだったからなのか、ユウナさんは顔を自分の脚の方にうずくまった。

「…ん゙///はずか…しいぃ…」

ユウナさんが恥ずか死にそうなときに、僕は公共の場で羞恥を晒したことを、今更誰も見ていない空間に謝罪した。

「ごめんなさい。流石にこれはヤバかった…ですよね」

「べ、別に…嬉しかった…ですよ(?)」

ユウナさんの顔が脚の方に向いている中、新幹線が動き始めた。

その後は、場の空気がガラッと変わり色々喋ったり、ご飯を食べたり...空気に馴染め始めた。

そして、一つめの目的地である名古屋駅に着いた。

名古屋で何かをするのかと、そういうわけではなく、ただ乗り換えをするだけなのだが、

「ねえねえ、ここすっごいね!線路がいっぱい...迷っちゃいそうだね(笑)」

とはしゃぎ始めた。

別にそこまで凄いわけではないが、彼女にとっては、こういう小さな環境の変化が心の変化を起こすのだと感じた。

予定ではそろそろ乗り換えの電車が来る頃だったが、ユウカさんの笑顔に僕は負けてしまった。



多分電車を2本ぐらい逃した頃にやっと電車に乗れるようになった。

「ねえユウくん!もうちょっとここに居たかった〜。また来ようよ!」

「また今度な」

なぜか恥ずかしくなった。

電車に乗って、何十駅を越えた所で一旦降りた。

「ねえねえ。今度は何するの??」

「もう一回電車に乗るの」

ユウナさんは「楽しさ」と言う意地装置が永久機関らしく、ずっとテンションが高い。

電車に乗ってる時も、街並み一つ一つ見て楽しんでいた。

僕には少しわからなかった。

でもなぜかその姿が自分の様にも見えた。

また乗り換えた後も、その姿は変わらなかった。

なんやかんやあったが五十鈴川駅に着いた。

今度は乗り換えるなどは無く、ここから観光をする予定だ。

「ユウナさん。ここから歩きますけど大丈夫です?」

「全く平気です!わたし、体力には自信があるので!」

まず予約しておいた旅館まで歩き、ホテルのロビーでささっとチェックインを済ませて、気軽な状態にした。

今の手荷物は、あいつから借りた10万が入ってる財布と携帯、タオル。

あと、懐中電灯。

重かったキャリーケースが無くなり、ちょっとしたストレスも無くなった。

また僕達はまた歩き始めた。

歩いて数分、ユウナさんから声を掛けられた。

「ねえ、ユウ...くん(?)。あの、ありがとね。こんな旅行とかわざわざしてくれて。自分でも驚いてるよ。自分が自分じゃないみたい。」

「いいよ気にしなくて。僕がきめた事出し、なんならユウナさんが来てくれる事に感謝してるくらいですよ」

「...ねえユウくん」

「どうした」

「...」

何か話そうとしてるがユウナさんはなぜか黙ってしまった。

「やっぱ...」

「...?」

「やっぱ楽しいね!」

急なとびっきりの笑顔をぶつけられた。

照れ隠しをしたら、不思議がられた。

いつのまにか目の前の景色が変わり、蔵造りの街並みが視界に映った。

「ねね、あれ何!なんか昔の建物があるよ!!」

「...じゃあブラブラするか!」

「うん!」

次第に互いとの歩く距離が近くなってきた。

周りの景色は心情的に明るく見えて、白色の漆喰や年期が入った黒めの木材も、彩度が上がっていた。

「ねえねえユウくん。このラーメンカップラーメンよりダントツに美味いよ!!」


「ねえねえユウくん。あのお菓子食べてみたい!!」


「ねえねえユウくん。あのコロッケ...


「ねえねえユウくん!...


「ねえねえユウくん!!...


「ねぇユウくん」

「はい」

「もうこの先になにもないよ?隣に神社があるけど...」

いつのまにか自分の楽しんでいた時間は道の長さで終わったらしい。

「神社でも行く?」

「いや、一旦戻ろう」

ユウナさんの提案を無視して「戻る」ことにした。

「行かないのユウくん?」

「いや、大事な事思い出して...ごめん」

「うん...わかった」

朝から続いていたあの元気が薄れてしまった。

でも、僕は思い出してしまったんだ。

思い出してしまったのなら行かなきゃ行けない。

もうそろそろ日が自分の目線の上まで来ていた。

ギリギリかもしれない...

「ねえユウくんどこ行くの?ホテルに戻るの?」

「...」

焦りなども出ていたせいか、無視してしまう事が多かった。

でも大切な事なんだ...

「ユウくん。ホテルここだよ」

「...」



「ねえ!」

心臓に響く声が聞こえた。

「なんでそんなに無視するの!私なんか悪い事した?それともつまんなかった?ねえユウくん。なんで。なんで...」

彼女の目からは涙が出てきていた。

やっぱりまだヤンデレだった。

仕方がない事だ。

彼女だって努力していると思うんだ。

けど僕も悪い事をしてるのは承知の上。

言ってしまったらつまんないし感動ができないと思う。

だから僕は彼女の手を握った。

「ごめん。まだ話せない。けど、話せない程の価値はあると思うんだ」

もうすぐですで着くぐらいの場所ではあった。

目の前には太平洋側の海が広がっており、段差の先には浜辺が広がっていた。

「ここ。ここに来たかったんだ...ねえ、こっちに来て」

まだ、ユウナさんの手を離さないでエスコートした。

浜辺沿いにある少し狭い道を足に海の水で濡らしながら駆け抜けて、多分僕と誰かが知ってる秘密の洞窟に来た。

わざわざ持ってきた懐中電灯で周りを照らした。

その先に見えるのは赤の塗料が剥がされた鳥居。

そしてその奥に穴が空いてるでかくて高い岩と小さい穴が空いてる低く小さい岩を結ぶしめ縄が鳥居に隠れながら遠くに見える。

「ここはね、僕がまだ四歳頃に家族と三重に来た時、浜辺で遊んでたらさ、なぜか自然にここに誘われて来たんだ。そこからは覚えてないんだけどさ。でもね...」

僕は先にある水溜りの中に入って、重い水を掻き分けながら岩の裏まで行き、懐中電灯を岩の方に向けて照らした。

「ユウナ!上を見て!」

そこにあったのは岩の影と光を反射する結晶の集まりだった。

その景色はまるで七夕みたいな天の川と物語。

自分たちはその物語の中に立っているんだ。

それは...

「僕らは多分、奇跡の巡り合わせなんだ。この景色の様に、僕と君は離れ離れで、そしてまた巡り会えたんだ!」

もう一度ユウナさんが居る所まで戻る為に水溜りの中に入った。

重い水を掻き分け苦しながら言った。

「幼稚園の頃。誰もが名前や顔を忘れてるんだと思う。でも見返したらわかったんだ。伊崎 優菜。君がまだ...




次回<100%後編 地雷の綺麗な堕とし方>

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