第6話 <100%後編 地雷の綺麗な堕とし方>
おーい 遊ぼうぜ!
よっしゃ!俺の勝ちぃ
来ないで!!
なんなの!
…
多分僕は仲間外れなんだ
お友達とも馴染めないし、遊んでくれないし...
…
「ねえ、一緒に遊ぼ?」
「...だれ?」
「わたし?わたしね、昨日ここに来たの!」
「僕はいやだ。はなれたほうがいいと思う」
「なんで?」
「僕はここのバイキンだから」
「なんで?」
「なんでって、知らないよそんなの...」
「なん...」
「うるさい!!」
ドン
「う、うぅ...ウェ〜ーーーーん...ウェー〜ーん......」
「あ...あ...」
「なにしてるの君たち!あーもう優菜ちゃん。どうしたの」
…
「ほら、ごめんなさいは」
「...」
「優くん!ちゃんと謝りなさい...はぁ...ねえ優くん。なんで押したりしたの?」
「...だってうるさいんだもん」
「だからと言って押したりするのはダメなの!それは相手を傷つけるんだよ」
「別に僕以外が傷ついても僕は傷つかないから関係ないし...」
「...じゃあ優くん。もし優くんのパパやママが病気になったらどう?」
「...悲しい」
「そう言う事だよ。身近にいる人が傷つくってことは、悲しいってこと」
「...じゃあ、僕はここの中でバイキンなのは、皆んな傷ついていないってこと?なの?」
「...それは...違うよ。君はバイキンじゃないんだよ。その逆。君はお薬で、それを邪魔するのがバイキンなんだよ。でも、それだからだといって逆に傷つけちゃいけないよ。...どう?わかった?」
「...わかった」
「じゃあ、優菜ちゃんに謝って」
「...ごめん...なさい...」
「優菜ちゃん。許してあげて」
「...私は別に怒ってない...ただ痛かっただけ...わたしはただ君とお友達になりたかっただけ」
「...」
「お友達になって欲しい...です...だめ...です...か?」
「...いいよ...お友達になってあげる...」
「ほら、仲直りの握手!」
ギュゥ
「良い子だね!じゃあ部屋に戻るよ!」
…
「ねえユ〜ウくん!あーそぼ!」
「いいよ」
「やったー♪じゃあ、おままごとしよ!」
「...わかった」
「じゃああっちで遊ぼ」
「で、何すればいいの」
「じゃあお姫様ごっこしよ!」
「なにそれ」
「え、君が王子様でわたしがお姫様。あと、結婚してる設定!」
「わかんないよそんなの」
「いいの!ほら、
王子様いつもお疲れ様です。今日はどうされますか?」
…
「ねえ優くん!今日もおままごとしよ!!」
「いいよ!」
「王子様!今日は何をしますか?」
「じゃあ一緒にお料理をしましょう」
「そんな!お料理なんて。あなた様がすることじゃありませんわ!」
「わたしは君のお姫様です。君のためならなんでもしますよ」
「...」
「...」
「は、ははははは」
「ははははは」
「なにそれ(笑)」
「うるさいです(照)」
でも、そんな幸せは続くはずもなかった...
「優菜ちゃん。今日もおままごとしよ!」
「いいよ...その前に!裏の...所に行こ。ちょっと話したい」
「...いい...よ?」
…
「話って」
「あのね、わたしね...名前がね春松 優菜になったの」
「それってどういうこと」
「お父さんが変わったの」
「そうなんだ...」
「わたしね、怖いの。人が変わったみたいでさ、優しくないの」
「それは、怖いね...ねえ僕と一緒に住む?そうすれば怖くないよ」
「それは無理だよ(苦笑)。でも、できるならわたしも一緒に居たいな」
「...」
「あとね、もしかしたらね、わたしね...もうここに来れないかもしれないの...」
「な、なんで!」
「お母さんがね、お酒をねずっと飲んでてね時々わたしを苦しめるの。お父さんも、お金を勝手に使ってるの見ちゃったし...もうここに来れないかも...しれない」
「...ぼ、僕は...君と...離れるのがいや!いや!僕は君といたい。君がいないと死んじゃう...」
「大丈夫だよ優くん。離れるなんてありえないもん!大丈夫だよ、多分大丈夫...大丈夫」
現実は甘くなかった。
休日を挟んだ月曜日、いつも通り幼稚園に行ったが、優菜はいなかった。
その頃は喪失感という感情がまだ薄かったかもしれない。
一時的な鬱が起こったがすぐにいつも通りの生活に戻った。
けどその記憶というのは、生きていく事につれヒビが割れていくように辛いものだった。
だから、その現実から逃げるために自然に忘れていく様にした。
もう、そんな辛い事を思い出したくないから...
でもそれは、心の奥底の中で二度と逢えないと思っていたものと辛さが重なり合った。
捨ててしまった昔のおもちゃと同じだった。
それを拾ったら思い出すだろう。
たまに卒業写真を見ると思い出す事があるだろう。
楽しかったことや、思い出したくない辛い思い出とか...
それを記憶の奥底から出したんだ。
ひとつ。
その一つだけは...
…
「優くん!今日もおままごとしよ!」
「いいよ!」
「じゃあ今日は天使ちゃんと悪魔ちゃん」
「またへんなの(笑)」
「へんじゃないもん!」
「じゃあ、どうすればいいの」
「優くんは...王子様でわたしは王子様を騙す悪魔ちゃんと導く天使ちゃん。最後は物語みたいにキスするの!!
「え」
「じゃあいくよ!...
(左耳)ねえねえ王子様。今日は大事なお姫様を決める日だよ。早く行かないと...
(右耳)なあなあ王子様。そんな事より、今日くらいは休めよ〜。昨日はあんなに戦ったのに休まないなんて...別にお姫様がいなくても他の人がいるんですから〜」
「...ん〜確かに休みたいよね、けど姫も助けたいし...」
「(右耳)そうだそうだ自分を優先しろ!
(左耳)本当にいいんですか?大事な大事なお姫様ですよ!自分の辛さを助けてもらったヒーローですよ」
「...(悩)じゃあ僕は君達二人と結婚するよ!」
「!」
「そうすれば、君達も仲良くなれるし、僕も君達をどちらか一人にすることないもんね!」
「...」
「どうした?」
「なんか違う!」
「えぇ」
「で、でも面白いから続けて!」
「...じゃあ二人とも。これから仲良くする事。独り占めとかそういうのはダメ。たまには悪い事をしてさ、たまにはいい事する。それが.........優菜なんじゃない?」
「なにそれ?どういうこと?」
「えっと...なんとなく」
「まあ、それより料理しよ!」
遊具の隣にある神社のほとりまで移動した。
優菜は葉っぱやどんぐりを集め、優は砂から泥を作った。
「じゃーん!!出来たよ優くん!!」
「それなに」
「これ?サラダ!!」
「いいね!僕はね、パン作った!」
川にありそうな平らでデカい石に泥で模ったパンを作った。
「それと、ジャム」
泥に木の実を入れた特製ジャム。
「なにそれ!!うまそう!!」
「これね、昨日ね、お父さんが作ってくれたもの!フレンチトーストっていうらしいよ」
「どんなものなの?」
「パンを卵で包んで、ジャムをつけて食べるの」
「うまそう!!」
「ぼ…僕ね。大人になったら…」
優菜に平らな石を差し出した。
「君に作ってあげたいな~って...」
「///」
優菜は死ぬほど照れ始めた。
「じゃあ…結婚…約束…してよね…」
「ぼ、僕も君と居たい!」
気付けば二人の距離は視界9割まで入っていた。
その距離はまだ大人の様な性を求める距離ではなく、まだ恋を知らない友愛の距離であった。
秋風が吹いた。
落ち葉とまだ真っ赤な紅葉が舞った時、優の幼稚園帽子が飛ばされた。
優菜はそんな風の様に優のほっぺにキスをした。
…
…名前が変わる前の話。覚えて...ないかな(微笑)」
いつのまにか、知らない間に互いとも目から雫が溢れていた。
「ユウくんって...ユウくんってあの「優」くんなの...」
「思い出せなくて...ごめん」
「わたし...わたし、なんで...」
優菜さんは優の胸らへんまで来た。
そして僕は手を握った。
「ねえ、天使と悪魔の話。覚えてる?」
「『仲良くする事』?」
「うん。優菜はさ、多分環境とかなんとかでさ、今、悪い意味で天使と悪魔が仲良くなっちゃった『堕天使』なんだと思う」
優菜と優。
幼稚園を卒園して、互いに違う道を歩んで行った。
優はそのまま地元の小学校に行き、友達もできて、充実した生活を。
優菜は新しいお父さんができて、一軒家からアパートに引っ越して、地元から離れた小学校に行き、キモがられ、不登校になって、親から暴力を振られ、家出...
それぞれの道を歩いてきた。
そう、夫婦岩の様に、彼・彼女は一度人生から離れ、それぞれの価値観ができ、その価値観がまた共鳴する時、縄が結ばれ、一つの価値観となる。
「だからさ、僕がさ、幸せな堕天使にしてあげたいんだ」
…
日の光が二つの岩と縄の逆光を生み出した。
でもその逆光は、2人を結ぶ影となった。
2人がいる手前に写る影。
それは奇跡的にも、夫婦岩に掛かる縄が糸となり、2人の影を結んでいた。
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